- 彩瀬まる、何から読む?
- 明るい話が好きなら『眠れない夜は体を脱いで』
- 暗めの話が好きなら『朝が来るまでそばにいる』
- 違う切り口で
- 家族小説なら『骨を彩る』
- お仕事小説なら『神様のケーキを頬ばるまで』
- 番外編
「この作家さん、何から読んだらいい?」って聞かれることがたまにある。私も聞いたことある。
以前は「何を最初に手に取ったかは運命だ!」と思っていたんですけど、そういうこと言ってた私、山口雅也を『チャット隠れ鬼』から読む、という…なんていうか、損をしました。
それ以来「何から読んだらいいのか」については、気を付けるようになりましたよ!
彩瀬まる、何から読む?
彩瀬まるさんの場合、作家さん公認の「初めて読むなら、これとかどうかしら?」があるよ!
しかも全部が文庫で揃いました。これはもう読むしかない。
昔、彩瀬まる初めての人は、明るい話が好きなら『眠れない夜は体を脱いで』、暗めの話が好きなら『朝が来るまでそばにいる』がいいんじゃないかとツイートをしたのですが、どちらも文庫でそろいました。タイトルも対みたいな二冊ですね。よろしければ初めての方、ふらっと読んでみてくださいませ! https://t.co/Y0A8WXAUCV pic.twitter.com/ZCofbCsmKn
— 彩瀬まる (@maru_ayase) 2020年10月30日
明るい話が好きなら『眠れない夜は体を脱いで』
最近文庫になったこちら、表紙がとても良い。『眠れない夜は体を脱いで』。
夜に惑う人たちの、それでもちょっと明るい話。
- 作者:彩瀬まる
- 発売日: 2020/10/22
- メディア: Kindle版
連作短編集になっていて、収録作品は
- 小鳥の爪先
- あざが薄れるころ
- マリアを愛する
- 鮮やかな熱病
- 真夜中のストーリー
恋に悩むんだけど、なんせイケメンなので誰も話を聞いてくれないし理想を押し付けられてばかりで寂しい男子高校生の「小鳥の爪先」、
中年と言われる年齢になってから合気道を始めて、組む相手の若さを持て余しながら母親と暮らす「あざが薄れるころ」、
私の彼氏は映像を撮る人、少し前まで撮っていた「マリア」は理想のファムファタルだったのに亡くなってしまった、と思いきや…?「マリアを愛する」、
最近の若者がわからんし妻も子供もわからん、俺はがんばっているのに俺には仕事しかないのにみんな文句ばかり!「鮮やかな熱病」、
ネトゲで知り合った子と会ってみたらお互い性別を誤魔化していた。それでも相手は「物語を書きたい」と言う「真夜中のストーリー」。
それぞれが「手の画像を見せて」と書かれたネットの掲示板にたどり着き、色々なことを思う。交差するとまでいかない、淡い関わり。
そういうところにこそ、とても人間性が出る。
彩瀬まる『眠れない夜は体を脱いで』再読了。なんていうかこれもう真剣に良い。違和感や憤りには理由があって、思い込みには根っこがある。心は難しい。人付き合いに必要なのは想像力なのでは。そして文庫解説の吉川トリコの熱量!
— きまや (@kimaya4125) 2020年10月24日
文庫になって嬉しいのって、場所を取らない形で買い直せるのと、解説が新たにつくこと。
文庫解説は吉川トリコさん。突っ込み入れつつ解説してくれるのがよかったです。私はそこまで思わないけど!
暗めの話が好きなら『朝が来るまでそばにいる』
こちらは幻想小説風味が強めなので、『くちなし』が好きな人に良さそう!
- 君の心臓をいだくまで
- ゆびのいと
- 眼が開くとき
- よるのふち
- 明滅
- かいぶつの名前
読み返していたら「よるのふち」の手の描写で泣いてしまった。ちょっと怖いんだけど全部好きです。
選ぶことと、選ばれることは抱き合わせ。それは知っているよ。
じゃあ、支配されることと、愛されることは?
「明滅」のこのフレーズは紙に書いて額縁に入れて床の間に飾っておきたい。
呼んで、唱えて、会えて嬉しかったなあって繰り返しながら、私という存在の認識が終わるまで、暗闇の中で光って遊ぶ。それを、この世のどんなものにも侵させない
「明滅」P198
文庫解説は、ブックデザイナーの名久井直子さん。
【参考記事】
違う切り口で
ツイートした当時、フォロワーさんに初めての人はこの辺りもいいんじゃないかとおすすめしてもらいました。『骨を彩る』は家族小説、『神様のケーキを頬ばるまで』は雑居ビルのお仕事小説です。静かな気持ちになるのは『骨を彩る』、にぎやかな気持ちは『神様のケーキ』かな。なにとぞなにとぞ~。 pic.twitter.com/Qe3IC5IFqQ
— 彩瀬まる (@maru_ayase) 2020年10月30日
どちらもかなり好きです><
家族小説なら『骨を彩る』
静かな気持ちになる、と彩瀬さん。
大好きなので、レビューを書いています! 毎年秋にオススメしてます。
また、最近文庫になった『さいはての家』も家族…を作ろうとしたり、家族ではない安息の地を求めたりして、とある家に行き着く連作短編で、とても良い読後感です。
お仕事小説なら『神様のケーキを頬ばるまで』
こちらは、にぎやかな気持ちになる一冊。
これ、感想文を書きたいとずっと思っているんだけど、最初の『泥雪』を読むたびに絶句してしまって、難しい…。
彩瀬まるさんの作品の中で、一番読み返しているかもしれない。
- 泥雪
- 七番目の神様
- 龍を見送る
- 光る背中
- 塔は崩れ、食事は止まず
正直に、取り繕わず、制作者の心をさらけだした作品は、必ず誰かに嫌われます。そういうものは力強い代わりに粗(あら)も多く、でこぼこで、違う意見を持つ人にとってはひどく目障りになるからです
「光る背中」P187
テーマとして、とある映画について語られている点が面白い連作短編集。
みんなそれを観たり、観ないで感想だけ聞いたり、観てないのに文句を言ったりする。現実かよ。
この映画も観たくなりますね(実在の映画ではないところが良い)
ていうかこの映画監督、最初は画家だったんですよ…!ファン心理が難しいな…!
文庫解説は柚木麻子さん。好き。
※全部を通したら雑居ビルが立ち上がってくるんですが、婚活ネタとしても、小ネタがいい感じです。
番外編
家族小説とお仕事小説のハイブリッドみたいな『桜の下で待っている』も個人的にオススメです。「ふるさと」をめぐる連作短編集、みんなちゃんと働いていて偉い。
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