(2022/09 更新)
- こちらあみ子 (『ピクニック』も収録されてます)
- あひる
- 星の子
- 父と私の桜尾通り商店街
- むらさきのスカートの女
- 木になった亜沙
- 冬の夜(『父と私の桜尾通り商店街』の文庫に収録されています)
- 【新刊】とんこつQ&A 中編4作の単行本
「ハズレがない」と思える作家さんってけっこう貴重じゃない?
だって人は、成長したり変化したり色々ある。お互いにね。
だから、いわゆる「作家読み」をしていると、「これはちょっと分からなかった……」と思うことはある、仕方がない。
そんな中で「この人はたまに要点をハズしてくるけど、それもまた必ず面白い」という驚きを何回も味合わせてくれるのが、私にとっての今村夏子だったりする。
ということで、デビュー作から順に、全作品の感想を述べていきたいと思います。
こちらあみ子 (『ピクニック』も収録されてます)
- 作者:今村夏子
- 発売日: 2017/07/07
- メディア: Kindle版
日本文学の世界が動揺したのを、私は見た。
- こちらあみ子
- ピクニック
- チズさん
表題作がとにかく衝撃で……。
(↑『花束みたいな恋をした』に出てきた『ピクニック』が収録されている文庫です)
・こちらあみ子 あらすじ
あみ子は15歳から祖母と田舎で暮らしていて、小学生の「さきちゃん」と仲良し。さきちゃんは花を摘んでもらうのと、あみ子の口を覗き込むのが好きだ。あみ子には前歯が3本ないから。
「なんで歯なくなったんですか」という質問に対して、中学のとき男の子にパンチされてどっか行ったと答えたら、さきちゃんは「げっ」と言ってのけぞった。パンチしてきた男の子の名前はのり君といい、小さなころからのり君を熱愛していたことも教えてあげた。
この、どことないほのぼのさ!でも前歯が3本ない女の子、という衝撃!好きな子に殴られて!
あみ子自身もしかしたら、一般的な尺度でいう「普通」ではないのかもしれない……と匂わせまくって始まる物語。
中学生まであみ子がどう生きていたか、が中心に描かれています。周りとは軋轢ありまくりなんだけど、優しい人もいて。
でもあみ子はその優しさにも気づかず、したいことをして楽しく生きて。のり君しか見ていなくて。明るく楽しく過ごしていて、けれど。
読後には「普通とはなにか」「すれ違いの悲しみ」「それでも意外に楽しい人生」みたいな、色々な感情が押し寄せ、、、悲しいことがあっても、掬い上げる作者の目線が優しく、あみ子は明るい。なんとも言えない気分になります!読んでほしい!
文庫の解説は町田康&穂村弘。こんなところまで豪華! 文庫は買いですね…。
※2022年夏、映画化されます!(「こちらあみ子」の方ね)
公式Twitterもできています。
あみ子を演じるのは、応募総数330名のオーディションの中から見いだされた新星・ #大沢一菜 さん。演技未経験ながら圧倒的な存在感で“あみ子の見ている世界”を体現し、現場の自由な空気の中でキャラクターをつかんでいきました。
— 映画『こちらあみ子』公開中🤸 (@amiko_2021) 2022年5月30日
映画『#こちらあみ子』𝟟/𝟠 (金)より公開 🌻https://t.co/GOtNJer7Mt pic.twitter.com/gQnUoQGCiQ
この「こちらあみ子」という作品は2010年に太宰治賞を受賞、その時は「あたらしい娘」というタイトルだったそう。
『こちらあみ子』にタイトルを変更したのちに、新作中編『ピクニック』『チズさん』と一緒に単行本化され、2011年に三島由紀夫賞を受賞。(私はここで手に取りました)
この二つをいっぺんに獲るのはめちゃくちゃカッコいい……!!!
そして、Twitter文学賞でも第二位に。
第2回Twitter文学賞(国内) | Twitter文学賞事務局
普通との「ズレ」いとおしく 「こちらあみ子」映画化:朝日新聞デジタル
あひる
- 作者:今村 夏子
- 発売日: 2019/01/24
- メディア: Kindle版
- あひる
- おばあちゃんの家
- 森の兄弟
『こちらあみ子』(2014年に文庫化)以降、何も発表せずにいらしたので、引退説がささやかれていました。。。
一作すばらしいものを書いて、注目されて、いなくなる、っていうパターンあるんですよね。
そんな中、福岡の出版社・書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)が新しく発行する文学ムック「たべるのがおそい」に、突然『あひる』が掲載されてびっくりしました。
文学ムックって!
