きまやのきまま屋

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【芥川賞作家】町屋良平の全作品を解説します

(2021/10 更新)

今更かも?と思いつつ、せっせと書いたので公開します。2019年から私がドはまりしている町屋良平を、全作品解説させてください。

デビュー作以前のものは把握してません…色々書かれていたようです。

それではどうぞ!

青が破れる 

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/05
  • メディア: 文庫
 

あらすじ…主人公の秋吉はボクサー志望。友人のハルオの彼女とう子は難病でもうすぐ死んでしまう。おれの彼女の夏澄には夫と息子がいる。夏澄はおれのことを好きではないが会っていて、とう子はハルオに会おうとしなくなる。後輩の梅生をみんなに紹介する。おれはボクシングをする。

 

(文庫の概要)

  • 青が破れる
  • 脱皮ボーイ
  • 読書
  • <特別収録>マキヒロチ マンガ『青が破れる』
  • <特別対談>尾崎世界観 表現者は動き続ける 

 

『青が破れる』で町屋良平を初めて読んで、

ひらがながおおい

と思いました!

 

でもそれが嫌でもなくて、この雰囲気を作るために必然の平仮名なのか…?いや、それにしても多いぞ…?と戸惑ったものです。でも、嫌ではなかった。 

 

『青が破れる』は、小説としてはあっさりしているかも?

波瀾万丈のあらすじがある、というわけではなく、死ぬ者は死に、残された者は生き、そうやって別れるまでみんなで仲良くしている時の風景をたんたんと描写していく感じ。

過ぎていくものへ対して視線を送っていて、さらっとしている感じもありつつ、冷たくはない。人はよく死ぬ。文章はゆるめ。

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: Kindle版
 

初版(単行本)は2016年11月。第53回文藝賞を受賞した、デビュー作『青が破れる』は、三島由紀夫賞の候補にもなりました。

 

その他に短編2つを加え、単行本に。

文庫には特別収録でマキヒロチさんの『青が破れる』の漫画(この漫画が、文庫版の表紙になってます)と、

尾崎世界観との対談、が収録されている!豪華!!

その他2作は、けっこう異色な短編です。『脱皮ボーイ』けっこう好き。

しき 

しき (河出文庫)

しき (河出文庫)

 

あらすじ…登場人物は高校生たち。巷の話題(恋愛とかテレビとかスクールカースト)にあまり興味がない男子3人と女子3人。ゆるーく関わりながら、それぞれ家のことで悩んだり、やきもきしたり。そして男子チーム・星野と草野は夜の公園で「踊ってみた」を始める。

 

ダンスものと言ってもいいのかもしれない?「踊ってみた」文学。でも、どのように踊るのかというと 

そうか、われわれも、音楽のために踊っているのだ。

音楽がたのしいから。音楽を表現しているのであって、じぶんを表現しているのではない。しかし愚直に音楽を表現してはじめてであえる「じぶん」もいる。

『しき』P32  

なんだか達観していて、でも素直で、とても面白いと思いません?

 

そしてそこに、異端者として川原の友人「つくも」が混ざって星野が混乱し…。草野は転校生で、阿波踊り経験者でもあって、前にいた地域のヤンキー(阿波踊りになると光り輝くひきこもり)との手紙の交流もあるんですよね。

こういう、色々な関わり方のゆるい友達が、かれらの人格に少しずつ影響を与えていることが分かる。

 

特に大きな事件があるわけではないんですが、良い読後感です。タイトル通りに巡っていく。

 

初版は2018年7月。第159回芥川賞候補作。文庫解説は、長嶋有!

とある書評家の方がおっしゃっていたのが、「ちょっとポエムっぽすぎると感じる人が多いかもしれない。最初の3行で拒否反応が出なければ読み通せる」とのこと。

 

私はイケました、むしろ好き! 心配な方はkindleのサンプルダウンロードで様子を見てください。 

しき (河出文庫)

しき (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2021/01/15
  • メディア: Kindle版
 

1R1分34秒 

f:id:kimaya:20210323173907j:image

2019年1月。第160回芥川賞受賞作! 

 

あらすじ…ボクシングをやっている僕は試合相手に感情移入しすぎて負けやすい。彼女がいるけど彼女には彼氏がいて、友達は一人だけ。友達は僕を映像に撮り続ける。トレーナーにはタメ口をきく。ボクシングの練習は、つらい。減量がつらい。

 

『青が破れる』と同じく、ボクサーが主人公。同じ人ではなく、こちらはプロなので試合中の描写がしっかりあります。初めから終わりまで、しっかりボクシングしてます。

 

体を操ることにこだわりがあるっぽい町屋さん。

慣れればダンスみたいにしぜんに動けるから。

p51

鬱屈した青春系、と言っていいかも。デビュー作で書き忘れていたことを集めた感じですかね。

 

受賞作ではあるんだけど、これから入ると読みにくいかも、と思います。でも『しき』のポエミーさが苦手だった人にはいい?

言語化できる地獄に地獄はない。

p132

 

減量の緊迫感と、終わり方が見事!

