きまやのきまま屋

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北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』に出てきた映画とか

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北村紗衣『お砂糖とスパイスと爆発的な何か: 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』 2019/8/2 

タイトルが好きなので出だしにたくさん書いてしまった。

こちらの本に登場した映画、書籍をメモしておきます。本もたいへん面白かった。

論文などの参考文献は、本のラストに載っています!

chapter 1 自分の欲望を知ろう 

「家庭の天使」、「黒い犬」。

私は最近、ゆっくりとウルフ『自分ひとりの部屋』(平凡社ライブラリー)を読んでいます。 

 

音楽・オズの魔法使いの挿入歌『鐘を鳴らせ! 悪い魔女は死んだ』

 

復刊されたやつ?いや10年前ではあるけど。↑2011年刊なのは、岸本佐知子さんの訳ですね。本書に登場したものは1985年の方でしょう。(でも岸本ファンなのでこっちを貼ります)

 

 

未来を花束にして(字幕版)

未来を花束にして(字幕版)

  • キャリー・マリガン
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原題は『サフラジェット』。

映画『未来を花束にして』公式サイト

私このキャリー・マリガンさん好きなんです。『華麗なるギャツビー』のデイジーでしょう?『わたしを離さないで』でも主役をされていましたね、演技派! 

という話が本書P188 「chapter 5  ユートピアとディストピアについて考えよう」の〈ブスの夢再び〉にも出てきます。分かる。 

 

メリルストリープつながり。マギーと言えばメリルストリープで脳内再生していきましょう。

 

 

さすらいの女神(ディーバ)たち [DVD]

さすらいの女神(ディーバ)たち [DVD]

  • マチュー・アマルリック
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フランス映画、2010年、バーレスク。

 

 

うわ、誰の訳で読んだらいいか迷うやつ…。

こちらに並んで

『ジェーン・エア』『ワイルドフェル・ホールの住人』『高慢と偏見』、スラッシャー文学?

 

 

ウルフは犬も猫も好き。 

こちらは人の話。

 

 

観ました!原作本もあるみたい。 

読書会をめぐるアメリカの歴史、とても興味深かったです。

 

J.M.シング戯曲集

J.M.シング戯曲集

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から、『西の国のプレイボーイ』。めちゃくちゃ面白そう。

 

リンクばかりの記事はグーグルさんから嫌われるので、まだchapter1ですがいったん中断。 

というか、Amazonのリンクの表記が変わりました?出版年月を表示してほしいんですが、ちゃんと出てるのだろうか。なんたるダイナミックな改悪を…。 

 

興味を持たれた方は、ぜひ本書も。

かろうじて観たことのあった『リリーのすべて』と『ナチュラルウーマン』(どちらもトランスジェンダー映画) へのツッコミには深く共感しました。

『ファイトクラブ』の話もあり、「観てから読んでね!」とのことだったのでそこだけ読んでません。

 

コラム部分にちらっと載っていた映画が私の好みそうだったので観てみました。『キューティー・ブロンド』面白かった!

 

【関連記事】

こちらの本屋さんを運営している出版社さんから出ています。

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引きこもりには映画が楽しい。

kimaya.hatenablog.com

今の時代読んでおきたい『兄の終い』村井理子(2020/CCCメディアハウス)

これはなかなか必携なのではないか、と 

兄の終い

兄の終い

  • 作者:村井 理子
  • 発売日: 2020/03/31
  • メディア: Kindle版
 

「今の時代読んで損はない」と思った「今の時代」とは、コロナ禍ではなく、高齢化や孤立化の目立つ時代のことです。

この本は、元の家族とは距離が生まれて、自分の家族を運営している女性と、距離も心も離れた兄の話。だいたいノンフィクションのようです。

 

ある日、警察から電話がかかってくる。「お兄さんが亡くなりました」と。こういう時は家族は確認に行かなければならない。ドラマで見るやつ。そしてここから現実的な話、親しくしていなかった・むしろ嫌いだった兄の葬式を執り行い、家を片付けないといけない。

著者の居住地は、滋賀県。電話をかけてきたのは塩釜署…って、宮城県? 

 

「誰が葬式を出してくれるのか問題」、「突然死した場合は遺された方は何をしたらいいのか」「元妻(元義理の妹)とのやり取りはどうするのか」「子どもが一人で残されている場合は」など、普通に葬式をする以上に大変な状況がてんこ盛り。

もう逃げることはできない。ここを片付けなければ何もはじまらない。ここを片付けなくちゃ、兄はここから去ってはくれない。

p68

 

それをモリモリと片付けていく著者と元義理の妹さん、大変そうでしたが一種の爽快感があり、一気読みでした。

そして本当に5日で片付いた!という感慨もあり、まじめな話ではあるものの面白く読めます。

 

お兄さんの生活保護の話、甥の小学校の先生方の対応、今の私の生活からは知りえないけれど絶対に「知っておいた方がいい」ことがたくさん書かれていました。 

兄の終い

兄の終い

  • 作者:村井 理子
  • 発売日: 2020/03/31
  • メディア: Kindle版
 

読了後、母に貸したら一日で読んでた。面白かったそうです。

ちなみに母は次の↓エッセイの時から「滋賀県の人がいいわぁ」と言っていたので貸しました!

 

 村井理子さんを知ったきっかけのエッセイ『モヤパン』

あんぱん ジャムパン クリームパン——女三人モヤモヤ日記

あんぱん ジャムパン クリームパン——女三人モヤモヤ日記

 


牟田さんファンなので手に取りました。コロナ禍日記では今のところ、これが一番好きです。私の世代~ちょっと上の女性は、読んでみたらどこか必ず面白いのではないかしら。

猫で泣いたのは趣旨ではないのかもしれないけれど。

 

モヤモヤを迂回したり手に取ったりしながら、人に告げようとしながら、直接は言えないでお互いを気遣う。それが一番の伝達なのかもしれないと思います。伝達って、コミュニケーションって、剛速球をぶつけ合うことではないのでね!

 

村井理子さんといえば『エデュケーション』 

村井理子さんはエッセイストであり、翻訳家でもあります。代表作は圧倒のこちら。

 

家族を支配する狂信、陰謀論、ホメオパシー、そして暴力……衝撃の回顧録『エデュケーション』訳者あとがき|Hayakawa Books & Magazines(β)

 

次も楽しみ 『全員悪人』

もうすぐ出るという新刊。認知症、介護モノらしいです。タイトルがすごい。 

全員悪人

全員悪人

  • 作者:村井 理子
  • 発売日: 2021/04/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

読んだ!


 

エッセイも楽しみにしています!息子ネタ&犬派の人は要注目の連載です。 

 

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町屋良平の全作品を解説します【芥川賞作家】

(2024/04 更新)

今更かも?と思いつつ、せっせと書いたので公開します。2019年から私がドはまりしている町屋良平を、全作品解説させてください。

デビュー作以前のものは把握してません…色々書かれていたようです。

それではどうぞ!

青が破れる 

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/05
  • メディア: 文庫
 

あらすじ…主人公の秋吉はボクサー志望。友人のハルオの彼女とう子は難病でもうすぐ死んでしまう。おれの彼女の夏澄には夫と息子がいる。夏澄はおれのことを好きではないが会っていて、とう子はハルオに会おうとしなくなる。後輩の梅生をみんなに紹介する。おれはボクシングをする。

 

(文庫の概要)

  • 青が破れる
  • 脱皮ボーイ
  • 読書
  • <特別収録>マキヒロチ マンガ『青が破れる』
  • <特別対談>尾崎世界観 表現者は動き続ける 

 

『青が破れる』で町屋良平を初めて読んで、

ひらがながおおい

と思いました!

