今回読んだのは、こちら。
「ネガティブ・ケイパビリティ」「ネガティヴケイパビリティ」など、いくつか表記が違いつつ既に何冊か本が出ているのですが、多分同じ概念のことを言っていると思います。
その中でも、作家さんが好きでこの一冊を選びました。
帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)!
帚木蓬生ってこんな人(私見)
福岡出身の作家さんで、精神科医でもある人。福岡でメンタルクリニックを開業されています。(本にも出てきました)
小説は、たまに当たりはずれはあるものの、すらっと突飛なことを言い出すので「頭いい人なんだろうな~」という印象です。
だってそもそも、東京大学の文学部出身でいらっしゃるんですよね。でも結婚相手の一族が医者ばかりなので「惚れた女と結婚するために医学部に入り直して(ここで九州大学)、医者になった」作家さんなんですよ。え、すごくないか。
それでいて、けっこう田舎の方でご自分で開業して人気者になっているという…現場にいらっしゃるんですよ。
ネガティブ・ケイパビリティとは
では、ネガティブ・ケイパビリティとは何なのか?
併読して『ケアの倫理とエンパワメント』を読んでいるのですが、そこにも出てきました。
こちらでは
「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、相手の気持ちや感情に寄り添いながらも、分かった気にならない「宙づり」の状態、つまり不確かさや疑いのなかにいられる能力である。P18
と定義されています。
帚木蓬生の方では、副タイトル通りに「答えの出ない事態に耐える力」ですね。本文中では、
不可思議さ、神秘、疑念をそのまま持ち続け、性急な事実や理由を求めないという態度です。P58
とされています。
ロマン派詩人・キーツが生み出した言葉で、それを後の精神科医・ビオンが発見して世に広めた様子など、帚木蓬生の本の方がしっかり詳しいです。(前者はケアの本だし)
「仕事と私どっちが大事なの?」とか「そんな態度でやる気あるのか!」とか「どうせ俺はもう駄目なんだ」とか…、「結局いくら払えばいいんだよ」とか「○してやる」とか「○ね」、じゃなくて…
性急な事実確定に走ろうとせず、「そういうこともあるよね」「そういう時期も必要かもね」「あなたも私も大変だよね」と
状態をキープして好転を待つ、という態度のことだと私は受け取っています。
疑う心やハッキリしないモヤモヤを抱えつつ。持ちこたえる。
上記のような態度を保つことで、色々なひとが様々なことを乗り越えてきた実例が書かれた本でした。
「もういやだ!」とキレてたらたどり着けなかったこと。疑念を抱えながらでもコツコツ手を動かしたから成し遂げられたこと。
『源氏物語』の話、なかなか味わい深かったです。
この本に書かれていて面白かったこと
内容が多岐にわたるので、詩人・キーツのちょっと悲運な人生から、メンタルクリニックにいる犬の話、紫式部のこと、不登校の子どもたち、教育についてなど幅広かったのですが、心に残った点をご紹介。
私が面白いと思ったのは、「日薬」と「目薬」の話でした。
「日薬」はいわゆる「日にち薬」のことですね。あまり一般的な語ではないかもですが、関西ではよく使うらしい。私はリアルで二回くらい聞いたことがあります。
「日にち薬」はどこの言葉? 全国区の知名度と、現代人に響くわけ:朝日新聞デジタル
ただ待つ、時間を稼ぐ、という行為は、無為ではない、と。
コスパにこだわる人からしたら時間の無駄かもしれないけれど、弱っている時にはいいんじゃないでしょうかね。
そしてもう一つ、「目薬」。これは普通の意味ではなくて。
人は誰でも、見守る目や他人の理解のないところでは、苦難に耐えきれません。誰かからの、あなたの苦しみはよく分かっている、あなたの奮闘ぶりもよく知っているというメッセージが伝わると、病人は持ちこたえられ、苦難を乗り越えられる P116
知っているよ、見ているよ、という他人からの視線が力になるということ。
それは「孤独ではない」に一番近いアクセスなんじゃないだろうかと思うのです。
同時に、人がよく言う「人に会って話をすると気が楽になる」という言説も、「知ってもらう」契機になるからなのかな、と思いました。
メンタルクリニックに通う理由、でもあるかもね。
人が人にお守りを買う理由でもあるようです。あなたのことを思い出したよ、これは思い出したことを伝えるための具現だよ、かみさまにだって繋がっているよ、と。
本書ではここからプラセボの話に繋がって、それも面白かったです。
白黒はっきりつけたくなっちゃう自分に疲れたら、ぜひぜひおすすめです。
グレーゾーンで耐えられる人が一番つよいんだ。
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