2020下半期の読了本は、97冊でした。
10選に絞れなかったあげくに、プラスアルファで何冊か紹介したいと思います。「2020下半期に読んだ」なので古い本を含みます。
新作のベストが知りたい方は目次で飛んでね!
フィクション 国内
だまされ屋さん
これ、もっと有名になってていい作品だと思うんですが、星野智幸の新作『だまされ屋さん』。
ある日、気持ちは元気なお婆ちゃん(子供たちとうまくいっておらず独居)のもとに、娘の婚約者と名乗る男が現れる。しかしどう考えても怪しい。娘に聞いてみたいけど電話するの怖い。そうだ息子もここ数年口きいてくれなくなったけど、嫁ならまだメールは返してくれるから連絡してみよう。。。
なぜ、母親はここまで嫌われているのか?
そして兄妹もぎくしゃくし、いがみ合っているのはなぜか?
また、妹家族(母子家庭)に現れたもう一人の人物にも謎が多くて。
のように、あらすじだけだと狭いせせこましい家族モノみたいなんですけど、星野智幸なので!
要は、閉塞状態をどう打破するのか、ということ。
「正義の元に追い詰めて支配する男」
「正論ばっかり言っちゃってパートナーに嫌われる女」
「ソシャゲするしか救いのない男(課金で借金)」
「連携できる人、できない人」
など現代風な闇から、家族ごとコロッと救い出してくれます。変な方法で。
細かい言い争いや話し合いの描写が悲しいところもあるけれど、なぜ母は毒親になるのかなども考えつつ読むと大変楽しい!
ラストの参考文献一覧が、本気でした。
論文を書いてもいいところ、小説家だから小説になっちゃいました、みたいな一冊です。
サキの忘れ物
津村記久子の新作『サキの忘れ物』、短編集。
こちらは、、、ハートウォーミングなのかもしれない。表題作は、軽めのネグレクトをされている女の子が読書に目覚める話。よかった。
私は「王国」のラストの目線がグッときました。幼稚園児目線から、まさかあんなことに。
で、ラジオが好きなら絶対この話好きだろっていう「喫茶店の周波数」、ただただ並ぶ現代社会からはみ出せない「行列」、私も無職で歩哨になりたい「河川敷のガゼル」、あとなぜかゲームブック。
…芥川賞作家の小説にゲームブックってついてるものでしたっけ?
おすすめです。読んで。
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名もなき王国
これ二年前なんだけど、2020年新作の『あがない』よりこっちの方が好みだったので!
『あがない』は再生モノ。サイコパスも出てくるよ。同世代なので身につまされました。
『名もなき王国』は、作中作がこんがらがっていく話で、とても私の好みでした。
古いお屋敷、おぼろげな記憶、塔のイメージ、ずれていく設定、繰り返される街の話、古いお屋敷の中で迷って現実に戻れず…完璧でした。
フィクション 海外
今年は海外はずっとノイハウスを読んでいた気がする。新しいので心に残っているのがあまりないので、古いものだけどよかったのを。
イリュージョン
『かもめのジョナサン』で有名なリチャード・バックの、。。。飛行機超能力旅?
ベンジーがこれを「好きな本」として挙げた映像をYouTubeで見かけたので、手に入れました。もう古本でしか買えなかった。
結果、とてもよかった。
ジプシー飛行士がね、星の王子さま的出会いをして、でも相手も大人だから冒険が始まって、並んで一緒に飛んでいるうちに救世主になるの。
でも、それが幸せだとは限らないでしょう?
ドラゴンファンのみなさんはこれ知ってた? まだ買えるうちに気が付いてよかったです。Amazonだと状態「良い」もあるし。
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私の名前はルーシー・バートン
アメリカの某2020年ヒット作には乗れず、韓国文学が途中でおなかいっぱい、になったので、少し前のブッカー賞候補作。
作家になった女性が、過去を振り返る。9週間入院していたことがあった。ニューヨークに、田舎から母が来てくれた。色々なことを話した。
泣くに泣けないほどの大きな願いがあって、この痛みを一生引きずるということもわかっている。 P188
舞台は都会なんだけど母親が背負っているのはまぎれもない貧困で、捨てたことのやましさ、そうしないと生きられなかった葛藤、けれど上々とも言いにくい我が身…。
後半、章がどんどん短くなっていき、ほどけていくような感覚を味わいました。
ノンフィクション エッセイ
八本脚の蝶
問題作だった…。ある人は「人生を変えた数冊の中の一つ」だと言っていました。
多感すぎる人が読むと危険かもしれません、そんなエッセイ。でも良すぎたので若いお友達にオススメせずにいられない!
小山田咲子さんのことを思い出したりしながら。
内容も濃い日記なので、私は半年かけて少しずつ大事に読みました。二階堂奥歯さん、生きて書き続けてほしかったです。でもそんなことを他人が言ってはいけないんだろう。
こわがりでよわいのはかまわない(仕方がない)が、楽になろうと力任せに粗雑に何かを定義してはいけない。p126
国境のない生き方 私をつくった本と旅