 

でもそれが嫌でもなくて、この雰囲気を作るために必然の平仮名なのか…?いや、それにしても多いぞ…?と戸惑ったものです。でも、嫌ではなかった。 

 

『青が破れる』は、小説としてはあっさりしているかも?

波瀾万丈のあらすじがある、というわけではなく、死ぬ者は死に、残された者は生き、そうやって別れるまでみんなで仲良くしている時の風景をたんたんと描写していく感じ。

過ぎていくものへ対して視線を送っていて、さらっとしている感じもありつつ、冷たくはない。人はよく死ぬ。文章はゆるめ。

青が破れる (河出文庫)

青が破れる (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/03/08
  • メディア: Kindle版
 

初版(単行本)は2016年11月。第53回文藝賞を受賞した、デビュー作『青が破れる』は、三島由紀夫賞の候補にもなりました。

 

その他に短編2つを加え、単行本に。

文庫には特別収録でマキヒロチさんの『青が破れる』の漫画(この漫画が、文庫版の表紙になってます)と、

尾崎世界観との対談、が収録されている!豪華!!

その他2作は、けっこう異色な短編です。『脱皮ボーイ』けっこう好き。

しき 

しき (河出文庫)

しき (河出文庫)

 

あらすじ…登場人物は高校生たち。巷の話題(恋愛とかテレビとかスクールカースト)にあまり興味がない男子3人と女子3人。ゆるーく関わりながら、それぞれ家のことで悩んだり、やきもきしたり。そして男子チーム・星野と草野は夜の公園で「踊ってみた」を始める。

 

ダンスものと言ってもいいのかもしれない?「踊ってみた」文学。でも、どのように踊るのかというと 

そうか、われわれも、音楽のために踊っているのだ。

音楽がたのしいから。音楽を表現しているのであって、じぶんを表現しているのではない。しかし愚直に音楽を表現してはじめてであえる「じぶん」もいる。

『しき』P32  

なんだか達観していて、でも素直で、とても面白いと思いません?

 

そしてそこに、異端者として川原の友人「つくも」が混ざって星野が混乱し…。草野は転校生で、阿波踊り経験者でもあって、前にいた地域のヤンキー(阿波踊りになると光り輝くひきこもり)との手紙の交流もあるんですよね。

こういう、色々な関わり方のゆるい友達が、かれらの人格に少しずつ影響を与えていることが分かる。

 

特に大きな事件があるわけではないんですが、良い読後感です。タイトル通りに巡っていく。

 

初版は2018年7月。第159回芥川賞候補作。文庫解説は、長嶋有!

とある書評家の方がおっしゃっていたのが、「ちょっとポエムっぽすぎると感じる人が多いかもしれない。最初の3行で拒否反応が出なければ読み通せる」とのこと。

 

私はイケました、むしろ好き! 心配な方はkindleのサンプルダウンロードで様子を見てください。 

しき (河出文庫)

しき (河出文庫)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2021/01/15
  • メディア: Kindle版
 

1R1分34秒 

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2019年1月。第160回芥川賞受賞作! 

 

あらすじ…ボクシングをやっている僕は試合相手に感情移入しすぎて負けやすい。彼女がいるけど彼女には彼氏がいて、友達は一人だけ。友達は僕を映像に撮り続ける。トレーナーにはタメ口をきく。ボクシングの練習は、つらい。減量がつらい。

 

『青が破れる』と同じく、ボクサーが主人公。同じ人ではなく、こちらはプロなので試合中の描写がしっかりあります。初めから終わりまで、しっかりボクシングしてます。

 

体を操ることにこだわりがあるっぽい町屋さん。

慣れればダンスみたいにしぜんに動けるから。

p51

鬱屈した青春系、と言っていいかも。デビュー作で書き忘れていたことを集めた感じですかね。

 

受賞作ではあるんだけど、これから入ると読みにくいかも、と思います。でも『しき』のポエミーさが苦手だった人にはいい?

言語化できる地獄に地獄はない。

p132

 

減量の緊迫感と、終わり方が見事!

1R1分34秒

1R1分34秒

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/01/25
  • メディア: Kindle版

文庫化だそうです!

解説は町田康でした。かわいいイラストは小幡彩貴さん。

ぼくはきっとやさしい 

ぼくはきっとやさしい

ぼくはきっとやさしい

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2019/02/15
  • メディア: 単行本
 

2019年2月。長編。 

あらすじ…メンヘラ系男子が日記を書きながら恋をしたり旅をしたりする

 

友達と弟のキャラがいいし、ミニマリストやブロガーが出てきて、現代を切り取っているなぁと思う作品です。

 

が、意外に売れていない印象です。主人公がナヨいからか…いや、町屋作品ではこれくらいが普通じゃない?むしろ毎回水没してくれるから面白くない?

 

結果として、これは詩でした。

夏の終わる風のにおいがして、ぼくはようやく、なにかをいわなければ感情はなにひとつつたわらないんだ、ということをおもいだした。

『ぼくはきっとやさしい』p15  

このまま真摯に文章を書いてゆけば、日記がぼくよりぼくになるんだよ。日記のほうがにんげんに近くなる。文章のほうがぼくよりもぼくになる。

『ぼくはきっとやさしい』p30   

愛が嫌い 

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2019年6月。中編集。

  • しずけさ
  • 愛が嫌い
  • 生きるからだ 

これ、読み返すたびにどの作品が心にしみるか変わりがちです。

初読の時は「愛が嫌い」をほめるツイートをしたみたいですが、再読した今は「しずけさ」に痺れています。

 

第10回Twitter文学賞で、私の一票をささげました。当時の記事はこちら→Twitter文学賞 2020年、第10回(終わらないらしいよ、やったね!)

派手さはないものの、良い! 弱い人の日常系。

 

元気だけど社会的に弱い子どもと、疲れ果てて休養中のニート(「しずけさ」)

友達の幼児を預かる日常がけっこう好きなフリーター(表題作「愛がきらい」)

記憶をなくした会社員のゲーム実況と、本当の家に居つけないルームメイト(「生きるからだ」)

 

…この一冊通して主人公たちは弱っている感じなので、弱っている時に読むとホッとするかもしれません。メンタルクリニックへ行く時の心構えも分かる!

椚くんは、それもなにか違う、とおもいながら喋っていた。しんじつに迫ろうという気もちが、とてもきつい。だれもがつかうような定型表現や、懐古的な常套句に頼ってしまいたい。

『愛が嫌い』p48「しずけさ」 

「忙しいひとはいやだな…………。こっちまで辛くなる。忙しいひとは忙しいひと同士でしか憩えないし。結果どんどん忙しくなってゆく」 ぼくはこういうときばかり本心をいう。(中略)心底から常々考えていることを他人にいうことは、現実逃避の最たる方法か?

