コンテスタント…(コンテストの)競争相手。競技者。
再読してみたら圧倒的にすごかったので、書かずにいられなくなってしまった。解析するしかない。感想でも解説でもなく解析してみました。
『ショパンゾンビ・コンテスタント』はだいたい、5つのパートが入り混じっています。
- 1・ショパンが演奏されているのを源元と聴く/観る
- 2・潮里との恋愛、バイト、バイト先の友達
- 3・小説を書くこと
- 4・源元と自分を主人公にした、「ぼく」が書く小説
- 5・ショパン(ピアノそのもの)についての引用/考察
- 全部を混ぜたら芸術論ができていた
- けれど芸術論がこの小説の結論ではない
いちおう時系列だけど5つが混乱。いや、反復している。
1・ショパンが演奏されているのを源元と聴く/観る
源元は、主人公「ぼく」が音大に通っていた頃からの友達。ぼくが音大を辞めてピアノをやめてからも、源元はうちに泊まりに来てダラダラする。一緒にYouTubeでショパンコンテストの演奏を観る。
源元はピアノを続けていて、というか天才に近いので、ずっとピアノ漬け。それに付き合っている主人公は、小説について考えたりする。
音楽について考えることは、芸術について考えることで、文章について考えること。
説明では至らない表現のきびしさ、孤絶だけがそこにある。だけど、だれにもわかられないままで演奏なり小説なりを、完成させておかなければ、聴衆も読者もうまれえない。
P101
→この聴く/観る、というのが最終的に「源元の演奏を観る」場面につながっているので、多重構造だなぁと思う。
一緒に観ている間に源元はこういう解釈をしていた、という回答が演奏によって与えられる。
2・潮里との恋愛、バイト、バイト先の友達
潮里は源元の彼女。源元にすすめられて始めたファミレスのバイト先にいた。もう告白したけど、そもそも源元の彼女なのでどうともならない。でも仲良くしてくれる。
バイト先の寺田くんは小柄でお金持ちで、みんなで名古屋に旅行する。「ぼく」が書いた小説を読んでは旅に行きたがる寺田くんは、ピアノにも詳しい。キッチンを回すのがうまい。
→女の子が一人。で、三角関係みたいにして「あまやかだ…」と思ったりする。いつもの町田節である。そして寺田くんとその許嫁が、いつもの「他者」を担っている。
3・小説を書くこと
主人公は小説を書いている。音大を辞めてから書き始めた。小説を書けばいい、と源元がすすめた。二十歳なので
ぼくはまだ若い。小説をかく年齢をしては、まだ情緒がソワソワしているのだろう。
P111
と言って、あまり切羽詰まってはいない。
→あらゆる「ぼく」の行動が源元に由来していてもはや怖い。しかも小説にも源元のことばっかり書いている。
これは1のせいかもしれないし、単に源元が天才だから影響が大きい、というだけかもしれない。どちらでもいいと思っていると思う。なぜ?はラストに。
4・源元と自分を主人公にした、「ぼく」が書く小説
なんか急に場面変わった?…と思ったら、作中作に放り込まれていた!という瞬間が多々あります。これは狙っていると思うけど、切り替わりがおもしろい。
登場人物が同じなので、こちらから見るとパラレルワールドっぽくもある。
→それを読んで潮里がいろいろ言う。それで2の時間が進む、という流れもある。源元も読むよ!
5・ショパン(ピアノそのもの)についての引用/考察
一気に読者を置いていく引用がけっこう長い。16ページ目にして1ページ半に及ぶ「ピアノを弾くときの12ヶ条」みたいなものが書かれ、文献が引用され、ショパンについて語られる。
→よっぽどピアノに知見の深い人じゃないと読み飛ばすんじゃないか(私みたいに)。けれどこの部分があることで、意味深さやトリッキーな奥行きができている気がする。内容とリンクしたりも、たまにする。
全部を混ぜたら芸術論ができていた
世界をもっとよくみろ。自然をみて、芸術をみて、学問をみて、その関係性とじぶんのからだとの身体感覚さえつかめれば、ぼくだけの詩情と文体の交通が見つけられるかも。
P139
139ページのここから次の段落にかけて、けっこうすごいことが書いてあって、感動します。
けれど芸術論がこの小説の結論ではない
小説に結論を求めるなんてナンセンスかもしれないけれど。
始めの方で、音大を辞めるという分かりやすい挫折をした「ぼく」は、友達たちが分かりやすく天才であったり、論が深かったりすることに劣等感を持っていたし、源元からあらゆる影響を受けてしまうように、源元のことも他者として異世界として「天才だ」と思っていたけれど、ずっと一緒にいて、いすぎて、
そうか、源元は天才なんかじゃない、一瞬天才を呼んで宿ることに、慣れた選ばれたからだをつくっている最中なんだ、とわかった。
P158
というところがいいですよね。私の「文才」論もそういう感じなんですよ!センスみたいなものはあるとしても、天才というものはそうそうないのでは?と思っているので!
Kindleもあるよ〜
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