福岡の出版社って!このお店を運営しているところです。
海外文学と詩と短歌が中心の本屋、「本のあるところajiro」 - きまやのきまま屋
『あひる』は読みやすいので、「今村夏子を読んでみたい」という人に最初に薦めたい一冊。(恋愛要素がほしかったら『こちらあみ子』かも)
『あひる』の初出はこちら、たべるのがおそい vol.1。
テーマは……姉弟?ざっくりいうと家族としての人間関係の、不穏な失敗例たち。 しかしやっぱり漂うほのぼの感。不思議な手触りです。のりたま、というアヒルが出てくるんだけど、ただのアヒル飼育ではなく、アヒルを通して浮き彫りになる家族の関係という感じ。
再読了したので感想ツイート。
今村夏子『あひる』再読了。ほのぼのと不穏の間、なんて場所があることに驚いた一冊だったよね2016年。確かな情報が最初に与えられないからゾワゾワするんだと思ったり、小さな要素でザワつくように作られてるんだと思ったり、こちらの判断も確定しにくいのが独特ね。互換性…。
— きまや (@kimaya4125) 2020年9月5日
おかしい。
これはのりたまじゃない。
(P19)
のりたまは再び姿を消したのだった。(P27)
ねえねえねえほかの二ひきもこの中にいるの? どこにいるの?
お経を唱える母の声がどんどん大きくなっていった。
(P57)
『あひる』は芥川賞候補作になり(獲りませんでしたが)、アメトーク!!の読書芸人回でオードリーの若林さんに絶賛され、さらに第5回河合隼雄物語賞を受賞!
Amazonでkindleアンリミテッドの会員だと、『あひる』が読み放題に含まれています!!
※参考記事
作家の西崎憲さんによる解説 【解説:西崎憲】今村夏子は何について書いているのか『あひる』 | カドブン
星の子
- 作者:今村夏子
- 発売日: 2019/12/06
- メディア: 文庫
新興宗教と子供の話。気が付いたら親が入信していた、しかも自分が原因で。
こういうことってあるんだろうなぁ……。環境がつらい、とはいえ本人は悲壮感はなく、テーマ『家族』という印象でサクサク読めます。描写がきれいで。
あーでもこれ本人の気質がいいから疑問を持ちにくいだけで、周りの人はけっこうちゃんと拒否反応を示してもいるので……構造としては『こちらあみ子』に近いでしょうか。あみ子の環境を家族に広げた感じで、プラス宗教。
読後感はいいです。 希望があって。
で、こちらもやはり芥川賞候補になるものの、まだ受賞はしません。『星の子』で獲ったのは野間文芸新人賞。
そして今村夏子の、初の映画化作品となります。主演は芦田愛菜ちゃん!!
芦田愛菜主演、映画『星の子』公式サイト 2020年10月全国公開!
一番読みやすい長編、となるとオススメは『星の子』かも。
※参考記事
『コンビニ人間』の村田沙耶香さんが、テレビで『星の子』を推していました。
父と私の桜尾通り商店街
今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』読了。短編集。タイトルから思い浮かばないくらいどれもはっきり不穏だけど終わり方が優しい。確かに一人ずつささやかに狂っている感じは立ち位置を忘れてしまう。だから主人公パターンは居心地が悪くなることに気付いた…。
— きまや (@kimaya4125) 2020年8月6日
- 白いセーター
- ルルちゃん
- ひょうたんの精
- せとのママの誕生日
- モグラハウスの扉
- 父と私の桜尾通り商店街
短編集。
テーマがあるとか連作とかいうことはなく、一定以上数が揃ったので短編集出すよ!というノリの一冊だと思います。
初出は「たべおそ3」(白いセーター)、「文芸カドカワ」(ルルちゃん、ひょうたん、父と私)、「早稲田文学」(せとのママ)など。
『モグラハウスの扉』が書き下ろし。私はこの『モグラハウスの扉』が一番好きでした!
一人ずつが確かにささやかに狂っていて、単純な話ではないものばかり。ユーモアもありながらホロリともします。
主人公が狂い気味の場合って読みにくいけど、これぞフィクションの醍醐味だ!とも思います。
表題作は2016年のものなので、『あひる』と同時期と言えますね。雰囲気もちょっと似ている気がします。いまいち通じ合っていない親子モノ。
※参考記事 本人のインタビュー
【新刊インタビュー 今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』】6つの作品で書こうとしたこと | カドブン
文庫の表紙がかわいい。
むらさきのスカートの女
- 作者:今村 夏子
- 発売日: 2019/06/07
- メディア: Kindle版
はい、第161回芥川賞受賞作。長編です。
やっと獲ったね~、というより、長編を待たれていたのかもしれませんね。(私自身は『星の子』で受賞しておいてよかったのでは、派です!)
ご本人のインタビューがYouTubeにアップされています。
力の入った長編。まず人称がよく分からなくて、誰の視線なのか明らかにされないまま「むらさきのスカートの女」の奇行が描写されていきます。
で、途中で、とある女性が「むらさきのスカートの女」を見守っている、ということが明らかにされるんですが、…妙にストーカーっぽいんですよね。
ただ、奇行を繰り返していたように見えた「むらさきのスカートの女」は、物語の中で社会復帰を果たします。…それをまた主人公が見守っています。そのうち同じ職場になり言葉を交わすように……なるようでならないんですよね!