『愛が嫌い』p156「愛が嫌い」  

「生活がたのしいけど、生活に閉じこめられて、生活を膨らませるのはできても、たまには生活の外にでるべきだった」

『愛が嫌い』p203「生きるからだ」

(ページ数は単行本)

愛が嫌い

愛が嫌い

ショパンゾンビ・コンテスタント 

ショパンゾンビ・コンテスタント

ショパンゾンビ・コンテスタント

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Kindle版
 

おれは音楽の、お前は文学のひかりを浴びて、腐ろう。ゾンビになろう。   (帯文)

少し前までボクシングものが異彩を放っていたところ、音楽と文学がきましたよ!!!(『しき』でもピアノの発表会はありました)

再読したらあまりによかったので、記事を書きました。なんの感想にもなっていませんが。

kimaya.hatenablog.com

2019年10月。長編。 

 

これで、町屋良平が2019年にたくさん出版しすぎ問題にいちおうの終止符が打たれます。一年でこんなに濃いものを4作も… !

 

坂下あたると、しじょうの宇宙 

坂下あたると、しじょうの宇宙 (集英社文芸単行本)

坂下あたると、しじょうの宇宙 (集英社文芸単行本)

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/02/05
  • メディア: Kindle版
 

2020年2月。長編。

町屋良平を読みながら「これもう詩じゃん」と言っていたら本当に詩をテーマにしてきた一冊。

 

あらすじ…主人公・毅と友人・あたるは小学校が一緒で、高校で再会してつるむようになった。あたるは人付き合いが苦手なキャラだけど、詩や小説や批評まで書いたりする天才文学者の卵。ネットに文章を発表したり、新人賞の最終候補に残ったりする。その周りをフラフラしながら毅も詩を書き始める。

 

日々いっしょに遊んでいて、坂下あたるの「あえて語らなかった」あるいは「語りこぼした」ことばの集合でできている。あたるのことばの結晶化を逃れたもの、ダイヤモンドの削りかすみたいなのを、おれが拾い集めてできているのが、おれの詩だ。

P9 

自分のオリジナリティに不安を覚えつつ、新しい世界を覗き見る毅。そこにあたるの彼女・さとかちゃん、さとかちゃんの友達・蕾、文章投稿サイトの創設者などが絡んできて、一波乱。

 

びっくりなのは、この文脈でAIが登場するところです。泥くさい青春&現代詩をやっているのに、急にサイバー。よくここに絡めたね?と思います。

蕾ちゃん(口が悪い)が詩を朗読するところが好きです。あと、あたるは途中で失語してしまうのですが、失語の前に彼の世界観が表出する5ページにわたる長台詞がいいです。

ようするに愛は三角形で、お互いにひたすらむきあうのではなく、頂点にいるものをふたりでみて、反射するものをいつくしむことが愛だ!

P36



みんなのつぶやき文学賞で、2020年第10位になりましたね!

第1回(2020年)つぶやき文学賞|国内篇受賞作一覧 | みんなのつぶやき文学賞公式サイト

冒険の記録 

冒険の記録

冒険の記録

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/04/10
  • メディア: Kindle版

「かれ」とその幼なじみ、ふたりの過ごした時間に重ねられる僧侶と勇者という役割。そして言語と魔法、勇者と魔王の同一性。本作は反青春小説あるいはポスト青春小説の試みである。町屋良平初の電子書籍書き下ろし。 

Amazon 商品説明より 

カオスな商品説明!

こちら、kindleでしか読めない作品です。かなり短編。400字詰め原稿用紙換算約24枚だそうです。それが280円。

 

のちの作品の前触れみたいな、坂下あたる再来みたいな設定もありながら、ファンタジーに足突っ込んでいるのに情緒。もうね、ミラクルよ。

 

幼なじみの少年が勇者になって、自分は僧侶になって勇者を描写しながらボルヘスを読むけど挫折するの。コルサタルにも挫折した頃には、自分も攻撃魔法が使えるようになってるの。ねぇ、この世界どこ???

 

勇者がそれを眺め、「おまえ、ひかってるぞ」という。

「そりゃ、ひかりもするよ」

なんでひかるの?

「おまえのことを、理解できそうだからだよ」

(本文と同じ箇所を太線にしています)

 

数ページでトベるのでおすすめです。 

ふたりでちょうど200% 

ふたりでちょうど200%

ふたりでちょうど200%

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/11/03
  • メディア: 単行本
 

2020年11月。連作、というにも感覚がヘンな短編集。発売前に全タイトル見て爆笑しました。

  • 「カタストロフ」
  • 「このパーティー気質がとうとい」
  • 「ホモ・ソーシャルクラッカーを鳴らせよ」
  • 「死亡のメソッド」(書き下ろし)

こんなタイトルで、主題をずらしながら繰り返すんです。連作短編集って言わないかもしれない。

男性2人が、友達だったりアンチだったりしながら交流したりしなかったり。。。重ねていくから情緒が大変なことに。

 

あと、これはライターさんは読んだ方がいいと思います。終わり方に注目。

 

(短編)四半世紀ノスタルジー

これに短編が載っています。『四半世紀ノスタルジー』というタイトル。

25の短編小説 (朝日文庫)

25の短編小説 (朝日文庫)

  • 発売日: 2020/09/07
  • メディア: 文庫
 

他の作家さんはコロナ禍の話題にしておられる方が多いんですが(金原ひとみと津村記久子がよかった!)、『四半世紀ノスタルジー』はコロナ禍関係なく、とあるカップルの話でした。DV描写が怖かったです…

 

「幾ちゃんはいい子だよ」

「いや、すごい、もっと、いまとは違うのよ。ぜんぜん」

「そんなのどうでもいいことだ。皆いい子はいい子だよ。殴るほうがわるくて、殴られるほうはわるくない」

「そんなのわかってるけど」

「わかってない。きみはわかってないんだよ。自分たちはわるくなかったってことが。おれたちがわるかったことをほんとうにはわかっていないことが、ほんとうにどれほどわるいかも、わかってないんだ」

p427『四半世紀ノスタルジー』

 

(日記)パンデミック日記

こちらでは、1月8日から14日の日記を書いています(2020年の話)。二番目に出てきたのでびっくり。この時はせっせと小説を推敲しているようでした。

日記と言えば、

リレー日記『全身が青春』

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toibooksさんの通販サイトで購入できます。九州ですが2日で届いてびっくり!

作家さんと本屋さんで、noteでここ数年書いていたものの単行本化ですね。

良いタイトル。町屋さんはいろいろな形式のものを書いてらっしゃいます。

野間文芸新人賞!長編「ほんのこども」

群像に載ったぶん、連載?が一冊に。

初出:「群像」2020年1月号、10月号、12月号、2021年2月号、4月号、6月号。掲載連作を大幅に加筆・改稿したものです。

『ほんのこども』(町屋 良平)|講談社BOOK倶楽部

大変な力作、そして問題作でした。這いつくばって読め。私の感想ツイートも混乱しています。

 

倉本さおりさんによる評も出ています!

 

追記・2022/11/04 『ほんのこども』が野間文芸新人賞を受賞しました!めでたい!芥川賞も獲ったのに!?すごい!

 

「私の文体」

まだまだある群像。文学界と新潮にも、単行本化されていない短編がある気がしますが!

「私の文体」は、13ページほどの短編でした。創作です。

心療内科に行ったりコロナを気にしたりしています。…創作って書いてあるんだけど「町屋さん」って出てきます。ゲラ作業をされています。

不思議に面白かったですが、これは単行本化するの難しいのでは…?