1R1分34秒

1R1分34秒

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/01/25
  • メディア: Kindle版

ぼくはきっとやさしい 

ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 単行本
 

2019年2月。長編。 

あらすじ…メンヘラ系男子が日記を書きながら恋をしたり旅をしたりする

 

友達と弟のキャラがいいし、ミニマリストやブロガーが出てきて、現代を切り取っているなぁと思う作品です。

 

が、意外に売れていない印象です。主人公がナヨいからか…いや、町屋作品ではこれくらいが普通じゃない?むしろ毎回水没してくれるから面白くない?

 

結果として、これは詩でした。

夏の終わる風のにおいがして、ぼくはようやく、なにかをいわなければ感情はなにひとつつたわらないんだ、ということをおもいだした。

『ぼくはきっとやさしい』p15  

このまま真摯に文章を書いてゆけば、日記がぼくよりぼくになるんだよ。日記のほうがにんげんに近くなる。文章のほうがぼくよりもぼくになる。

『ぼくはきっとやさしい』p30   

愛が嫌い 

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2019年6月。中編集。

  • しずけさ
  • 愛が嫌い
  • 生きるからだ 

これ、読み返すたびにどの作品が心にしみるか変わりがちです。

初読の時は「愛が嫌い」をほめるツイートをしたみたいですが、再読した今は「しずけさ」に痺れています。

 

第10回Twitter文学賞で、私の一票をささげました。当時の記事はこちら→Twitter文学賞 2020年、第10回(終わらないらしいよ、やったね!)

派手さはないものの、良い! 弱い人の日常系。

 

元気だけど社会的に弱い子どもと、疲れ果てて休養中のニート(「しずけさ」)

友達の幼児を預かる日常がけっこう好きなフリーター(表題作「愛がきらい」)

記憶をなくした会社員のゲーム実況と、本当の家に居つけないルームメイト(「生きるからだ」)

 

…この一冊通して主人公たちは弱っている感じなので、弱っている時に読むとホッとするかもしれません。メンタルクリニックへ行く時の心構えも分かる!

椚くんは、それもなにか違う、とおもいながら喋っていた。しんじつに迫ろうという気もちが、とてもきつい。だれもがつかうような定型表現や、懐古的な常套句に頼ってしまいたい。

『愛が嫌い』p48「しずけさ」 

「忙しいひとはいやだな…………。こっちまで辛くなる。忙しいひとは忙しいひと同士でしか憩えないし。結果どんどん忙しくなってゆく」 ぼくはこういうときばかり本心をいう。(中略)心底から常々考えていることを他人にいうことは、現実逃避の最たる方法か?

『愛が嫌い』p156「愛が嫌い」  

「生活がたのしいけど、生活に閉じこめられて、生活を膨らませるのはできても、たまには生活の外にでるべきだった」

『愛が嫌い』p203「生きるからだ」

(ページ数は単行本)

愛が嫌い

愛が嫌い

ショパンゾンビ・コンテスタント 

ショパンゾンビ・コンテスタント

ショパンゾンビ・コンテスタント

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Kindle版
 

おれは音楽の、お前は文学のひかりを浴びて、腐ろう。ゾンビになろう。   (帯文)

少し前までボクシングものが異彩を放っていたところ、音楽と文学がきましたよ!!!(『しき』でもピアノの発表会はありました)

再読したらあまりによかったので、記事を書きました。なんの感想にもなっていませんが。

kimaya.hatenablog.com

2019年10月。長編。 

 

これで、町屋良平が2019年にたくさん出版しすぎ問題にいちおうの終止符が打たれます。一年でこんなに濃いものを4作も… !

 

坂下あたると、しじょうの宇宙 

坂下あたると、しじょうの宇宙 (集英社文芸単行本)

坂下あたると、しじょうの宇宙 (集英社文芸単行本)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: Kindle版
 

2020年2月。長編。

町屋良平を読みながら「これもう詩じゃん」と言っていたら本当に詩をテーマにしてきた一冊。

 

あらすじ…主人公・毅と友人・あたるは小学校が一緒で、高校で再会してつるむようになった。あたるは人付き合いが苦手なキャラだけど、詩や小説や批評まで書いたりする天才文学者の卵。ネットに文章を発表したり、新人賞の最終候補に残ったりする。その周りをフラフラしながら毅も詩を書き始める。

 

日々いっしょに遊んでいて、坂下あたるの「あえて語らなかった」あるいは「語りこぼした」ことばの集合でできている。あたるのことばの結晶化を逃れたもの、ダイヤモンドの削りかすみたいなのを、おれが拾い集めてできているのが、おれの詩だ。

P9 

自分のオリジナリティに不安を覚えつつ、新しい世界を覗き見る毅。そこにあたるの彼女・さとかちゃん、さとかちゃんの友達・蕾、文章投稿サイトの創設者などが絡んできて、一波乱。

 

びっくりなのは、この文脈でAIが登場するところです。泥くさい青春&現代詩をやっているのに、急にサイバー。よくここに絡めたね?と思います。

蕾ちゃん(口が悪い)が詩を朗読するところが好きです。あと、あたるは途中で失語してしまうのですが、失語の前に彼の世界観が表出する5ページにわたる長台詞がいいです。

ようするに愛は三角形で、お互いにひたすらむきあうのではなく、頂点にいるものをふたりでみて、反射するものをいつくしむことが愛だ!

