きまやのきまま屋

日常、本、音楽、映画、写真のこと。趣味人のきまやがきままに書いてます。

一木けいのおすすめ、というか全作品ご紹介コーナー

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1ミリの後悔もない、はずがない

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デビュー作!連作短編集です。ユイ、という女の子を巡って。

  • 西国疾走少女
  • ドライブスルーに行きたい
  • 潮時
  • 穴底の部屋
  • 千波万波

貧困状態&逃げ続ける母と娘二人、お姉さんの方が主人公「由井」で、中学生の頃から話が始まる。

・桐原と出会って恋をする「西国疾走少女」、

わたしにとって桐原は、いいことなどなにひとつないこの世界ではじめて得た宝で、生きているという実感そのものだった。(P28)

という恋の圧倒的さが描かれていて、こういう強めの幼い恋に憧れてしまう感触を持たされながらも、はさみこまれる小さなキツめのエピソードによって、「桐原がいない由井は無」であることを知らされる。

さらっと恋愛モノと読むには重い、短いのに極重。このテーマは後にまた短編集になってます。

そしてこれを最後に由井の語りは終わり。さみしい。

 

・大人になった由井の友達が由井を思い出す「ドライブスルーに行きたい」

この友達いい子なんだけど、由井とは壁を感じている感じ。由井がクラスで浮いているから、それなのに由井が堂々としているから。

それはそうと大人になった今、付き合っていた人には他に婚約者がいたし、中学時代の憧れの先輩と再会したらダサかった。

 

・由井を描写しながら圧倒的後悔を知る「潮時」

私はこれに一番びっくりしたんですけど、これの語り手、現在の由井の夫&中学の時に桐原に片思いをしていた女の子なんですよ。

普通そんな二人が交互に語らないでしょ。。。と思ったら、最後にぴたっとハマるところがあって、うわぁ絶望、となります。ここで由井と桐原の仲睦まじい様子が回想されるのも含めて。

 

・中学時代のスターと主婦の「穴底の部屋」

これ二番目にびっくりしたんですけど、ここで「ドライブスルーに行きたい」でちらっと出てきた中学の時の先輩が再登場。みんなから憧れられていたけど今や落ちぶれた男、と思いきや意外といいやつで、でも既婚主婦とのっぴきならない関係になっている。

けれどそれに救われているのはどちらか?

会話をしている。そう思って泣きそうになる。ばかにしないで知識を被せてこないでヤフートピックスの話題なんか持ち出さないでちゃんと最後まで聞いてくれる男。(P187)

↑ もうこれだけで、いい男である先輩。あー、先輩はちょっと本気っぽいよねぇ。

ドライブって愛だよね、という主題は、田舎に住んだことがある人には伝わりやすいと思います。どこにでも行こうよ。その「ドライブって愛だよね」主題が、由井→友達→先輩へとゆるくリレーされていき、時間を飛ばして、ここで主婦に断られることで、その幼さを突き付けられる構造が痛い。

 

・娘がすくすく育っていて嬉しい「千波万波」

ここで急に、由井の娘が語り手になります。

色々あったけど~、という感じで済まされて消化不良感がありつつ、最後にガッツリと揺り戻し。由井が苦労したからこそ、その娘が元気そうで、クラスの揉め事くらいしか悩みがないことが嬉しくなる倒錯感。

高校時代の由井を回想する近所の男の子も良い。乗り物は自由をくれて、文学は救いをくれる。

パパも桐原も娘も…あぁ人生ままならないね!となります。こんな終わり方、心臓が止まるじゃないか。

 

 

賞を取ったのは最初の一編「西国疾走少女」とのことですが、この一編だけで受賞したって、そりゃ審査員がすごい。

というかこれはやはり、あの賞からです。ハズレがないでおなじみの賞ですね!(窪美澄さん、彩瀬まるさんなど)

受賞の言葉がこちらです。けっこう面白いこと言っていますね?