主人公もなかなかに変人でして、むしろ「むらさきのスカートの女」の方が職場に順応しています。なんという逆転。
けれど話はそれで終わらず、「むらさきのスカートの女」にピンチが!その時に主人公はある決意を……という話の流れですが、いやオチが問題すぎてぽかんとしてしまいますね!
社交性とは?賢い振る舞いとは?と生活について考えながらも、あれ、いつから狂っていたんだっけ……?と最初から読み返したくなってしまう感じ。
最後に最高に狂ってしまうんですけど、それがどこから始まっていたのか、どの時点だったら引き返せたのかが、一切分かりません。
ここまで話のなかで迷子になる感覚、他ではなかなか無いです。あと、人の滑稽さについても考えちゃいますね。
「笑わせたい、と狙っているわけではないんですが……」(今村さんインタビューより)
参考記事:芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』が問いかけるもの 倉本さおり×矢野利裕 対談【前編】 |Real Sound|リアルサウンド ブック
木になった亜沙
- 作者:今村 夏子
- 発売日: 2020/04/06
- メディア: Kindle版
今村夏子『木になった亜沙』読了。3篇どれもよかった。展開が一切読めない中でゾクッとしたり救われたりする『的になった七未』は力作だったね、途中ホラーかと思ったけどいい話だ。だいたいが素っ頓狂に報われてないので『木に〜』と『ある夜の思い出』でラストに本人は幸せそうなのが嬉しい。
— きまや (@kimaya4125) 2020年7月10日
中編が3作収録されています。
- 木になった亜沙
- 的になった七未
- ある夜の思い出
この3つは本当に、展開が一切読めませんでした。SFなのかもしれない、でもホラー風による箇所もあり、それが伏線になって感動につながるからミステリなのかも!?
『ある夜の思い出』は、絶句しました。最近の今村夏子で短いのを、と言われたらこれを推します。
読みやすかったし、現代日本ものが好きな人にはもっと受け入れられていていいと思うんですけど、そんなに話題になってない印象。おもしろかったですよ!
ここで一つ、まだ単行本化されていない作品。
冬の夜(『父と私の桜尾通り商店街』の文庫に収録されています)
『文芸カドカワ』2017年8月号に収録。同じ名前の有名な曲がありますね。
で、カドブン(WEB記事)で判明したんですが、『父と私の桜尾通り商店街』の文庫に入ったようです!
文学界がいま最も注目する作家・今村夏子の最新作『父と私の桜尾通り商店街』2月22日発売! | カドブン
ラストの終わり方、ちょっと怖い系で考察が捗ります。
【新刊】とんこつQ&A 中編4作の単行本
さて群像に4篇、載りました。そのうち講談社が中編集を出してくれるでしょう…と書いていたら、
2022年7月に出ました!二年ぶりの新刊とのことです。
【本日発売】今村夏子さんの2年ぶりの新刊『とんこつQ&A』が発売になりました。今村さんのデビュー作『こちらあみ子』に衝撃を受けた担当Sが執筆をお願いしてから、表題作の原稿をいただくまで9年かかりましたが、お待ちした甲斐がありました。ぜひ皆さんに読んでいただきたいです。#とんこつQA pic.twitter.com/eYeyvK8VuH
— 群像 (@gunzo_henshubu) 2022年7月21日
原稿をもらうまで9年かかったそうです笑。ありがとうございます!
・とんこつQ&A…人情話~、だと思った、最初は…。そこから、人の悪意のない思惑によって転落していく主人公が見事であっけにとられてしまう。うわこれ誰も悪くないけど、しっかりほころびは出てるし、つらい。
・嘘の道…ラストにびっくりする系。田舎あるあるだと思って読んでいくと、ひょんな瞬間から当事者になってしまって。
群像2020年10月号の今村夏子『嘘の道』読了。小学生の姉弟と、田舎の学校の問題児。「嘘をつくような人間はいつか消える」という親の言葉が、変なふうに今村ワールドの始まりになってた。このあたりの短編がまとめて単行本化されるらしいので楽しみ。
— きまや (@kimaya4125) 2022年6月18日
「フラットな対話」と称するコミュニケーションに隠された「暴力」を考える(三木 那由他) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)
・良夫婦…うすら寒い感じになれる、これはホラーなんだと誰か言っておくれよ。
【巻頭創作】今村夏子さん「良夫婦」 サクランボの家に夫と犬と暮らす友加里は、近所の小学生タムのことが気になって仕方ない。 #群像7月号 pic.twitter.com/jXNgE4giw7
— 群像 (@gunzo_henshubu) 2021年6月8日
・冷たい大根の煮物…19歳の勤労女子が、工場勤務の同僚のおばさんとゆるく料理で交流するお話。って書くとハートウォーミングに聞こえますが、後味は悪いというか…良い点もあるんですが、オチはつらいなぁと思います。いや、人生ってそういうものか?人の好意って?
何か発売されたら、また追記していきます!
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