 

私の批評

町屋さんの「わたしの~~」シリーズ、短編では『文藝 2023年春季号』に載った短編小説「私の批評」があります。

こちら、川端康成文学賞を受賞しました!!(2024春)

www.shinchosha.co.jp

連載『生活』

『ほんのこども』以降、どういうものを書いていくのかすごく難しいと思うんですが、始まりました、新連載。

まずは新潮で『生活』。 ※2024年4月時点でも連載中。「生活 第二部」8回目なう。

文庫解説

wikiに載っていない系の話をすると、私が把握しているのは文庫解説(他にもあるかも) 

物語のなかとそと (朝日文庫)

物語のなかとそと (朝日文庫)

  • 作者:江國 香織
  • 発売日: 2021/03/05
  • メディア: 文庫
 
適切な世界の適切ならざる私 (ちくま文庫)

適切な世界の適切ならざる私 (ちくま文庫)

  • 作者:文月悠光
  • 発売日: 2021/03/12
  • メディア: Kindle版
 

 

などです! 

 

短編「私の推敲」

この雑誌とても面白そう。金原ひとみですもの。

文藝 2022年秋季号

文藝 2022年秋季号

  • 河出書房新社
Amazon

と思っていたら、書籍化されました!

「私の推敲」は本当に私小説っぽくて、ちょっと口調が違えばエッセイなんじゃないの?という手触りの作品でした。でも創作だと思うけどね?イマジナリーにいう、全作がんばって読むぞ。

 

恋の幽霊

帯をはずすと、こう。
恋の話というか、青春の4人組の話で。大人になった視点もありつつ、恋のパワーが縦横無尽に…。濃かったです。

終わり方はいい感じだけど後味は良くない、さすがの読後感。

生きる演技

2024年3月の新刊。文藝に連載されていたものだと思います。

なんと、発売前重版になっています。純文学ではかなり珍しくない?

生きる演技

生きる演技

Amazon

試し読みページがあるよ!

町屋良平『生きる演技』刊行記念 冒頭無料公開|Web河出

公園で始まるの、『しき』みたいでいいです。

暗闇の解像度を上げると光った。

始まり方が天才すぎるよ……。

 

イベントもありますね!

【オンライン視聴/イベント参加券】柴崎友香『続きと始まり』×町屋良平『生きる演技』「小説」は「...

倉本さおりさんとやっているシリーズ ↓ は、三回目になるのかな?

町屋良平+倉本さおり『読むこと、書くこと』https://peatix.com/event/3909162

 

インタビューはこちら。2つ見つけました。

realsound.jp

www.youtube.com

インタビュー(する方)

江國香織の最新刊『川のある街』、私も気になっています。私、『きらきらひかる』からリアルタイムでほとんど読んでいるので…。

川のある街

川のある街

Amazon

 

で、新刊について、町屋良平さんがインタビュアーとして取材をした記事が出ています。

これどういう仕組みなのか、ご本人が希望されたのか。

note.com

「冷静情熱」から江國に入ったとは驚きかも。江國なら『神様のボート』とかもいいですよ。

 

 

関連リンク作家の読書道 第210回:町屋良平さん - 作家の読書道

 

【関連記事】

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2021年3月に観た配信・主に文芸(山崎ナオコーラ/岸政彦/山内マリコ/ジェーン・スー/pha/能町みね子)

peatixは、配信が終わってもアーカイブを3週間も残すなら、後からでもチケット買えるようにしておいてほしいよ!!!

『オビー』刊行記念 キム・ヘジンさん×山崎ナオコーラさんトークイベント「生きづらさを抱えるわたしたち」

『オビー』刊行記念 キム・ヘジンさん×山崎ナオコーラさんトークイベント「生きづらさを抱えるわたしたち」を開催します。|新着情報|書肆侃侃房

 

ついでに過去作品を読みました。

 

肉体のジェンダーを笑うな

肉体のジェンダーを笑うな

 
オビー (韓国女性文学シリーズ9)

オビー (韓国女性文学シリーズ9)

  • 作者:キム・ヘジン
  • 発売日: 2020/11/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

ナオコーラさんのこと師匠って読んでます。福岡出身の大好きな作家さん。

ブスの自信の持ち方

ブスの自信の持ち方

 

 

『リリアン』(新潮社) 刊行記念岸政彦 × 山内マリコ オンライントークイベント

『リリアン』(新潮社) 刊行記念岸政彦 × 山内マリコ オンライントークイベント | 青山ブックセンター

 

ついでに観ました。過去作品。原作は既読でした。これ好き!

 

ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

  • 発売日: 2019/04/24
  • メディア: Prime Video
 
ここは退屈迎えに来て

ここは退屈迎えに来て

 

 

ついでに未読作品を読みました。

 

リリアン

リリアン

  • 作者:岸 政彦
  • 発売日: 2021/02/25
  • メディア: 単行本
 

『リリアン』は、大阪の描写などはよかったんですが、『図書館』の方が好きだったかも?

読み返すと印象変わりそうではあります。

これ推敲なしなのか…と思うと、すごさが分かるのは面白かったです。常人には無理!

 

『あのこは貴族』映画が観たいですね!フォロワーさんたちも絶賛していました。私は原作も未読。 

あのこは貴族 (集英社文庫)

あのこは貴族 (集英社文庫)

 

 

私、山内マリコさん全部は読んでないんですけど、比較的新しめのこちらがめちゃくちゃ!!!よかったですよ!!!

これは読んでほしい。 

選んだ孤独はよい孤独

選んだ孤独はよい孤独

 

私と同い年。 

 

“漠とした3名”ジェーン・スー能町みね子pha40代3名による“よもやま話”

“漠とした3名” – LOFT PROJECT SCHEDULE

 

「東大と京大に挟まれたフェリスの気持ち分かる?」とか「猫が推し」とか「猫をなでるように性交をしてはいけない」とか、名言ばっかり飛び出てました。

これはまだアーカイブで買えるのかも? 2100円で2時間10分くらい。4月13日まで。

 

アフタートークだけでも楽しい感じ。仲良しなのが伝わりますね。

youtu.be

 

こちら、連載されていたのを数回読んだことがあります。能町さんでは旅モノとOL日記っぽいものを読んだことが…ずいぶん前かも。

結婚の奴

結婚の奴

  • 作者:能町 みね子
  • 発売日: 2019/12/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

phaさんのフィクション未読ですが、評判がいいですね。 

夜のこと

夜のこと

  • 作者:pha
  • 発売日: 2020/11/20
  • メディア: Kindle版
 

 

私にはこちらがバイブルと化しています。 

 

そしてジェーン・スーさんのPodcast「オーバー・ザ・サン」の大ファンです。オーバーなみんなはけっこう楽しいと思うよ、この配信!

 

みんなのつぶやき文学賞 結果発表 

youtu.be

 

こちらまだまだ無料で見られます!結果発表!

 

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乗代雄介の小説からおすすめ5選、デビュー作や新作も

(2023/09 更新)

少し前に芥川賞候補になった『旅する練習』が、私のTL上で異様に評判がよかったので、乗代雄介(のりしろゆうすけ)さんを読んでみました。

…すごく不思議な感じのする作家さんですね… 

今から読みたい、という人のためにオススメ5選しておきます!誰かの参考になれたら嬉しいです! 

群像出身の方です。わかる。ということで小説はオール講談社。ラストのだけ国書刊行会、渋い。好きな順に並べたので刊行順にはなっていません!

1.旅する練習

乗代雄介『旅する練習』書影

これは、ネットが盛り上がる意味が分かる。受賞してもよかったのでは…?の第164回芥川賞候補作。 

そして三島由紀夫賞を獲りました!