女による女のためのR-18文学賞 | 新潮社

 

連作短編はもう飽きた、なんて思っていた時期が私にもありました。

うまい人はうまいよ!切り口や視点の選び方で良さが出るんですよね。

帯がすごいから読んで!椎名林檎にここまで言わせるとは。

椎名林檎と一木けいって歳が近いのですが、どちらも福岡出身なんですよ。同じ時期に女子高校生やってたんだなぁ~(私も)、天神にいたかな?と思うと楽しいですね(私が)

 

一木けいの書く福岡の海(っぽい描写)は、なんとなく東側のような気もしますが、どうでしょう?

愛を知らない

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高校生の僕には、同い年のいとこ・橙子がいる。同じクラスだ。橙子はいつも素行が悪いけど、あの優しいおばさん・芳子さんの子どもなんだから恵まれてるはずなのに、なんでだろう? クラスの人気者・ヤマオも橙子を気にかけているし、橙子はほんとに変なやつだ。ヤマオは橙子に音楽祭でソロを歌ってほしいって言うけど、嫌われ者の橙子にできるだろうか? 僕はピアノを弾くんだけど気が進まない。

 

…という「僕」目線から語られる、当事者すぎない傍観者すぎない、毒親モノ。長編です。

いや、絶妙な視点。ナチュラル失礼キャラである「僕」はいいとしても、あの人は、親戚として付き合うにはむしろ良い人なので「僕」には気が付けないことがたくさんあって、でもおかしなことに気が付き始める年ごろでもあるじゃないですか高校生。

そして呪縛が解け始める年齢でもありますよね。

 

ヤマオのキャラがとてもいい。あと、音楽が人を変えることがある、人の勇気になることがあるということを散りばめながら、けっこう深い毒で母娘。

でも根源が(設定が)自然発生でもないため(事故もあるし希望もあり)、カラッとしている気もする(虐待シーンはつらい)

 

何も知らなかった主人公が、柔軟な思想を持てるようになる過程が読み応えあり。

息がくるしい。逃げたい。

けれど感謝もしている。

僕は心の中で唱えた。

ぜんぶの感情を認めて、分けるんだ。引き出しに。

P247-248

あと個人的に、「恩にも時効はあっていい」という思想も好き。後味はよかったです。

 

全部ゆるせたらいいのに

短編集。アル中や父娘DVの描写があり、少し苦しいです。

  1. 愛に絶望してはいない
  2. 愛から生まれたこの子が愛しい
  3. 愛で選んできたはずだった
  4. 愛で放す

の4篇。

1-愛に絶望してはいない、は、赤ちゃんを育てている夫婦の話。

千映という女性がワンオペ育児をしながら、宇太郎という夫のアルコール依存っぷりを心配している。うわぁこの夫ヤバいな…という印象で話が進んでいく。恵という娘、かわいい。

けれど途中で、千映の父親がアル中であったこと、それを思い出すから千映の不安感が強いこと、学生時代からの知り合いである宇太郎はしっかり千映を見ていること、などがはっきりしてくると、全体の流れがふわっと変わる感覚がある。

 もしも、私が宇太郎に対してすばらしいと感じている半分は真実で、残りの信じることが難しいと感じる半分はわたしの生育環境による思い込みだとしたら。

(P48)

ここが、虐待やDVの被害者の、感情の持っていきどころの難しさを端的に表していて。罪深い話だよなぁ…と…。

 

あたしのほうがおかしいのかもしれない。

と考えてしまう人の生き苦しさと、冷静さを手に入れたいのにどうしても掴めない、あの感覚。

 

2-愛から生まれたこの子が愛しい、は、千映が小さかった頃の話。

2歳くらいという設定。両親と3人で、貧しくも幸せに暮らしている。母親からの視点で、父親が学者肌の青年だったこと、気ままに生きつつ博識であることが語られる。で、予定外の妊娠ではあったものの、千映が生まれてからは子煩悩である父。千映の教育のために父が就職を決める、希望のあるラスト。

 

3-愛で選んできたはずだった、は、千映が高校生の時の話。

2で就職した父親が…あまり社会生活には向いていなくて…。もともと研究者っぽい人って会社員するの難しいのか、と思うものの、2の流れを知っているから切ないね。

そして立派なアル中になっている。千映に暴力をふるう。

もともと2の頃から気難しい酒飲みではあったものの、事態がとても悪化している。必死に抗う千映の方が大人っぽく振る舞い、そのセリフがいくつも悲しい。千映の彼氏として宇太郎が登場、友達の名前も共通していて、1の伏線回収も。

