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宮部みゆき『ソロモンの偽証』を読んで、悪について考えた

宮部みゆき『ソロモンの偽証』

 

具体的な記述を引用すると、

うっかり自分を露わに出して、持ち前の聡明さを見せてしまい、その結果誰かとぶつかってトラブルになったりしないように、学校での彼は極端に寡黙になった。誰にも本心は見せないし、本当の姿も現さない。ただ、どれほど賢くてもやはり幼い彼は、人が本性を隠して何かを装っていると、いつしかその装っているものの方が本性になってしまうのだということに気づいていなかった。今の彼は”気の病”を病む母親そっくりの、とらえどころのない蒸気の塊のような無気力な少年になり果てているのだった。 

というところ。21ページ目にこんな描写が出てきて、もうびっくり仰天。

何の本かというと、こちら。

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

ソロモンの偽証: 第I部 事件 下巻 (新潮文庫)

 

 

ソロモンの偽証

最近文庫化されたのかな?本屋に並んでたね。私はなぜかこのタイミングで、単行本で母親から貸してもらった。

知ってる人も多いと思うけど、これ凶器のように分厚い。しかも第3部まで続くから3冊。今思ったけど、文庫化って…何冊になったんだろう。

(聞いたところによると6冊らしいです…)

 

宮部みゆきは昔から好きでけっこう読んでいて、好きなタイプの小説もあればついていけないタイプもある。

蒲生邸事件』と『模倣犯』とか好きな感じ。あとドラマになった『ペテロの葬列』とかの杉村三郎シリーズも。

 

 

ソロモンの偽証』は、文章そのもので読ませるっていう感じじゃないところが、不思議だなぁと思う作品。

文章自体はたまにただの事実の羅列、しかも読点でいちいち区切るみたいなあまり情緒がない雰囲気。しかも内容は暗い。そして延々と重い。ただただ辛い。しかも人数多い。どんどん状況が悪くなって気が滅入る。(まだ第1部しか読んでないので、感想はここまで)

 

でもその中で、冒頭に引用したようなハッとする描写がいくつも出てくる。文章がそっけないからこそ、人のナイーブさも粗暴さも出ている。

だってこの部分、事件には直接関係ない。でもこれを書くことで少年の性格も置かれている状況も即座に分かるし、何より読んだ人の心に刺さる記述だと思う。

 

会社で、家庭で。「本当の自分はこんなんじゃないけど周りに合わせるために偽っているんだ」と思って、有り体に言えば「手を抜いて」生きている人は多くいるんじゃないか。少年じゃなくても、大人でもそういうふうに自分を騙して、手を抜いて……その結果がその「偽っている」方の姿が本物になってしまう。これはすごく怖いことだ。

冷血 (新潮文庫)

冷血 (新潮文庫)

 

 

ただの事件を扱ってるんじゃなくて、人の生き方を追及しながら私たちに開示してくれているような。そんな記述溢れる作品。

 

雰囲気的にはカポーティ『冷血』に似てるかも、と思う。(どちらも読んだけど、印象が似ているのは高村薫の方じゃなくてカポーティ)『冷血』はノンフィクションだし最初から犯人分かってるけど。

 

悪はどうしてそこまで悪なのか?悪に理由はないのか?悪には、とって返す道がなかったのか?

そんなことをぐるぐると考えながら、読んでいた。

 

その後、読了

 

言いたいこといっぱいあったので、1冊ずつ呟けばよかったと反省。これは冬にコタツでどっぷり浸かりながらハマる系の読書に最適だと思う。

 

以下、ネタバレ

全部を読了後に思ったことは、小林のおじさんに目撃されたのが本当に本人だったらよかったなぁという点。事実としてありえないから仕方がないので、宮部さんに言っても意味は無いけど。そしたら「未練のよろめき」がハッキリと生命への未練だという振りになったし戦争時の話とよりリンクできるし、あれじゃ柏木くんが邪悪すぎる。いや、そういう悪を描きたかったのか。

あとオチは健ちゃんなのか!って言う点。(好きだけど健ちゃん)個人的には涼子の将来の方が気になるよ?ていうか教師になるなら恵子かしらと思った。でもよく考えたらこの小説の主人公は健ちゃんなんだよね。

(こちらも噂によると、文庫版には違うエピソードがラストに追加されているらしいです。立ち読みしに行こう…。今から買うなら文庫がいいかもです!)

 

 

映画化されるらしい

http://www.solomon-movie.jp/s/

来年の春に前後編に分けて映画化されるらしい。あ、冒頭の少年がまえだまえだのお兄ちゃんなのね…それはだいぶイメージが違うね…。 

ソロモンの偽証 全3巻セット
 

 

 

 

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