 

表題作のみ収録の一冊。ノンシリーズ。 今から乗代さんを読む人にダントツでおすすめしたいです。

 

・あらすじ…小説家を目指している主人公は、中学生になる姪っ子・亜美(あび)とサッカーの練習をするのが日常。けれどコロナ禍でなにも予定が立たなくなった春、2人で小説とサッカーの練習の旅に出かけることにした。

我孫子から鹿島まで、できるだけずっと書きながら蹴りながら。

 

こういうのロード・ノベルって言いますかね。(参考記事:読んだら旅に出たくなる旅小説を集めてみた8選 - きまやのきまま屋

 

亜美はボールさえ蹴っていればたいてい機嫌がいい。私が書いてさえいれば機嫌がいいのと同じように。

P17 

仲良しの叔父と姪。そして亜美の言動が元気いっぱいでかわいい!明るい性格のサッカー少女ってこういう感じなんだなぁ。生き生きとしている。 

そして途中で悩める女子大生「みどりさん」に出会う。亜美が懐く。みどりさんも「わぁ、生き生きしてんなサッカー新中学生…」って思ったと思う。

 

出会ったことで、亜美とみどりさんは、考える。

亜美はきっと、もっと上手くなりたいと願っていた。自分自身で求めたもの。求めること。それだけを考えて生きること。生きたこと。先の見えないこんな状況は、それを考えるのに適していると言ってしまっていいのだろうか?

P81 

このあたりちょっと保坂和志っぽいですね。で、コロナ禍の感じが出ている。コロナ禍ロードノベルでした。

 

また、「優等生タイプで生きてきちゃったから逆に誰からも好かれていない気がする」みどりさんの煩悶も分かる、気がするけれど、この本ではやはり亜美が素直に真理に到達しました。

あたしが本当にサッカーについて考えてたら、カワウも何も、この世の全部がサッカーに関係があるようになっちゃう。(中略)本当に大切なことを見つけて、それに自分を合わせて生きるのって、すっごく楽しい。

P138 

 

一方で「私」は景色をスケッチのように描写して文章に落とし込みながら、柳田國男や小島信夫に思いめぐらせ、考える。

本当に永らく自分を救い続けるのは、このような、迂闊な感動を内から律するような忍耐だと私は知りつつある。この忍耐は何だろう。

P104  

書き続けることで、かくされたものへの意識を絶やさない自分を、この世のささやかな光源として立たせておく。そのための忍耐と記憶

P130  

旅をしながら精神的に成長していく少女、自分を見つめ直して就職に挑もうとする女子大生、たんたんと描写する「私」。

 

この「私」の書くものが「旅する練習」という小説そのものなんですが、たまに時間がブレるんですよ。

リアルタイムで書かれていた、景色を描写した記述が入り、亜美の日記も登場するけれど、どうやら私の時間軸の中心は旅の終わった後にあるらしい。5月頃。

 

それには理由があるんですけど、まあそれは最後に分かってしまうのでいいとして、

こうやって時間をズラすことによって全期間の感慨を含めてこようっていう書き方がニクいですよね。奥行きが出るというか、思考が重ねられる。

時間が進めば進むほど、人は起こったことに対して色々なことを考えるものだから。

(読み進めていくと、他の作品でもそういうことをしていらっしゃる作家さんでした)

 

ここが好き。

ただ大事なのは発願である。もう会えないことが分かっている者の姿を景色の裏へ見ようとして見えない、しかしどうしようもなく鮮やかに思い出されるものがある。

P156 

 

話題になった『旅する練習』すごく好きなので、これが一番オススメです!

でも「読後感さわやか」というわけではないので、うん、ゆっくり読んでください。

旅する練習

旅する練習

  • 作者:乗代雄介
  • 発売日: 2020/12/28
  • メディア: Kindle版
 

2.最高の任務

乗代雄介『最高の任務』書影

最高の任務

最高の任務

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 単行本
 

中編が2つ収録されています。

  • 生き方の問題
  • 最高の任務

タイトルが絶妙にいいですよね。読み終わってから振り返るとさらにいいんですよ、これが。

  

・『生き方の問題』あらすじ…小学生の頃に「おばあちゃんち」で年に数回会っていた年上の従姉「貴ちゃん」に、僕はずっとほのかな憧れを抱いていた。貴ちゃんがアイドルとして活動を始め、結婚して子供を産み、離婚したことを知っても。そして社会人になった僕のところに、貴ちゃんから電話が来て、久しぶりに田舎で会った夏の日。

のことを、一年後に手紙に詳細に書く。

 

読んでいて、あれ?と何度か思ったんですけど、ずっと手紙なんです。

 

その日の描写も今の感慨も混ぜて、相手に語り掛け、時空を飛び昔話をし、山を登っていても彼女を眺めていてもずっと一年後からの手紙。それを彼女が読む、たぶん読むだろう、という前提で手紙。

 

すごくない??

書簡モノ好きにはたまらないです。面白かった~、そして情念でした。 

 

・『最高の任務』あらすじ…阿佐美景子サーガ。敬愛していた叔母・ゆき江ちゃんが亡くなったショックで留年した私の一年遅れの大学卒業式に、なぜか家族全員が来ると言う。そしてランチの後、急な卒業旅行が始まった。「あんたの小学五年生以来の卒業」と言う母と、事情を知っているらしい父と弟と一緒に。 

私はこの目に映る景色について書くことが好きだ。思弁や回想を長回しするよりずっといい。こういう考えだって、叔母が巧妙に根付かせたものだと思えてならない。

p131

 こちらは日記文学です。主人公が小学五年生の頃から書いている日記(叔母のゆき江ちゃんが書くように勧めてきたから、ゆき江ちゃんが読もうとしてくるのを楽しみに書き続けた)の描写を、今の主人公が読みます。

 

また、叔母が亡くなってから書き始めた部分もある。大学休学中に叔母と行った場所を一人で再訪して、記憶を蘇らせながら書いた文章。

それを読み返す「今」の私、を書いている私の文章がこの小説。これまた多重的に。

 

慕っていた(教育係を兼ねていた)叔母が亡くなった事実に打ちのめされてしまう。けれど叔母が残したもの(仕掛け?)によって現実と共存できるようになる、ための家族旅行。家族のキャラクターも面白いです。

自分を書くことで自分に書かれる、自分が誰かもわからない者だけが、筆のすべりに露出した何かに目をとめ、自分を突き動かしている切実なものに気付くのだ。

p174

 

ジャケも好き。『最高の任務』の方が、第162回芥川賞候補作品(2019下半期)。

最高の任務

最高の任務

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2020/01/11
  • メディア: 単行本
 

 

3.皆のあらばしり

f:id:kimaya:20220224123232j:image

2022年に発売になった新刊『皆のあらばしり』を読んで、このランキングを見直しました。

『皆のあらばしり』、ベスト3入りです!!

