きまやのきまま屋

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泥を書く、もしくは団子のような文章を

先日、吉岡友治さんの『その言葉だと何も言っていないのと同じです!』を読んだ。

その言葉だと何も言っていないのと同じです!

その言葉だと何も言っていないのと同じです!

 

 

すっごいおもしろかった!レトリック・修辞学が好きな人は好きだと思う。ちょっとメタ視点が入りすぎている気がしたけど、実態がないのにはびこっている言葉を解体することで言葉の呪いを解く、みたいな手法なのでこれでいいんだろう。

 

で、貸してくれた夫に「これ面白かった!」と言うと「あー、お前はてなブロガーだもんなー、こういう物言いの最前線におるんやろ?」と言われた…。

なんだろう、偏見のような気もするけど合っている気もする…。場所・場面・相手によるものだよ。私のいる地点はそこそこ安全だし、そもそもこの本ってビジネスマン向けじゃない?会社の方が怖いところなんじゃないかしら。知らんけど。

 

そんな私が「文章を書くこと」についての文章を書いたのでご紹介。ぽえむぽえむするよ。

 

※ 

(誰かが言う。)

 
ここに入れるんだよ。きちんと用意してあるから、心配しないで全部さっぱり入れてしまっていい。ぬるま湯を注いであげるから、自分の手で捏ねなさい。そっと丁寧にね。ふちからこぼさないようにね。
 
 
うまくできないなんて言っちゃ駄目だ。できるはずだ。もっと丁寧に、あるものを全部まとめ上げるだけだよ。手で捏ねていればそのうちまとまるようになるからね、ちょうどいい柔らかさになるまで捏ねて、丸くして。
 
捏ねていれば全てがまとまってくるはずだよ、丸くなるはずだよ。
 
 
(でも私はうまくできない、いつまでも塊はまとまらない。水分と混ざった粉のようなものが指の間にこびりついて取れなくなる。よく見るとそれは粉ではない。ただの泥だ。)
 
 
ぬるま湯を足してあげよう。捏ねていれば全てがまとまってくるはずだよ。きれいな丸にできるはずだよ。
 
 
(この誰かは同じことしか言わない、私を促してくる。捏ねろと、丸めろと、形にしろと。)
 
(目の前にはベタベタした平べったい塊のようなものがあって、手のひらで捏ねても捏ねてもまとまらず、ベタベタし続けている。)
 
 
さあ、もう一度、もう一度。うまくできるまでやるんだよ。形になるまでやるんだよ。まとまれば塊は手放せるようになって、手のひらからは離れるよ。
 

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(でもいつまでたっても私の手のひらで、塊はベタベタし続ける。そして指の間にもベタベタ粘る感触、塊に同化しきれない部分の切れ端がまとわりついて取れない。)
 
これが取れたらきっとうまくいくのに。塊を丸くできるのに。
 
(一生懸命捏ねている。けれどそのうち手は疲れて、手のひらをその塊自体から離せなくなる。手を開けば塊は伸び、指から指へこすりつけてもどこにでもまとわりついて離れない。さっきは、あとは切れ端だけだと思ったのに、もう全体が手のひらにへばりついて離れない。)
 
 
そしてベタベタした塊は乾き始める。手のひらで不恰好なまま、ゆっくり黒くパリパリと乾いていく。そして手のひらの水分が奪われていく。もう取り返しはつかない。
 
できなかった、できなかった。捏ねても形にならなかった。丸くできるはずのものができなかった。形作って手放せるはずのものが手放せなかった。
 
どうしてもこそぎ落とせないベタベタした切れ端が残って全部を駄目にした。こすりつけてもこすりつけても私の手のひらには余分なものが残った。塊は丸くならないままで手のひらは汚れて全部がだめになった。
 
 
(できるはずなのにおかしいな。やり方が悪かったのか丁寧さが足りないのか素質がないのか。それとも最初から材料が間違っていたんだろうか。)
 
 
誰かを見ると私だった。
 
 
私はいつも泥団子を作る夢を見ているような気持ちで、文章を書いている。
それくらい単純ならいいのに。

※ 

 

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