きまやのきまま屋

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2017年下半期に読んだフィクションからおすすめ本9冊!新刊縛りで

I accidentally brought money to a book sale.

2017年下半期のおすすめ本

Twitter文学賞の締切が近づいてくる中、去年の下半期おすすめ本をまとめます!

去年の7~12月に読んだ本は、83冊。

その中から刊行が2017年で、フィクションに絞っておすすめを9冊選びます。Twitter文学賞のために読了本を見返したので、こういう縛りが発生しました。漫画、ノンフィクション含まず。

 

※「2017年上半期に読んだ」「なるべく新刊 / だいたい2016~」で選んだ分は下記です。

kimaya.hatenablog.com

 

塔と重力

塔と重力

塔と重力

 

上田岳弘好き。去年のTwitter文学賞国内編に『異郷の友人』を選ぶほど好き。

今回の新作は、あらすじ紹介されていた部分が青春小説のように読めて、路線変更か?と思ったものの。ちゃんと上田節は全開!

分からないけど面白い、内容は分からないけどクールであることは分かる、という得難い読書体験。円城塔みたいな感じでしょうか。私、円城塔はついていけてないんですけど。

 

塔がテーマになっているので、建造物好きな人や福岡タワーが好きな私にぴったり。

現代社会の虚無みたいな乾いた感じや、近未来SFっぽい短編も入っていました。全部で3篇。 

キーワードは「演算された人生」です!

 

くちなし

くちなし

くちなし

 

このブログでは常連の彩瀬まる。短編集。この作品は第158回直木賞にノミネートされていましたね。

幻想小説風味が強いので個人的に好みではない作品もあったのですが。スカートの話と花虫の話と腕の話と…舞台が現代のやつは、やっぱりとても好みで。

 

たぶんこれ、変異をテーマに書かれていると思うんですよね。腕が独立したり、光る虫が飛んだり、人が蛇になったり。

それでも最後に残るのは停滞感であり、人生はこれからも続いていく…という悟りだったりして、何がどうなっても物事の本質は変わらない、と痛感する読後感で。

そういったテクニックが直木賞ノミネートに繋がった感じがあります。ちょっと進化した、彩瀬まる。

 

文庫になったので感想を書きました!

kimaya.hatenablog.com

 

さらさら流る

さらさら流る

さらさら流る

 

柚木麻子が、なんの笑わせもなく、男女ネタで新作出してきましたよ…!

テーマは「リベンジポルノ」、更には「悪意なく行った行為に、本当に悪意がなかったのか?」。 

構成は、カップルで観ると非常に気まずいと話題の映画『ブルーバレンタイン』を彷彿とさせる、出会い時期とその数年後を交互に。

 

そういえば柚木麻子は、『本屋さんのダイアナ』でほのぼの本ネタを広げるかと思ったらデートDVぶっこんできて女性の鬱屈→脱却を描いてたし、こういった系統の話、続いていくのかもしれないね。 

 

これさー、何が切ないかって、お互いが惹かれたところとどうしても耐えられなくなったところが同じだという点。そこが美点だったはずなのに、一緒に生きていくことを考えたらその美点こそが邪魔だった、となる。

そこに守られる側と攻撃する側という構図がかぶさっているのに、守られる方の身近にも敵はいるし、攻撃する側ははっきりと孤独だったりして。

相手の尊厳を踏みにじる行為が悪だということは疑いようがないけども。

どこからが踏みにじることになるのか?というのは、一線を越える前に、お互い考えたいところではあるかも。育ちがいいという暴力もあるけど、本人のせいではない…。想像力。

 

もう生まれたくない

もう生まれたくない

もう生まれたくない

 

日常系群像劇かと思って読み進めていたら、新ジャンル「訃報小説」でしたよ??

身近な人、テレビで見て勝手に親近感を覚えていた人、よく考えたら私たちは日々多くの訃報に接しているのです。

それに自分でも驚くほど落ち込んだり、あっけないほど何も思わなかったり。

 

有名人については実話がベースになっているので、主人公たちが感じる時代とシンクロできて、懐かしい話題もちらほらと。

通して読み終えた後に、「タイトルの意味…?」ってうすら寒くなったものでした。

 

星の子

星の子

星の子

 

山下澄人が『ほしのこ』っていう本を出しててそちらもよかったんだけど、私は現実に近いこちらの方が好み。

野間文芸新人賞を受賞した作品。『こちらあみ子』『あひる』と、日常をちょっと不気味に切り取る今村夏子が、新興宗教と子どもについて書くんだけど、もちろん一筋縄ではいかなくって。

 

気づいたら親が入信していた、という環境ってとても辛いものだと思うんです。けれどこの場合、きっかけが自分だったり、表面上は楽しい会合が続いたりと、主人公は疑問を持ちにくい構図になっていて。