第166回芥川賞候補作。これでも獲れないの?他の候補がよかったパターンか。

 

表題作のみ、そんなに長編でもないノンシリーズで歴史探索モノか、地味だな…と思いながら読み進めたら、いい感じにどんでん返しされて、とてもサイコーの読書体験でした。

高校生の主人公でも恋愛に寄せないところがまた、いい。知識欲が生きる源である、と。

「青年はえらいわ」とそれを見透かしたように言う。「この世はな、知らんことには、 自分が知らんという理由だけで興味を持たれへん、それを開き直るような間抜けで埋め尽くされとんねん。せやから、自分の知っとる過去しか知らずに死んでいきよる。 八十でくたばる時に考えるんは八十年間のこと、つまり頭からケツまで己のことや。己のことを考えるから苦しむっちゅうことに気付かず、今に通用する身の振り方だけ を考えて、それを賢いと合点して生きとんねん。情けない話やのー。青年が、そんな退屈な奴らを歯牙にもかけんと生きていけるよう、わしは願うばかりやで」

ぼくは勉強しなければならないだろう。この男のようにとは言いたくないけれど、この男ぐらいに、知識を溜めこんで、自在に使わなければならない。

(P64-65)

『本物の読書家』に出てきた男を彷彿とさせる、関西弁のなんか物知りなよく喋るおじさん。いいキャラです。

でも、対する高校生も負けていませんよ。ふふふ。

歴史が好きな人はこれから読み始めても楽しいかも。聖地巡礼も捗ります!

www.shimotsuke.co.jp

4.本物の読書家

乗代雄介『本物の読書家』書影

中編2つです。『本物の読書家』は第40回野間文芸新人賞を獲っています。この本は、固めな話が好きな人にオススメ。

  • 本物の読書家
  • 未熟な同感者

 

・『本物の読書家』あらすじ…親戚に面倒をみてもらうより知った土地の老人ホームに入りたい、と言う高齢の大叔父を、主人公が電車で送り届ける。

どうして僕なのか?とは思わなかった。なぜなら大叔父は「川端康成からの手紙を持っている」ことを示唆していて、その価値がわかるのは親戚内で僕だけだから。

しかし送り届ける電車内で、不可思議な男と乗り合わせる。男と僕は愛読書が一緒であった。メジャーとは言えない『黒い笑い』。めっちゃマニアックな話が展開していき…。

 

文学ネタが好きな人はとても好きそう。

川端康成からナボコフまで。しかしこの共通点ちょっと気持ち悪いな。色々と引用も挟みつつ話が進んでいきますが、同乗者(関西人)のキャラが濃い! 

https://twitter.com/siteki_meigen/status/1374342386248081408

 

最後のネタばらしにけっこう驚きました。主人公もびっくりしています。

ちょっとだけ「これは自伝なのか?」と思う描写がありますが、まあ、違うんじゃないかな。

今、わたしは一つの確信を得ている。それは、もしも「事実は小説より奇なり」だとするならば、その事実の構成員に本物の読書家は含まれないというものだ。本物の読書家は事実の中に棲まうことを拒否すると言い換えてもよい。

p107


・『未熟な同感者』あらすじ…敬愛していた叔母を亡くして無気力になってテキトーに入ったゼミで、妙に博識な教授と、圧倒的に綺麗な同性のクラスメイトに出会う。教授にはおかしな噂があり、クラスメイトは美人すぎる。

 

これ主人公の女の子、『最高の任務』の子ですよね。つまり阿佐美景子サーガ、大学生活編!あの子、学校ではこんな感じだったんだなぁ~。

 

こちらも色々ややこしいです。

主に描写されている授業の内容が、サリンジャー・カフカ・フローベールなどでややこしいし(でも文学の授業ってこんな感じだったね、ほんとに)、美人のクラスメイトは『南方録』を10年間読み続けていて、叔母の遺した蔵書は莫大。 

しかしその絶望は、絶えざる探求が本当に行われていると心から信じられるような瞬間に感じる無限性ゆえに、またその探求に用いた言葉の独立性のなさゆえに、よほど希望に似てくる。

P209  

 

世間(というか面子の濃いゼミ)で揉まれた主人公が考えることが、さまざまな引用に囲まれていて、ヘンテコな世界でした。

理解しようと追いすがる。『最高の任務』と構造が似ていますね。阿佐美景子サーガのテーマなんでしょう。

本物の読書家

本物の読書家

  • 作者:乗代 雄介
  • 発売日: 2017/11/24
  • メディア: 単行本
 

参考文献が1ページ半あるタイプの小説。じっくり迷いたい人はレッツトライ。サリンジャー論が好きな人なら絶対楽しめます!

22年7月に文庫化されるそうです。

5.デビュー作『十七八より』 

十七八より

十七八より

  • 作者:乗代雄介
  • 発売日: 2015/09/25
  • メディア: Kindle版
 

デビュー作であるこちらもおもしろかったです。群像新人賞受賞作。 

『最高の任務』、『未熟な同感者』と同じ主人公で、高校時代!ここまでくるとすっかり景子ファンになりました。 

つまり、いわゆる「阿佐美景子サーガ」の最初の作品です(刊行順としても、主人公の年齢でも)

とにかく、許されてるって思いながら何かすることがいやでいやでたまらないの。許されなきゃ何もできないみたい。何でも許されたがってるみたい。ほんとはぜんぶ許されることを知ってるみたい。これって神経症?」
「文学よ」と叔母は言った。「退屈でしょう」

p129

文庫になっています!表紙かわいい。部屋のイメージぴったりですね。

ブログが本になっています

kindleだと、まさかの分冊になっています。

これをまだ私は読み切れてなくて!物理本はとても分厚いです。。。

 

こちらは小説ではなく、書評集…というよりブログの単行本化のようです。

一人きりで15年以上書き続けたブログが書籍化されるまで(寄稿:乗代雄介) 週刊はてなブログ

 

元のブログはこちら。はてなブログにいらっしゃいます!

norishiro7.hatenablog.com

2021年の新作たち

2021年の12月に2作品出ました!

ベスト3に入ったこれと、

書評半分、フィクション半分のこちら。

(フィクションをメインに読んでいるため、こちらはまだ読み途中ですので、読んだら紹介しますね!サリンジャー『ライ麦畑でつかまえて』の博物館の話が出てきて、興味深いです)

 

2022年の新作『パパイヤ・ママイヤ』

2022年の一冊目は、表紙が真っ黄色なこちら。色にもちゃんと意味がありますよ!

推薦文を書く人のラインナップが絶妙ですね。なぜ植本一子さん?と思ったら、『パパイヤ・ママイヤ』では写真が重要なモチーフになっていました。(あと、植本さんが自費出版の日記で『旅する練習』を絶賛していました)

 

この推薦文がぜんぶ濃いので、ぜひ読んでみてください。

『パパイヤ・ ママイヤ』刊行記念SPECIALレビュー | 小説丸

 

こちらはサーガではなく、ノンシリーズ。高校生は主人公だけど景子ちゃんではなく、パパイヤとママイヤというハンドルネームの二人の女子高生が、干潟で待ち合わせをするところから始まります。実在の干潟らしいです。

 

バレー少女で健康的で、でも家に問題を抱えているし学校に馴染んでいるものの違和感があるパパイヤ。

あまり自分のことを語ろうとせず、異様に干潟の周囲に詳しいママイヤ。

この二人のひと夏の思い出、心を開こうとしないのに寂しがりなママイヤが

わたしの人生を使ってこの体や頭がけりをつけようとしている色々とはあまり関係なく、わたしはこの時、彼女を親友と思うことに決めた。

P175

と決めるところまで。

 

探し物をしながら海辺を巡りバスに乗ったり、ロードムービー感もあります。百合ではないですね。高校生くらいってこれくらい距離近いこと多い。ただ、ママイヤからの描写はときめいたりもします。健康になめらかに体を使える人への憧れ。

シスターフッドというほどの連帯でもなく、辛い人同士が惹きあって友達になる、シンプルで深いストーリー。

 

写真も音楽もモチーフとして出てくるんですが、この小説はけっこう実験的で、写真も音楽も文章でやっちゃいます。

この描写にはちょっとびっくりしました!乗代さんやっぱり強いぜ。

 

私の好みではおすすめ5選には入らなかったけど、読後感さわやかでジュブナイルで、春夏に読むのにぴったりでした!