P36



みんなのつぶやき文学賞で、2020年第10位になりましたね!

第1回(2020年)つぶやき文学賞|国内篇受賞作一覧 | みんなのつぶやき文学賞公式サイト

冒険の記録 

冒険の記録

冒険の記録

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: Kindle版

「かれ」とその幼なじみ、ふたりの過ごした時間に重ねられる僧侶と勇者という役割。そして言語と魔法、勇者と魔王の同一性。本作は反青春小説あるいはポスト青春小説の試みである。町屋良平初の電子書籍書き下ろし。 

Amazon 商品説明より 

カオスな商品説明!

こちら、kindleでしか読めない作品です。かなり短編。400字詰め原稿用紙換算約24枚だそうです。それが280円。

 

のちの作品の前触れみたいな、坂下あたる再来みたいな設定もありながら、ファンタジーに足突っ込んでいるのに情緒。もうね、ミラクルよ。

 

幼なじみの少年が勇者になって、自分は僧侶になって勇者を描写しながらボルヘスを読むけど挫折するの。コルサタルにも挫折した頃には、自分も攻撃魔法が使えるようになってるの。ねぇ、この世界どこ???

 

勇者がそれを眺め、「おまえ、ひかってるぞ」という。

「そりゃ、ひかりもするよ」

なんでひかるの?

「おまえのことを、理解できそうだからだよ」

(本文と同じ箇所を太線にしています)

 

数ページでトベるのでおすすめです。 

ふたりでちょうど200% 

ふたりでちょうど200%

ふたりでちょうど200%

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/11/03
  • メディア: 単行本
 

2020年11月。連作、というにも感覚がヘンな短編集。発売前に全タイトル見て爆笑しました。

  • 「カタストロフ」
  • 「このパーティー気質がとうとい」
  • 「ホモ・ソーシャルクラッカーを鳴らせよ」
  • 「死亡のメソッド」(書き下ろし)

こんなタイトルで、主題をずらしながら繰り返すんです。連作短編集って言わないかもしれない。

男性2人が、友達だったりアンチだったりしながら交流したりしなかったり。。。重ねていくから情緒が大変なことに。

 

あと、これはライターさんは読んだ方がいいと思います。終わり方に注目。



ほんのこの場

シリーズ連作? 文芸誌『群像』で連載中!

Twitterで告知をしてくださるタイプの作家さんなのでありがたい。

群像 2021年 04 月号 [雑誌]

群像 2021年 04 月号 [雑誌]

  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 雑誌
 

 

新作が出たら追記していきたいと思います。群像と文學界と新潮に、載りっぱなしで単行本化されていない作品があるような(2021年4月現在)

 

四半世紀ノスタルジー

これに短編が載っています。『四半世紀ノスタルジー』というタイトル。

25の短編小説 (朝日文庫)

25の短編小説 (朝日文庫)

  • 発売日: 2020/09/07
  • メディア: 文庫
 

他の作家さんはコロナ禍の話題にしておられる方が多いんですが(金原ひとみと津村記久子がよかった!)、『四半世紀ノスタルジー』はコロナ禍関係なく、とあるカップルの話でした。DV描写が怖かったです…

 

「幾ちゃんはいい子だよ」

「いや、すごい、もっと、いまとは違うのよ。ぜんぜん」

「そんなのどうでもいいことだ。皆いい子はいい子だよ。殴るほうがわるくて、殴られるほうはわるくない」

「そんなのわかってるけど」

「わかってない。きみはわかってないんだよ。自分たちはわるくなかったってことが。おれたちがわるかったことをほんとうにはわかっていないことが、ほんとうにどれほどわるいかも、わかってないんだ」

p427『四半世紀ノスタルジー』

 

パンデミック日記

こちらでは、1月8日から14日の日記を書いています(2020年の話)。二番目に出てきたのでびっくり。この時はせっせと小説を推敲しているようでした。

 

新作情報!「ほんのこども」

群像に載ったぶんが一冊にまとまるようです。上記10に書いた「ほんのこの場」も入るっぽい?

タイトルは『ほんのこども』で決定。11月発売!

www.hanmoto.com

 

文庫解説

wikiに載っていない系の話をすると、私が把握しているのは文庫解説(他にもあるかも) 

物語のなかとそと (朝日文庫)

物語のなかとそと (朝日文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
 
適切な世界の適切ならざる私 (ちくま文庫)

適切な世界の適切ならざる私 (ちくま文庫)

  • 作者:文月悠光
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: Kindle版
 

などです! 

 

作家の読書道 第210回:町屋良平さん - 作家の読書道

 

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