- 作者:ヤマザキマリ
- 発売日: 2015/04/17
- メディア: Kindle版
2021年初の「ネコメンタリー 猫も、杓子も」に出演されていたヤマザキマリさん。相棒のベレン、美しいベンガル猫さんです。
漫画『テルマエ・ロマエ』の作者さんですね。その人のエッセイを初めて読みました(たくさん出版されている)
「地球がおもしろい」と言うヤマザキさん。この本は、彼女の幼少期からの読書遍歴と、少女期からの旅・移住生活について書かれていました。
出会った人、考えたこと、得たもの失ったもの。まさに人生哲学。
さらっと読めるけれど深い、見習いたくなる。人はより見聞を広めて、考えて、教養を身に着けていけば、きっといい人生になる。
ノンフィクション 実用書
三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾

- 作者:近藤 康太郎
- 発売日: 2020/12/12
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
帯文がいいですよね。作者の方のことを存じ上げなかったのですが、「名物記者」らしいです。アロハ…?猟…?
私、文章テクニック本が好きでよく読んでいますが、細かなテクニックどうこうより、これ一冊読めばもういいのでは?と思いました。思ってしまった。
『「言葉にできる」は武器になる。』が好きだった人は好きなんじゃないかな。
付箋だらけになりました。学びが多い。
文章を書く仕事をしている人は、仕事じゃなくても書くことが好きな人は、絶対にぜったいに必読です。
言葉にならない感情、言葉に落とせない思考は、存在しない。言葉にならないのではない。はなから感じていないし、考えてさえいないのだ。P124
わたしで〈ある〉のではない。わたしに〈なる〉のだ。P244
#三行で撃つ は、文章術の本であると同時に生き方の本でもあると思う。文章とは、その人なのだという究極の一点に導かれる。読んだとしても真似はできない。結局、自分自身を見つめ直すしかない。優しいようで、素っ気ないのが大きな魅力。
— 村井理子 (@Riko_Murai) 2021年1月9日
※Amazonで値段が定価以上に上がってしまっている瞬間があるらしいです。値段は定価+消費税で1650円、が適正です。増刷を待ちましょう〜。それか、Kindle!
↓ 担当編集者さん。
重版出来が間に合わず、現在品切れなのですが、来週には補充発送されます。ご迷惑をおかけてしています🙇♀️ ※高額出品されている本を間違って買わないようご注意を
— 伊皿子りり子(編集Lily) (@lilico_i) 2021年1月9日
近藤康太郎著『三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾』 https://t.co/hpPEukzqnE
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不滅の哲学 池田晶子
この表紙の方が、新しくて増補版。
以前の版を父がバイブルだと言っていたので借りて読んでみたら私も惚れてしまい、増補版が出たので買いました(父にはお返しに『悲しみの秘義』を貸しました。二人して若松ファン)
亡くなられた哲学者・池田晶子さんについての考察が、そのまま哲学書になっている不思議。
問いがあって答えを見つけるのではなく、私たちがもともと真実の中に生きていて、問うとは真実との交わりにほかならないことを伝えようとする。P140
何度も読み返すことになりそうな一冊。
詩集・歌集
今年は、詩集と歌集を普段よりたくさん読みました。
ダンスする食う寝る
年齢が近めな人の作品が好きなようです。ゆっくり読んでいる間に第31回歴程新鋭賞を獲っていました。有名な人だったらしい。すっかりファン。
たまに言葉遣いがややこしくて(そういうのが好き)、難しいところもあるけどハッとすることろもあり、ダンスしていて、ロックでした。ロックな文学はいいなぁ。。。
他にも歌集では萩原慎一郎『滑走路』、詩集では三角みづ紀『どこにでもあるケーキ』が好きでした。
天才による凡人のための短歌教室

- 作者:木下龍也
- 発売日: 2020/11/14
- メディア: 単行本
歌集というよりタイトル通りに短歌入門教室なんだけど、広い意味での創作論で、どの分野にもあてはまると思う。木下龍也は天才なので、タイトルが皮肉で良い。
たくさんの歌人の作品が載っている、『短歌の友人』みたいな感触なんだけどよりキャッチーなので読みやすいです。
検証、推敲を大事にされているところが印象深い。当たり前かもしれないけど、天才だからって作りっぱなしではない。だから私は特に推敲編が好きでした。
短歌は待ってくれる。あなたが短歌を離れることはあっても、短歌があなたを離れることはない。P93〈心身ともに普通であれ。〉
これ増刷のたびに新たに奥付に新作短歌が載せられるらしいので、今から買うととてもお得です!
関連記事:『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、7月頭に読むしかない(短歌)
新作でのベストは
年間ベストを新作だけで考えたら、上半期と合わせてこんな感じ!
だまされ屋さん
— きまや (@kimaya4125) 2020年12月31日
サキの忘れ物
持続可能な魂の利用
ピエタとトランジ <完全版>
坂下あたると、しじょうの宇宙
神様はいつも両方を作る
八本脚の蝶
不滅の哲学 池田晶子
三行で撃つ
天才による凡人のための短歌教室
#2020年の本ベスト約10冊
エッセイが豊作でしたね。『うたうおばけ』が次点です。
海外ならノイハウス!シリーズ長くなってまいりました。一生読みたい。
さて、2021年も楽しく読んで生きましょう!
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