きまやのきまま屋

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津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』を青春音楽小説として全力で推したい

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私はたまにちょっとふざけて「女子はみんな大好き津村さん」みたいなことを書いてしまうんだけど、津村記久子の認知度がそんなに高いかと言えばそうではないということは知ってる。

が、処女作で太宰治賞を獲り、三年後に野間新人文芸賞を獲り、その一年後に芥川賞を獲っている作家さんなので、まあまあ有名でしょう、でしょう?

今のところ津村記久子を全作読んでいる私が、今日は中でも一冊をご紹介。

野間新人文芸賞を獲った作品。

『ミュージック・ブレス・ユー!!』

あらすじをざっくりと。

あらすじ

主人公・オケタニアザミは高校生。髪を赤く染めて関西弁を喋る。音楽が大好きでベースを弾く。MxPxとかblink-182とかパンクロックが好きだけど、そんなバンドはやりたい人がいなくて組めないから、ガールズバンドでアヴリル・ラヴィーンなんかをカバーしてる。

けどバンドはうまくいかず、気分がアガる色にしている矯正器をdisられ殴られる場面から物語は始まる。

(「だいたいなんなんよ!その矯正器の色!」byさなえちゃん)

 

音楽が鳴っている間なら、何にでもなれる。

 

精神的な成長を加味して学年が上がるのなら、自分はまだ小学校を卒業していない自信があった(P25)

というアザミ。しっかり者の友達・チユキに助けられながら、進級したり、文化祭の研究発表会で『アメリカの女の子のミュージシャンのこと』(P83)を展示したりする(ミシェル・ブランチについてはそんなに書いてない)。

 

態度デカくチユキを振った男の子と喧嘩したり(『このデブ!白紙デブ!』P77)、文化祭で女子にひどい言動をした他校の男子を掃除道具入れに蹴り入れてつっかい棒をして放置したり。

電車で痴漢行為を受けて涙目になっていた女の子・アヤカちゃんを助けた後に彼女にジャリズムのコントの話をメールして、最終的に気まずくなったり(他にも彼女とは色々ある)。

 

歯医者で矯正器の色を奇抜にして(テーマが阪神で黒と黄色、テーマがウェッジウッドで水色と白etc)同学年の男の子・モチヅキに見せ、その友達・トノムラと音楽の話をしたり一緒にレコードを探したりバンドの解散を嘆いたりする。

海外のメル友・アニーに拙い英語で弔文を送ろうとする。

 

音楽が鳴っている間なら、息ができる。

いったい、音楽がそこにあるって、どういうことだろう。

 

そんなアザミの日常が、高校卒業の時点まで描かれているのが、この『ミュージック・ブレス・ユー!!』。(あらすじ終わり)

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

 

 

ここからは感想と雑感を。

アザミとはいったいどういう存在なのか

アザミは言ってしまえばただの音楽ジャンキーな女子高生。けれど女子高生である自分を謳歌することもできず、クラスには馴染めず、人とうまく交われず、女の子同士のいざこざはまったく理解できず、精神安定剤のように音楽を聴いて音楽に救われている。

 

変わった子だなぁ、と思って読み進めていくと、いくつか気になる描写が後半に出てきて、その展開のうまさに舌を巻く。あ、これってあれなんじゃないの、と読者が気づくスタイル。

アザミが音楽にハマったきっかけであるblink-182の「What's My Age Again?」だって示唆的だ。読んだら分かる。対訳を探したらもっと分かる。

 

心理描写がうますぎて苦しくなる

この作品の何が良いかって、アザミがうまくいかなかったこと、うまくできないことについての描写が心に迫るところ。うまくできなくても矜持があるところも。

5ページに一回くらいは心臓がギュッとなる。

ネタバレしたくないしギュッとなる箇所多すぎるので引用はしないけど。

 

それでいてけっこうユーモラスな描写(こっちは引用しちゃう)、

アザミは頭を掻きながら、いろいろ感情的なやりとりがあったわりには、誰も忘れものをしていないことを確認して感心した。

あんだけ泣いたらあたしやったら絶対なんか忘れるわ。

(P7)の飄々とした感じとか、

 「オケタニさんて音楽にくわしいんよな? 研究発表とかしてたやんか? やっぱりアヴリルとかSUM41とか?」

なんでこいつはその元夫婦にあたしが興味があると決めてかかってるんだ 

(P107)のマニアックさにクスっと笑う。

 

音楽に縋って生きていた時期があるすべての人におすすめしたい 

音楽に縋って、音楽だけが恩寵で、イヤホンだけを握りしめて他に何もなくて、友達と音楽の話をして分かり合って、バンドの解散に心痛めて、他に何もなくて。

 

もちろん全然、音楽じゃなくてもいい。分かりやすく自分を助けてくれるものを見つけて縋ることで人生の一時期を乗り越えた経験がある人なら、この本に共鳴する部分が見つかると思う。

私は2001年にBRAHMANが『A FORLORN HOPE』を出してくれていなかったら、確実に今と違う人生を歩んでいたと思う。もっと悪い方向で。

 

 

何もちゃんとしてないのに何かが残ったことは分かる、アザミの高校生活が凸凹ながらも良いものだったことだけは分かるラスト。ラストの1ページはアザミと一緒に息をのむことしかできない。こんなに濃いのに234ページで終わる物語。

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

ミュージック・ブレス・ユー!! (角川文庫)

 

 

ところで友達にこの本を貸す時にできるだけ言っておくんだけど、最初の方のチユキの場面はちょっとダレる。中ダルみが早すぎるよ、若き日の津村記久子。

 

けどそこを乗り越えてこその全部だから!読み通して!ということは伝えたい。

もちろん人によると思うけど私はそうだったので、注意喚起。アザミとの対比でチユキの硬派なカッコよさと意固地さが光るのは後半だから!

アザミについてばっかり書いたけど、他のキャラも光ってる。大人になって振り返ると、モチヅキとトノムラどっちも楽しい。 

 

 

感想としてはしっちゃかめっちゃかだけど全力で推しました。とてもおすすめ。

音楽があなたを祝福してくれますように。

 

 

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