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【文学賞】大江健三郎賞終了のお知らせ

大江健三郎賞が終わります

タイトルは嫌味ではなく、今年で本当に終わるらしいです、大江健三郎賞。
八年間?毎年けっこう楽しみにしていたので残念。
 
なので、大江健三郎賞について色々書きたいと思います。
「大江健三郎賞って何?」という人カモン。作品解説つき、3000字ほどの記事です。
 

大江健三郎賞とは? 

講談社のHP(大江健三郎賞 : 講談社「おもしろくて、ためになる」出版を)から、説明文を引っ張ってきます。
選考基準:大江氏が、可能性、成果をもっとも認めた「文学の言葉」の作品を選び、受賞作とする。なお、選評の代わりとして、大江氏と受賞作家との公開対談を行い、「群像」誌上に掲載する。(公募はしておりません。)
賞:受賞作品の英語(あるいはフランス語、ドイツ語)への翻訳、および世界での刊行
 
大江氏作家生活50周年、講談社創業100周年を記念して作られたこの賞。
ひらたく言うと「大江健三郎さんが『この作家これからいい感じじゃない?しかもこの作品良くない?』と一人で選んで、講談社が訳して世界で刊行しちゃいますよ!」ということです。
 

今までの大江健三郎賞 

・第一回、長嶋有『夕子ちゃんの近道』。
夕子ちゃんの近道 (講談社文庫)

夕子ちゃんの近道 (講談社文庫)

 

 

このころ長嶋有はちょっと頭角を表し始めたくらいで、まだそんなに有名じゃなかった印象。
でも味のある作品を書いていました。
 
それを第一回の受賞者にしちゃうとか大江健三郎マジかっこいい、と思ったものです。
『夕子ちゃんの近道』はちょっと地味ではありますが、今の長嶋有の流れが始まったらへんかなと思います。
最近ではTwitter文学賞国内編で3位になった『問いのない答え』がすごくよかったです。
 
 
 
・第二回、岡田利規『わたしたちに許された特別な時間の終わり』。
こちらはかなり渋いセレクション。本好きの人でも刊行時は一部しか知らなかったと思います。
岡田利規さんは劇団『チェルフィッチュ』の主催&脚本家&演出家さん。 脚本家としてはすでに有名だった岡田さんの、初の小説です。文才に溢れていて、独特の文体がくせになります。
わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

わたしたちに許された特別な時間の終わり (新潮文庫)

 

収録作『三月の5日間』の男女のダルダルっぷりは芸術ですよ。海の向こうでは戦争が始まるのにね。ダルいのに読み飽きない不思議!

 
 
・第三回の作品はノンフィクションで文学論。すみません、これは読んでません。
光の曼陀羅 日本文学論

光の曼陀羅 日本文学論

 

 

 
・第四回が中村文則『掏摸』(スリ)
暗い作品が多い上に芥川賞受賞以来いまいちぱっとしなかった(これは長嶋有もそうでしたね)中村さんが、純文学をちょっとはみ出して闇社会を書きました。主人公が一気に行動的になった作品。
掏摸(スリ) (河出文庫)

掏摸(スリ) (河出文庫)

 

『掏摸』は中村作品の中期の始まりになった印象です。

評判が良かったようで、姉妹編『王国』が二年後に書かれています。『掏摸』と呼応する内容で、こちらは女性が主人公。

王国

王国

 

 

 
・第五回、星野智幸『俺俺』。
これは後に亀梨和也主演(かなり扮装あり。一人で何役したんだっけ?)で映画にもなりました。
俺俺 (新潮文庫)

俺俺 (新潮文庫)

 
俺俺 DVD通常版

俺俺 DVD通常版

 

 

「オレオレ詐欺」が犯罪として有名になってきた頃の作品で、特に犯罪者でもない主人公が軽い気持ちでオレオレ言ってる間に俺がどんどん増えていく…かなり問題作です。高尾山でのプチ登山ブームとか、時流を反映しています。

 

 

・第六回、綿矢りさ『かわいそうだね?』。

この辺りから大江健三郎賞に対する世間の評価が怪しくなってきた気がします。

かわいそうだね?

かわいそうだね?

 

綿矢さんも芥川賞受賞後にぱっとしない時期があったんですが、この作品で大江健三郎賞受賞をもらったことで盛り返した印象です。

 

当時綿矢さんが不調だったせいで(そして綿矢さんはいつも容姿について色々言われがちなせいで)大江健三郎賞自体の評価が割れるようになったのかなー、と思うんですが、これ以降の綿矢さんの活躍を見たら、大江健三郎賞の「可能性を認める」という趣旨にはかなり合っていた気がします。

 

以前も書きましたが、綿矢りさ作品の最近のおすすめはこちら。

ひらいて

ひらいて

 

 

【読書】綿矢りささんが王様のブランチに出てましたね! - きまやのきまま屋

 

 

・第七回、本谷有希子『嵐のピクニック』。

こちらも岡田さんのように劇団「劇団、本谷有希子」の主催&脚本家&演出家さん。

小説はけっこう書いていて、以前からかなり珍妙な世界を醸し出していました。

その作風の集大成になったのがこの『嵐のピクニック』。

嵐のピクニック

嵐のピクニック

 

 

初期の『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』や『あの子の考えることは変 』ほど身も蓋もない感じは減っていて、文学として読めるラインに入ってきた作品かと。

 

もっと笑い転げたい人は本谷有希子『グ、ア、ム 』をどうぞ!

グ、ア、ム (新潮文庫)

グ、ア、ム (新潮文庫)

 

 

 

・第八回が今年、岩城けい『さようなら、オレンジ』。

これが最後の大江健三郎賞作品になります。

さようなら、オレンジ (単行本)

さようなら、オレンジ (単行本)

 

『さようなら、オレンジ』はデビュー作にして太宰賞を獲って芥川賞候補になって、今年の本屋大賞にもノミネートされていました。

もどかしさもありますが、面白かったです。 

 

ということで、終わりです 

どうして終わってしまうんでしょうねぇ、大江健三郎賞。
とても残念に思うきまやでした。

 

ところで大江健三郎と言えば、私が17歳の時に「セヴンティーン」を読んで面白かったので彼氏に薦めたらエロすぎてドン引きされたことがいい思い出です!

「セヴンティーン」が収録されているのは、こちらの文庫です。

性的人間 (新潮文庫)

性的人間 (新潮文庫)

 

 

 

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