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吉本ばなな『キッチン』を再読したので読書感想文

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吉本ばなな『キッチン』

角川文庫で出ています、吉本ばなな『キッチン』。

裏表紙には「世界二十五国で翻訳され」と書いてあります。2020年、もしかしたら増えてるかもしれないですね。それくらい世界的なベストセラーです。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

 

1987年に、この『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞。吉本ばななのデビュー作になります。

 

文庫には『キッチン』『満月  キッチン2』『ムーンライト・シャドウ』の3作品が収録されていて、『ムーンライト・シャドウ』は1988年に泉鏡花文学賞を受賞しています。

まとめて読める文庫、お得!

 

ここでは『キッチン』と『満月  キッチン2』について。

ちなみに読むのはたぶん3回目くらいかと思います。初読は10代でした。 

あらすじ

「キッチン」

主人公・「みかげ」がたった一人の肉親であった祖母を亡くして数日たったところから、物語が始まる。

天涯孤独になって、何をしていいのか分からなくて自宅のキッチンで眠っていたみかげを迎えに来たのは、祖母の友達だった「田辺くん」。

田辺くんはみかげと同じ大学に通っていて、近所に母親と二人暮らし。「しばらくうちに来ませんか」と誘ってくれる。みかげは居場所を田辺家のソファと、キッチンに移動する。

田辺くんの母親は、実は父親だったけど(!?)、それでも「台所があり、植物がいて、同じ屋根の下には人がいて、静かで……ベストだった。ここは、ベストだ。(P24)」と思うみかげが、自分(と祖母)の家を片付け、「少しずつ、心に光や風が入ってくることが、とても嬉しい。(P31)」と、ゆっくりと回復して、また世界に出ていくまでのひととき。

 

「満月」

田辺家を出たみかげは、大学をやめ、台所好きを生かして料理人に弟子入りして忙しく働いていた。そこに悲しい訃報が飛び込んで……。

※「満月」に関しては最初を書いてしまうとネタバレになるので、あらすじは少なめで。 

感想、注目したところ

みかげが天涯孤独の身になった時点から始まるので、最初からうすら寂しい話。その孤独の美しさを描いた話だと思った。

祖母との暮らしを過去として振り返る視点が、この話の真骨頂なのでは。

 

けれど祖母の縁で田辺くんが気にかけてくれたり、その母親であるえり子さんが優しくしてくれたり。

身内はいないけど友達はいて、ぼんやりと守られている中で、気持ちの整理をつける。人が「立ち直る」過程の雰囲気が良く出ている。

 

自分が悲しんでいることを認めて、受け入れてから乗り越えて、という過程を若い人が一生懸命たどっていく姿には、力強さを感じた。

あと、意外になんでもないようなことが大切だということ。

 

なんにせよ、言葉にしようとすると消えてしまう淡い感動を私は胸にしまう。(P59)

こうやって「淡い感動」を覚えていられるうちは、人は大丈夫。みかげはそれを大切にできるので、ゆっくりでも着実に回復していくことができる。

孤独がその身から離れることはないけれど。

 

えり子さんがみかげにかける言葉がよかった。

人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃう(P60)

絶望は無駄ではなく、「本当に楽しいことを知る」ための糧にもなる、ということ。

みかげみたいに若い人には残酷なようで、明らかな救いにもなる真理だと思った。 

 

(ここからは「満月」について) 

そしてみかげには料理があった。無類の台所好きで、料理をしていれば、みかげは「楽しい」。

楽しいのが何よりだよね、それはえり子さんの言っていたことに通じる選択だ。

みかげは思う。

幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。(P82) 

自分が孤独だ、ということが世界の真実。それを直視しないでいられることが「幸福」だとみかげは感じている。

けれど

私はそうして楽しいことを知ってしまい、もう戻れない。(P83)  

本当に楽しいことを知ってしまったら、戻れないし、実は戻る気もない。そうしてみかげは料理を続ける。

このあたりのみかげの気の強さが、こういう子いるよね、とニヤリとしてしまう。

 

そして、「キッチン」でみかげがくぐり抜けた色々を、田辺くんも体験することになる。過程をなぞる。でも田辺くんは一人ではうまくできない。

 

人は状況や外からの力に屈するんじゃない、内から負けがこんでくるんだわ。 (P127)

と気づくみかげと、傷心の田辺くんにはこれからごたごたがあるけれど、それを救ってくれるのもご飯でした。カツ丼です。かなりカツ丼が食べたくなる場面があります!

 

P134でカツ丼を抱えたみかげが気づいたことには、心底ハッとさせられる。(10代の頃の私はここに感銘を受けたようで、鉛筆で線がひいてありました)

 

波乱万丈だけど静かで、運命には抗えないけど決して負けはしない、そういうお話。 

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

 

 

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