表紙が黄色いのにも理由はあった。

shosetsu-maru.com

 

芥川賞候補作『それは誠』(2023上半期)

候補作にはなったものの、受賞はしませんでした。

ルーツに悩む少年の、修学旅行のドタバタ。友情メインのロードムービーっぽい。いい話だなぁと思いました。さくっと読めつつ、構成は凝っている感じ。

 

この作品に出てくる「叔父さん」は、カッコいいとか博識だとかはなくて、不器用だし主人公のことを忘れていたかもしれない。

でも「それは誠」って刷り込んでくれた、不器用なりに。

 

エッセイ

ベスト・エッセイ2023に載っていた「教えてあげたい」は、コミカルエッセイでしたね。乗代さんみたいに賢い人って、自意識も大変そう。

 

作家さんの読書遍歴はこちら。

www.webdoku.jp

 

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町屋良平『ショパンゾンビ・コンテスタント』を解析する

コンテスタント…(コンテストの)競争相手。競技者。

ショパンゾンビ・コンテスタント

ショパンゾンビ・コンテスタント

 

 

再読してみたら圧倒的にすごかったので、書かずにいられなくなってしまった。解析するしかない。感想でも解説でもなく解析してみました。

 

『ショパンゾンビ・コンテスタント』はだいたい、5つのパートが入り混じっています。

 

いちおう時系列だけど5つが混乱。いや、反復している。

1・ショパンが演奏されているのを源元と聴く/観る

源元は、主人公「ぼく」が音大に通っていた頃からの友達。ぼくが音大を辞めてピアノをやめてからも、源元はうちに泊まりに来てダラダラする。一緒にYouTubeでショパンコンテストの演奏を観る。

 

源元はピアノを続けていて、というか天才に近いので、ずっとピアノ漬け。それに付き合っている主人公は、小説について考えたりする。

音楽について考えることは、芸術について考えることで、文章について考えること。

説明では至らない表現のきびしさ、孤絶だけがそこにある。だけど、だれにもわかられないままで演奏なり小説なりを、完成させておかなければ、聴衆も読者もうまれえない。 

P101 

 

→この聴く/観る、というのが最終的に「源元の演奏を観る」場面につながっているので、多重構造だなぁと思う。

一緒に観ている間に源元はこういう解釈をしていた、という回答が演奏によって与えられる。

2・潮里との恋愛、バイト、バイト先の友達

潮里は源元の彼女。源元にすすめられて始めたファミレスのバイト先にいた。もう告白したけど、そもそも源元の彼女なのでどうともならない。でも仲良くしてくれる。

バイト先の寺田くんは小柄でお金持ちで、みんなで名古屋に旅行する。「ぼく」が書いた小説を読んでは旅に行きたがる寺田くんは、ピアノにも詳しい。キッチンを回すのがうまい。

 

→女の子が一人。で、三角関係みたいにして「あまやかだ…」と思ったりする。いつもの町田節である。そして寺田くんとその許嫁が、いつもの「他者」を担っている。 

3・小説を書くこと

主人公は小説を書いている。音大を辞めてから書き始めた。小説を書けばいい、と源元がすすめた。二十歳なので

ぼくはまだ若い。小説をかく年齢をしては、まだ情緒がソワソワしているのだろう。 

P111 

と言って、あまり切羽詰まってはいない。 

 

→あらゆる「ぼく」の行動が源元に由来していてもはや怖い。しかも小説にも源元のことばっかり書いている。

これは1のせいかもしれないし、単に源元が天才だから影響が大きい、というだけかもしれない。どちらでもいいと思っていると思う。なぜ?はラストに。

4・源元と自分を主人公にした、「ぼく」が書く小説 

なんか急に場面変わった?…と思ったら、作中作に放り込まれていた!という瞬間が多々あります。これは狙っていると思うけど、切り替わりがおもしろい。

登場人物が同じなので、こちらから見るとパラレルワールドっぽくもある。

 

→それを読んで潮里がいろいろ言う。それで2の時間が進む、という流れもある。源元も読むよ!

5・ショパン(ピアノそのもの)についての引用/考察

一気に読者を置いていく引用がけっこう長い。16ページ目にして1ページ半に及ぶ「ピアノを弾くときの12ヶ条」みたいなものが書かれ、文献が引用され、ショパンについて語られる。

 

→よっぽどピアノに知見の深い人じゃないと読み飛ばすんじゃないか(私みたいに)。けれどこの部分があることで、意味深さやトリッキーな奥行きができている気がする。内容とリンクしたりも、たまにする。

 

全部を混ぜたら芸術論ができていた 

世界をもっとよくみろ。自然をみて、芸術をみて、学問をみて、その関係性とじぶんのからだとの身体感覚さえつかめれば、ぼくだけの詩情と文体の交通が見つけられるかも。

P139 

139ページのここから次の段落にかけて、けっこうすごいことが書いてあって、感動します。 

 

けれど芸術論がこの小説の結論ではない

小説に結論を求めるなんてナンセンスかもしれないけれど。

始めの方で、音大を辞めるという分かりやすい挫折をした「ぼく」は、友達たちが分かりやすく天才であったり、論が深かったりすることに劣等感を持っていたし、源元からあらゆる影響を受けてしまうように、源元のことも他者として異世界として「天才だ」と思っていたけれど、ずっと一緒にいて、いすぎて、

そうか、源元は天才なんかじゃない、一瞬天才を呼んで宿ることに、慣れた選ばれたからだをつくっている最中なんだ、とわかった。

P158 

というところがいいですよね。私の「文才」論もそういう感じなんですよ!センスみたいなものはあるとしても、天才というものはそうそうないのでは?と思っているので! 

 

 

Kindleもあるよ〜

ショパンゾンビ・コンテスタント

ショパンゾンビ・コンテスタント

  • 作者:町屋良平
  • 発売日: 2020/04/03
  • メディア: Kindle版
 

 

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【50%ポイント還元】Kindle本キャンペーンが、3月4日まで!

