第153回の芥川賞
今更ですが、第153回の芥川賞について色々書いてみたいと思います。
あの時の候補作は
内村薫風 『ΜとΣ』 (新潮3月号)
島本理生 『夏の裁断』 (文學界6月号)
高橋弘希 『朝顔の日』 (新潮6月号)
滝口悠生 『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』 (新潮5月号)
羽田圭介 『スクラップ・アンド・ビルド』 (文學界3月号)
又吉直樹 『火花』 (文學界2月号)
というラインナップ。お、濃いね!
ご存知の通り『火花』と『スクラップ・アンド・ビルド』のW受賞で又吉さん超売れっ子に、そして羽田さんもなぜかバラエティ番組に多数出演されるようになり、かなり盛り上がった回でしたね。
ちなみに、同時に選考が行われた直木賞を獲った東山彰良さん、福岡の方なので地元番組にけっこう出るようになってます。教授だし上品かつ話の引き出しが多いので、いい感じのコメンテーターと化しています。こちらも売れ行き良いみたい。(手元にあるけどまだ積んでる…)
この芥川賞候補作6作品中4作品を読んで、思うところを書いていきます。
私情が入り過ぎて主に島本理生さんの話をします!ユヤタンも好きだから私!
島本理生の軌跡
ただね、私思うに島本さんはそんなに怒ってるとか、新人の芸人が獲ってイラつくとかそういう意味ではない、と感じています。
だってね、島本さんの扱いが、ずーっとちょっとひどい。
合計何回候補になったのかな?まず最初に2作目『リトル・バイ・リトル』で早々と芥川賞候補作に。この時(2003年)まだ現役高校だったので、なんやかんやうるさかったと思います。
この作品で野間文芸新人賞を最年少受賞してます。
で、『生まれる森』と『大きな熊が来る前に、おやすみ。』も続けて芥川龍之介賞候補になって。でも受賞はなくて。
その後に書いた何冊かは、候補作にもならなくなって。売り上げ自体はどんどん伸びてファンは増えている印象なのにも関わらず。売れっ子は軽く見るところがあるからな…。
そんな中で2011年に『アンダスタンド・メイビー』で、直木賞候補作に飛ばされるという…。まあエンタメ寄りな仕上がりではあるんだけど。
で、これでも受賞なし。力作だし面白かったんだけどなー。
そしてまた2005年になって『夏の裁断』で芥川賞候補作に返り咲き。
戻したからには獲るんじゃないの?って、思ったと思うんですよね心情的に!私は思いましたよ!
けれど、受賞せず。
ね、こんだけ振り回されたら、キレるでしょう。若い頃からずーっと候補候補言われてて、女性恋愛小説のカリスマと呼ばれていながら。12年間も振り回しておきながらくれないのかよ、しかもあっち行ったりこっち行ったり。
別にどっちの賞ももらわなくても、専業作家としてしっかりした地位は築けている現状で。
「じゃあもうこっちには呼ばないで!最近はエンタメ多いからハナから期待してないし!」って、言いたくもなると思いますよ。うん。
私は島本さんの恋愛小説なら『よだかの片思い』がベスト。(売れていなさそう)
読んだ4作品
島本理生『夏の裁断』読了。後半は裁断あんまり関係なくなりつつ、その分文章に余白と読者への裏切りがあって、嘘によって本質に近づく仕組み。身を削る献身・振り回されることに「意味はない」「洗脳と一緒」、なかなか痛い恋愛話で短いのに迫力あったな。こういうのも書けるのかー。
— きまや (@kimaya4125) 2015年10月3日
高校生の時から振り回されてきて、これで獲れないならもういらんね、確かに。
— きまや (@kimaya4125) 2015年10月3日
詰め込みすぎて意味が分からなくなることでこちら側にだけ勝手に余白が生まれることがあるんだな、と『火花』を読んで思った。
— きまや (@kimaya4125) 2015年10月4日
又吉直樹『火花』読了。二人の濃い会話はピンとこない点もあったけど、対面で話すことのリアルさ。いちいち面白いのに真面目で悲哀を感じたり。詰め込むことでこちら側に勝手に生まれる咀嚼できなさ。純文学の圧倒的な読書量が背後にあるねぇ。
— きまや (@kimaya4125) 2015年10月6日
滝口悠生『ジミ・ヘンドリクス・エクスペリエンス』読了。いくつかの場面(高校時代とそれ以降、旅先の事故、旅先のアーケード)を行ったり来たりする。本来濃度が濃いものをわざと断片的に見せられている感じが丁寧に狂ってていいかも。
— きまや (@kimaya4125) 2015年10月22日
羽田圭介『スクラップ・アンド・ビルド』読了。間違った方向にお祖父ちゃん思いの青年と介護と筋トレの話。ただ、本人の幸せという観点もあるし記憶の改竄もややこしくて、単に長寿ってだけで喜べないところは現実味がある…。生き甲斐がないと駄目なんやな。
— きまや (@kimaya4125) 2016年1月10日
とりあえず両方のおばあちゃんに電話しようって思った!
— きまや (@kimaya4125) 2016年1月10日
総評
羽田さんは前作の『メタモルフォシス 』がすごい濃いSMの話で、そのあとにこれかよ、っていう幅広さを含めて考えると、受賞も頷ける感じですね。
『火花』は、早い気はするけど、力作だもんで…『夏の裁断』は本当に、相手が悪かったなとしか言えない。このラインナップじゃなければ獲っていた気がする。
豊崎由美さんも佐々木敦さんも、『夏の裁断』褒めてたし。
うん、残念と言えば残念だけど、島本さんにはそのままで頑張っていただきたいです。いつか直木賞獲るのかもしれないけどもう獲らなくてもいいよ。
でもたまに説明過剰な文章が見受けられるので、編集者選びはしっかりね!
内村薫風 『ΜとΣ』 と高橋弘希 『朝顔の日』は、知らない作家さんだったこともあって未読です。
フォロワーさんが『MとΣ』が変わってて面白いって言っていたので、気になっています。
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