家にいる、ということ
家にいる、というのは、当たり前のようであって実はすごいことなんじゃないかと思う。
だって、そこにいていいのだ。
居ていい場所、なんだ。
会社だったら、就職するためにがんばって、通勤して仕事して周りの人とコミュニケーションをとって、、、などしないと、居てはいけない。
恋人同士だったら、愛し愛されていないと隣に居てはいけない。
夫婦なんて、おっかなびっくりすぎて目眩しかない。いない方がいいことだってある。
いない方がいいところは、あなたの家ではないよ。
家って、当たり前のようであって特別な場所だということを、思う。
たとえそれが仮住まいでも。
彩瀬まる『さいはての家』
彩瀬まるの新刊『さいはての家』は、とある一軒家にまつわる連作短編集だ。
その家を借りては、生きて、去っていく人たち。
帯が秀逸なので、この帯にピンときたら読んで!と思う。
この世から逃げたくて仕方がない。
それと同じくらい、この世に触れたくて仕方がない。
第一話「はねつき」
全体がグッときすぎて私はもう何も書けない…と思っていたので、とりあえず最初の話についてだけ感想を書きたいと思う。
「はねつき」あらすじ。
スナックの雇われママをしていた私は、常連のおじさまと駆け落ちする。おじさまは「野田さん」、妻と子供を捨ててくる。野田さんは漱石を朗読してくれる。私は働く。私の名義で借りたこの家で。野田さんは、気の毒な私を助けたかったと言った。私たちにはばちが当たると思う。私は本を読むようになった。家の屋根裏にはねずみが住んでいる。
と、ここまでが前半のあらすじ。最初のうち頼りない主人公は
馬鹿にされるのは、守られることに似ていると思う。(p10)
なんて言っているんだけど、途中から
ああ、確かに私は馬鹿かもしれない。きらいはわかっても、憎しみはよくわからない。憎む力を持てずにここまで来た。(p26)
自覚し、
いつだって、たくさんのものが痛みと恨みに震えてきたのだ。ただその振動に気づかないようにしていただけだ。(p33)
見つめる。
(こういう、新たな視点を獲得する系に読める話がとても好きだー)
そして「私」は世の中のからくりに気がつく。私たちにばちが当たらない理由はとても簡単なことだった。
そんなものだよ。
さあ、その視点を獲得したからには動かずにはいられないね。
他の収録作品は
「ゆすらうめ」…汚れ仕事に失敗して逃げ込んだタクシーの運転手が幼馴染みだった、同じ団地で互いにかばったり見下したりしていた、どこにも行けない男2人。
「ひかり」…知識を蓄えて他人を守っているうちに小さな宗教団体を運営し始め、懸命になるあまり人のことが分からなくなり事件を起こし、逃げている女1人。ラストが良い。
「ままごと」…天真爛漫な姉と、しっかりものの私。無神経だが悪気のない彼氏に振り回されながら、親への不満やコンプレックスや執着を放置し合っていてもまだ寄り添う、若い姉妹2人。
「かざあな」…その場に合わせて生きてきたつもりが、思考を調整できなくなり、仕事からも新生児の我が子からも逃げずにいられなくなっていく、男1人。もがく。
どうして俺の中に、俺を殺そうとする考えがあるんだ!(p224)
大家さんの言葉が良い。
ちゃんと逃げて生き延びた自分を、褒めなよ、少しは。(p227)
即座にkindleになってるの、このご時世に嬉しいね!
表紙もかわいい。私は紙の本を愛でています。
今から彩瀬まるを読むなら、これがいいと思う。
(2023/01 追記
文庫になりました!
参考記事:
『さいはての家』著者:彩瀬まる|担当編集のテマエミソ新刊案内|集英社 WEB文芸 RENZABURO レンザブロー
【関連記事】