(実は英訳で読んだこともある。あらすじ知ってるし読みやすくてギリ読めた)
最近、「あれが映画化されるから再読した」だけで数記事書けそうと思う。前の記事も。。。『君は永遠にそいつらより若い』も好きだよ!『鳩の撃退法』は積んでます。
さて、『ムーンライト・シャドウ』だ。
あらすじ少し
高校生の頃から付き合っている、さつきと等(ひとし)。等の弟の柊(ひいらぎ)の彼女・ゆみこも交えて、数年間いろいろありつつも、楽しく過ごしていた。けれどある日、ゆみこを乗せた等の車が事故に巻き込まれて二人は死んでしまう。
遺されたさつきと柊は、愚直にそれぞれの落ち込み方や回復方法を模索する。さつきがジョギングをしていると、橋でうららに出会う。
登場人物は3人(または5人)
さつき・主人公。等に鈴をあげた。等が死んでから眠れずにジョギングを始める。
柊・等の弟。兄と彼女をいっぺんに亡くし、彼女のセーラー服を着るようになる。
うらら・さつきが橋で出会った不思議な女性。奇跡を見るためにこの街に来た。
等・さっぱりとした性格で友達と家族思い。どことなく上品なところがある。
ゆみこ・テニスに明け暮れる少女。芯が強くて柊と仲良し、笑顔が可愛い。
さつきと柊の状態
二十歳前後で大事な人を亡くした二人の絶望が、さらっと書かれている。そんなに暗いような描写が多くはないんですが、
夜眠ることがなによりこわかった。というよりは、目覚める時のショックがものすごかった。はっと目覚めて自分の本当にいるところがわかる時の深い闇におびえた。
(P152)
そしてさつきは自分を痛めつけるようにも思える、早朝ジョギングを始めます。
私も柊もこの二ヶ月で、今までしたことのない表情をするようになった。それは失ってしまったものを考えまいと戦う表情だった。ふっと思い出して突然に孤独が押してくる闇の中に立っていると知らず知らずのうちにそういう顔になってしまうのだ。
(P162~163)
柊は、彼女の遺したセーラー服を着て登校して、同情票でモテたりしている。
いつかはここを抜ける日がやってくる、と本能的に知っていながらも、今が辛くてしょうがない!という感じ。事故に対する怒りや、自分の悲劇に酔うのでもなく、淡々と「乗り越えたい、けれどとてもきつい」という描写です。
事故から二ヶ月たった場面から始まるので、本当に悲しんでいた瞬間は過ぎていて、決別と再生の時期、という印象。
闖入者としての、うらら
そこに登場するのが、なんの関係もなさそうに見えるうらら。さつきと橋でばったり会います。ただ、何かを待っている様子。
うららのセリフがいいんですよね。
「風邪はね」(中略)「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえし風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういう、しくみだから。」
(P186)
この物語が、悲劇ではなく再生に焦点を据えていることを、裏付けていく人物です。さつきだけでは心もとなかった、柊は危うい、そんな中で日常をやっとこさ運営していっているところに、強い闖入者として物語を支えてくれる。
けれど、彼女が何も抱えていない、というわけではない。
何かを探しに来ているのだから。
探しているということは、足りないということだ。それが揃わないと前に進みにくくなるような何かが。
うららはまだ橋のところにいた。横顔で川を見ていた。私は、驚いた。彼女が私の前にいた時とは別人の顔をしていたからだ。私は人間のそれほどきびしい表情を見たことがなかった。
(P158)
ところで、全体通して表情の描写が多いですね。これは良い役者さんで映像化したら、とてもよいものになりそう。
ラストのさつきの思想がすばらしい
映画の予告でもメインに取り上げられていますが、最後のさつきがいいんですよね。
ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。
(P200)
ラストの10行がすばらしいんですよ。この10行による読後感に、根強いファンが多いんだと思うんだ。
映画は?キャストがよさそう
予告だけでクるものがある…。
原作と違って、うららと柊がしっかり絡んでいる?というか柊も「月影現象」(原作では「七夕現象」)を見に来るのかな?そしたらセーラー服の奇跡はどうなる?
はー、小松奈々ぜったい良いと思う。
惜しむらくは、けっこう上映館が絞られているため、近所で観たいっていう人はキツイかもしれません。遠い…。
パンフレット情報です!短歌…!?
いよいよ公開『ムーンライト・シャドウ』デザインしてます劇場パンフレット…なのですが、上製本でもはや“本”(スピンやはなぎれも)さらに表紙は金属的光沢の群青色のパール紙を使用。谷川俊太郎さん詩/木下龍也さん岡野大嗣さん短歌の書き下ろし等、ナナロク社さん完全編集の中身も本気の書籍です。 pic.twitter.com/vNbeBsmMVU
— 大島依提亜 (@oshimaidea) 2021年9月9日
吉本ばななさん原作の映画『ムーンライト・シャドウ』の公式パンフレットに短歌を寄稿しました。同じく短歌で岡野大嗣さん、詩で谷川俊太郎さんも寄稿されています。ぜひ劇場で手に入れてください。9月10日(金)公開。カラフルで切なく、胸に残り続ける映画です。https://t.co/wRHGwSpBcN pic.twitter.com/BdTugYe4TR
— 木下龍也 (@kino112) 2021年9月7日
\お知らせ/
— 岡野大嗣 (@kanatsumu) 2021年9月7日
吉本ばななさん原作、小松菜奈さん主演の映画『ムーンライト・シャドウ』@moonlight_sdw の公式パンフレットに短歌を書き下ろしました。映画館でご鑑賞の際にはぜひ。静けさにきらめく音が尾を引いて美しく、一人ひとりの息づかいが印象的に耳に残る映画です。https://t.co/W0L7L4LMw6
収録されている文庫
『ムーンライト・シャドウ』が収録されているのは、この『キッチン』の文庫です。
私が持っているの、平成10年6月初版!今回の引用はすべてこちらのページから。
kindleにもなってます。
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