 

吹奏楽や音楽の描写が美しいのに、父親は視点ごとどんどん狂っていく。この性格の歪んでいくさまを描けるのがすごいと思う。

 

4-愛で放す、は、1と同じ千映視点に戻る。1の数年後で、恵は6歳になっている。

父親は死んだ。宇太郎と仲良く生活できるようになった。今が安定しているからこそ、思い出してしまう色々な昔のこと。けれど父親は死んだ。ずっと酔っぱらっていた父は。

3の時点よりさらに壮絶になった父親の言動を思い出すことで話が進み、だいぶ辛い。しかし1から3まで読んできた読者は、違う視点も持ててしまう。千映も少し分かっている。でも放す。

手放すことと、愛することは矛盾しない。

(P205)

しかしアルコールは怖いね。

 

彩瀬まるさんの書評がこちらから読めます!

一木けい 『全部ゆるせたらいいのに』 | 新潮社

 

9月9日9時9分

私はこれを「みんなのつぶやき文学賞」で一票ささげたくらい、気に入ってはいるのですが、今回読み返そうとしたら辛すぎました。。。

 

帰国子女である主人公・蓮が高校になじめないながらも素直にのびのび生活しているところ、ある日一人の先輩に一目惚れのような状態に。けれどそれは「好きになってはいけない人」だった。蓮は初めて、大好きな家族に嘘をつくようになる。そして色々な因縁を回収しながら成長して…という話。

 

思春期の少女の成長物語であり、ロミジュリ状態の恋愛モノであり、家族との衝突を乗り越えるハートウォーミングであり、バンコクの異国情緒もあり、すごく表現の奥深い小説なんですが、

あらゆる二次加害のオンパレードです。

 

めちゃくちゃ勉強になります。外で二次加害を受けてきた主人公が、家に帰って無邪気に二次加害を行う。ある時は加害者に近づきすぎてむしろそっち側に入っちゃう。居るだけで人を傷つける存在になるのに、それでいて一番傷つく場所にいる。一番弱いのに。

いいですか世の中とはこういうふうにできているんですよ、と無理やり見せられる感じです。加害の連鎖とはこういうものですよ、と。

 

友達の話には少しだけ救われるんですが、いや重いな~、と思います。でも話はいいのよ。姉妹の葛藤モノでもあります。優しくて大好きな姉が、だいぶ不遇な状態にあります。

笑い飛ばされて、ひとっつも信じてもらえなかった。大袈裟だって、まるでおかしいのは私みたいな目で見られて。

(中略)

なんで気づけなかったんだろう。

(P128)

けれど真っすぐすぎる蓮は、姉さえ疑ってしまう。恋ゆえにね!しかも彼はいい人だし難しい。。。

母のセリフが悲しくて優しい。

自分が見たもの以外信じないのは悪いことじゃない。ほんとうかなって思ってしまうのも仕方ない。感情、というか反応だから。でもそれを言葉にする前に、すこし用心した方がいいかもしれない。誰かの気力を奪う可能性があるよ

(P135)

 

「自分が見たことないから」ってだけで、あらゆる異端を「そんなのありえないでしょ」って流すヤツ、マジでおるよね。

 

話の後半は一時期バンコクに戻ったり、勉強したりして、蓮も変わります。知識大事よほんと。ここで友達がめっちゃいい。

「問題は、そういう最小限のパワーで済む話し方だと、似たような経験をしたことのある人や、驚異的に察する力のある人にしか伝わらないってことなんだよね」

(P334)

被害を伝える言葉についての煩悶。沁みる。それでも

言葉は助けになるし、邪魔にもなる。それでも私たちは言葉を探す。

(P374)

 

トラウマ喚起注意ですが、まあ一木けい作品は全部そうだしね。さてこれ恋愛はどうなったのかな?

 

2022年10月28日の新刊『悪と無垢』

Twitterに新刊情報がありました!書き下ろしでしょうか?どこかで連載してましたっけ?

Amazon紹介ページによると、連作短編だそうです。

読んだら感想を追記しますね!

 

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