我が友、スミス
すばる文学賞佳作で、芥川賞候補にもなった『我が友、スミス』。一番オススメしたいので最初に持ってきました。
一言で言うと、筋トレ文学です。
筋トレとかボディビルとかボディメイクに興味がある人にぜひぜひおすすめしたい。そして令和のニューウーマンノベル、であるのかもしれません。
石田夏穂さん、芥川賞候補作「我が友、スミス」インタビュー 筋トレで、私は自由な「何か」になりたい|好書好日
個人的にも好きなタイプの作品で、声出して笑った!実家エピソードのところとか、義妹さんのフォローが!
でも、主人公がハッとするところでは考え込んでしまう点もありました。女性にとってのボディビルと、ルッキズムのこんがらがり。
「2022年上半期ベスト10」に選ばせていただいてました。
ケチる貴方
2020年、「その周囲、五十八センチ」で第38回大阪女性文芸賞を受賞。その中編と、表題作。
織田作之助賞2023の候補作「ケチる貴方」は、第44回(2022年)野間文芸新人賞候補にもなりました。(ここ後述します
・ケチる貴方
私は寒いとき必死だ。こんなにも必死なのに、何故この身体は頑なに熱を生産しないのだろう。骨と皮ならまだしもお前はエネルギーの塊じゃないか。私の代謝機能よ。この身体を温める薪ならここに山のようにあるよ。頼むからケチらず使ってくれないか。(「ケチる貴方」より)
Amazonの紹介文より引用。
「ケチる」っていうからお金の話かと思ったら、まさかの「冷え性に悩む話」でした。斜め上すぎる。
体格はいいのに人一倍寒がりで、熱い風呂がないと生きていけない。給湯器が壊れたら死。正直仕事にも支障が出ているし、いつだって寒い。でも、ある時ふと気が付いた。「いいことをした後、ポカポカする」。
人に優しくすると、なぜだか代謝が良くなることに気が付いた主人公。
ここから主人公が善行を積みまくってやがて幸せになるハートウォーミングストーリー・・・
にはなりません。石田さんだから。
・その周囲、五十八センチ
これ、タイトルが、NICO Touches the Wallsの「そのTAXI,160km/h」にかけてあるよね、絶対!?
えっ邦ロックお好きなのかな、2006年の曲なのにお若いのにご存じなのかな、あの曲めっさカッコいいよね~NICOは最初の数枚イカれてたよね~!!!
(私の勘違いだったら恥ずかしいけど、可能性としてなくはないと思う)
さて、あらすじはAmazonによると、こう。
私の脚は、生来、人並外れて太かった。その程度を定量的に示そう。その周囲、五十八センチ。(中略)私は自分より脚の太い人を、ついぞ目にしたことがなかった。(「その周囲、五十八センチ」より)
脂肪吸引しまくる女性が主人公。ダウンタイムの辛さを乗り越えて、吸引を続ける。痛そうでちょっと引きましたが。
表題作と合わせて「自分の体すらこんなにもままならない!」という現代の叫びでした。
ちなみに2020年、「その周囲、五十八センチ」で第38回大阪女性文芸賞受賞が実質デビューでしょうか?(単行本化は『我が友、スミス』が2021年で初っぽい)
黄金比の縁
おもしろお仕事小説。会社勤めの主人公です。
津村記久子さんの『ワーカーズダイジェスト』あたりが好きな人におすすめしたい。
就活モノなのですが、採用する側(人事部)にいる主人公。とはいえそんなにベテランではなくて、意識高くもなくて、「自分だけが気にしている、とある基準」のみで新卒採用を進めていきます。
ちなみにプラント設計会社。(石田さんご自身も、建設関係の会社にお勤めの兼業作家さんでいらっしゃいます)
なんせ人には話せない基準なので、「この子を採りたい!」と思っても明確な理由を説明はできない。。。と同僚と衝突したり、いやまさか、基準から逆を推した方がいいのか?といきなり180度方向転換したり。
すべては、会社に○○するために!そしてその動機とは…?
サクッと読める長さだし、楽しかったです。
我が手の太陽
さて、二度目の芥川賞候補になった『我が手の太陽』は、なんだか雰囲気変わってきました。ユーモア封印?
こちらもお仕事小説ですが、『黄金比の縁』とは毛色が違う、溶接工の話。職人っぽさが増しています。
腕がいいからこそ持ってしまう仕事へのプライドとか、どうしようもない健康の不具合とか、失敗とか。中年の労働環境問題に一石を投じる…のか?
男性主人公なのは初めてかも?そういった点も新鮮に読みました。
ちなみにこの回の芥川賞は激戦すぎましたね。『ハンチバック』回として語り継がれる回になる事でしょう。
そして『我が手の太陽』は、2023年(45回)の野間文芸新人賞の候補にもなっています!
めっちゃクールな賞です。この賞を受賞されている作家さん、だいたい好き。
去年は町屋良平『ほんのこども』が獲っていました。
実は↑の町屋良平受賞時、「ケチる貴方」が第44回野間文芸新人賞候補になっていたのですけどね、町屋良平が強すぎたので。。。
けれど今回(第45回)も、石田さんだけではなく他のラインナップも評判良さそうなので、何が受賞するのか、とても楽しみです。
『Schoolgirl』の九段さんも応援したい(早く単行本化してほしい『しをかくうま』)…朝比奈さんもいいらしいし…ホセもいるし…。
11月上旬に発表とのこと。
※九段さんと朝比奈さんのW受賞でした!2023/11/06追記
エッセイ
さて石田夏穂さん、他に何かあったかなーと探していたら、エッセイが『ベスト・エッセイ2023』に掲載されていました。
「気分はビヨンセ」というタイトルで、コロナ禍における放屁とイヤホン、マスクと歌の話。きれいにオチがついていておもしろかったです。
以降も注目していきたい作家さんが増えました!
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