それでも姉は出ていってしまうし成長するにつれて周囲との差異に気がついてしまうし、「普通って何?」と考える主人公が、環境は変でも確かに愛されているから基本的に明るい、というダブルバインドてんこ盛りです。

 

ラストが美しい。彼女はきっと大丈夫なのでは、と思うことができる伏線があるからこそ、そしてこの新興宗教はたぶん駄目だろう、という予感があるからこそ、美しさしか残らない。

ここは、現実とはちょっと違うかもしれない。現実はもっと辛いものだろうと思います。

 

茄子の輝き

茄子の輝き

茄子の輝き

 

滝口悠生って、上田岳弘と長嶋有を足して磨いた感じじゃない??

ストーリーで魅せるというより、読書体験を充実させてくれる作家さん。純文学ってこういうものだよな。読んでいて全然違うことを思い出したり連想したり、思考が自由になるんです。

 

ぐるぐると考え続ける主人公、少しずつ変わっていく現実、戻らない妻、ここにいる人といない人、変わる所属、持ち続ける写真の束を改造しつつ、変わらない電話番号。ラストかかってくる電話、意味がないところがとても好き。こういうゆるい繋がりっていいよな、と思います。 

 

『高架線』が演劇化されて話題になっているようですが、個人的な好みでは『茄子の輝き』の方が流れが好きでした。 

インタビューも併せてどうぞ!

「シンプルに端的に」の逆を行く 滝口悠生・新刊『茄子の輝き』を語る(前編) - 新刊JP

 

ここから、海外編!

ロボット・イン・ザ・ハウス

ロボット・イン・ザ・ハウス (小学館文庫)

ロボット・イン・ザ・ハウス (小学館文庫)

 

私の中に「AI萌え」をもたらした前作、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』の続き。童話作家さんだったのかな? ロボットが!とにかく可愛い!!

 

多くの人にタング(ロボットの名前)・ロスを引き起こしたと話題になっていましたが(ほんとかよ)、私も前作読んで以降タングが恋しくてね…。

でも、『ロボット・イン・ザ・ガーデン』が良すぎたあまり、次は尻すぼみになるかも、とも思っていました。シリーズ物になったのはいいけど二作目が面白くなかった、ってありがちじゃないですか。そこを飛び越えてきた作品。

 

赤ちゃんが産まれるのは予想できてました。けどそこに、もう一台ロボット来ちゃうんだもの。

登場人物を一気に増やすことで、物語としての停滞を防ぎつつ、全員の成長を描ききった印象。うまい。

 

湖の男

湖の男

湖の男

 

アイルランドのミステリ、エーレンデュル捜査官シリーズ。このシリーズとても好きです。ジャーナリストで映画評論家でもあった作家さんの新作。

濃くてね、重いんですよ。でもそこがいい。

 

昔と現在の比較、理想と現実の乖離、仕事と家族と政治信条と…。

湖の底から白骨死体が見つかり、疾走した男の人の名前が捜査上に浮かんでくるんだけど、どうもコイツいまいち身元不明じゃない?名前違うぞ?ってなって、なんでこの男が公式な記録に残っていないのか…。それは過去の留学生たちが巻き込まれたとある事件が発端になっていて。

 

もみ消されたり名前を変えたりしていても、人がそこに存在する限り、何らかの関わりは生まれて人に印象を残していくものじゃないですか。

それを証言を探して浮き彫りにしていく過程で、色々な事情が明らかになっていきます。それぞれが犯罪に限りなく近づいてまたは犯罪を起こして、それでもそうせざるをえなかった心情が、圧巻。

 

母の記憶に

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

母の記憶に (新☆ハヤカワ・SF・シリーズ)

 

叙情が濃すぎて続けて読めないケン・リュウ。短編集『紙の動物園』もヒットしましたが、その流れの続きであるこちらもとても良かったです。

読み終えるまでに半年かかりました。1つ1つが心臓をぶん殴ってくるので、休み休み読みましょう。

 

SFを取り入れながら人間を描く、って最近多いジャンルかもと思いますが、ダントツですね。

デート相手と使うクーポンを提案しまくるパーソナルAIに反発したり、生まれてくる時に氷を持っていてずっとそれを凍らせていないと死ぬ状況とか、リモート介護問題やハイテク戦争兵器やタイムマシン親子問題など、扱う幅が広くて。

きっとどれかは気に入るものがあるんじゃないかなと思います。 

私のお気に入りベスト3は『草を結びて環を銜えん』『状態変化』『残されし者』で! 

 

というわけで、2017年の振り返りでした。

今年もバリバリ読むぞ!

 

 

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