50%ポイント還元の季節がまたやってきました 

amzn.to

 

前回はこちら→冬のKindle本キャンペーン2020、50%ポイント還元で大変なことに

 

kindle本を買った瞬間、半額がポイントバックされるセールです。

慌てふためきます。

 

小説・文芸は、とにかく「◯◯賞受賞作」が多い

ツイートもしましたが、ざっと「小説・文芸」カテゴリを見た感じ、芥川賞&直木賞の「受賞作」が多いですね。っていうか文藝春秋作品ばかりだ。

私自身は、受賞前後の作品を読むのが好きなのですけど、これタイトルだけ知ってた!という作品がたくさん。 

【第163回 直木賞受賞作】少年と犬 (文春e-book)

【第163回 直木賞受賞作】少年と犬 (文春e-book)

  • 作者:馳 星周
  • 発売日: 2020/05/15
  • メディア: Kindle版
 

単行本が1599円で、800ポイント返ってきます。

【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)

【第162回 直木賞受賞作】熱源 (文春e-book)

  • 作者:川越 宗一
  • 発売日: 2019/08/28
  • メディア: Kindle版
 

 

影裏 (文春文庫)

影裏 (文春文庫)

  • 作者:沼田 真佑
  • 発売日: 2019/09/03
  • メディア: Kindle版
 

 

あと、『火花』や『コンビニ人間』などは、セールの常連でもあるかと思うんですが、地味に懐かしいのもたくさんありました。 

春の庭 (文春文庫)

春の庭 (文春文庫)

  • 作者:柴崎友香
  • 発売日: 2017/04/28
  • メディア: Kindle版
 
妊娠カレンダー (文春文庫)

妊娠カレンダー (文春文庫)

  • 作者:小川 洋子
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
 
されどわれらが日々── (文春文庫 し 4-1)

されどわれらが日々── (文春文庫 し 4-1)

  • 作者:柴田 翔
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
 

人生が何もわからなくなったら柴田翔を読むのいいですよ。 

 

200ページ近くあるのでまだまだチェックし終わらないんですが、三浦しをんの便利軒シリーズと、奥田英朗のドクター伊良部シリーズが、たぶん全部ありました!

そして吉田修一の古めの作品がたくさんあった、『路』らへん。

 

エッセイも 

さっそく買って読みました。

鳥肌が (PHP文芸文庫)

鳥肌が (PHP文芸文庫)

  • 作者:穂村 弘
  • 発売日: 2019/07/10
  • メディア: Kindle版
 

鳥居さんが出てきましたね~。『キリンの子』よかったです。 

 

 

角田光代さんが充実しています。 

これからはあるくのだ (文春文庫)

これからはあるくのだ (文春文庫)

  • 作者:角田 光代
  • 発売日: 2012/09/20
  • メディア: Kindle版
 
なんでわざわざ中年体育 (文春文庫)

なんでわざわざ中年体育 (文春文庫)

  • 作者:角田 光代
  • 発売日: 2019/10/09
  • メディア: Kindle版
 

 

曽野綾子と遠藤周作もけっこうありました、エッセイ。 

 

ビジネス書…

私はこれを持っているんですが、130ページ付近で挫折しました。だれか代わりに読んでください。

 

あと、全体的にレビューが濃いこちらも。(未読です…その前に『日蝕』に再チャレンジしないと…)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)

本の読み方 スロー・リーディングの実践 (PHP文庫)

 

 

漫画 

amzn.to

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このへん姉が本州に持って行ってしまったんです。。。

一気買いすると一気にポイントが戻ってきます。計画的にいきましょうね…?

 

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歌集のおすすめ(最近読んだやつ

昨年から、こつこつと歌集を読んでいます。が、フィクションと詩集と混ざって、記憶が曖昧になりがち。

なので、歌集だけまとめておきたいと思います。もれなくおすすめです! 

ペンギンの見る夢は白い

これ、kindleで300円なんですけど、ものすごく楽しいので300円どころじゃないですよ!ここ数年で一番有意義な300円だった、と思う。

 

kindleアンリミテッドにも入っているようなので、kindleユーザーの方はぜひ。実物はBOOTHで買えるのかな?

ペンギンの見る夢は白い

ペンギンの見る夢は白い

  • 作者:木曜何某
  • 発売日: 2020/04/22
  • メディア: Kindle版
 

 

まず、ペンギンについて辞書またはインターネットで調べて理解してから読んでね、という但し書きが書いてあります。ペンギンを知らないと読めないです。 

 

カラメルとプリンが逆の配分でモロゾフがすぐ潰れた世界 

 

十二時に魔法が解けてくれないと終電乗るときすっごい目立つ

 

助けてと殺してくれはおなじことピラニアがもうそこまできてる

たいへんだ、私これ全部好きだ。

Twitter的かな〜?とも思います。 

風にあたる

山階基『風にあたる』書影

 

天才による凡人のための短歌教室』で挙げられていた一冊。これが、なかなか好みでした。日常系さわやかカジュアル。おすすめ。

木下龍也よりも印象はやわらかい。私の好み。

 

音楽を声に出したら泣いてしまう夜をだまってだまって帰る

 

なだらかな坂があなたで効きづらいブレーキのままここまでぼくは

 

炎天にうねるホースのしぶきから生まれる虹を消えるまで好く 

風にあたる

風にあたる

  • 作者:山階基
  • 発売日: 2019/07/23
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

Lilith

川野芽生『Lilith』書影

この、帯の二首いいよね。。。

 

夜の庭に茉莉花、とほき海に泡 ひとはひとりで溺れゆくもの

 

地下書庫に体熱を奪はれながらひとは綴ぢ目の解けやすき本

 

ほんたうはひとりでたべて内庭をひとりで去つていつた エヴァは

 

「ひと」で集めてみました。

ちょっと解説するのは諦めさせてほしいんですけど、古語で、美しいです。女性陣はグッとくる人多いのでは。古語でジェンダーをやる、その心意気が賢い。

Lilith

Lilith

  • 作者:川野芽生
  • 発売日: 2020/09/26
  • メディア: 単行本
 

 

歌集 滑走路 

こちらは、ロスジェネのみなさんに。読むと悲しく思うこともあるのですが、それでもこの本をこの形に仕上げた人のことを、私は尊敬します。

文庫解説は、又吉直樹さん。

 

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい

 

未来とは手に入れるもの   自転車と短歌とロックンロール愛して

 

屈辱の雨に打たれてびしょ濡れになったシャツなら脱ぎ捨ててゆけ

歌集 滑走路 (角川文庫)

歌集 滑走路 (角川文庫)

 

 

かわいい海とかわいくない海 end. 

瀬戸夏子『かわいい海とかわいくない海 end.』書影

こちら今更に去年読んだんですが、瀬戸夏子はなにがなんでもいいですね。カッコよくて憧れる。もうずっと、藤野可織くらい憧れてる。

だから藤野可織が好きな人は読んでください。本谷有希子でも読んでほしい。

星野智幸が帯を書いています。 

 

かがやいた毛並みに桃色のリボン音叉よりこのまま古典を捨てろ 

 

もうひとりがかつて春に惨殺されるのをみていた世界中の賛辞を浴びながら 

かわいい海とかわいくない海 end. (現代歌人シリーズ10)

かわいい海とかわいくない海 end. (現代歌人シリーズ10)

  • 作者:瀬戸 夏子
  • 発売日: 2016/02/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

わけのわからん掌編も入っていて、わけわからんかったです。 サイコーでした!

青卵

東直子『青卵』書影

 

読み応えの塊のような一冊。491首。

穂村弘との対談も載っていてオトクな文庫です。私、『回転ドアは、順番に』ファンなので。

 

波音がわたしの口にあふれ出す鳥が切り裂く空に会いたい

 

湯の中に重ねた指がふわふわと生きていました   空がつめたい

 

歩くならひとりがいいの青空に生まれた象のこどものように

「空」の使い方が面白くて、ぽかんとしてしまう感じ。日常に空。あと、水と夢と人生、という印象がありました。

青卵 (ちくま文庫)

青卵 (ちくま文庫)

  • 作者:直子, 東
  • 発売日: 2019/11/08
  • メディア: 文庫
 

 

天才による凡人のための短歌教室

木下龍也『天才による凡人のための短歌教室』書影

2020年下半期に読んでオススメな11冊、プラスα でもご紹介したこちら。

天才による凡人のための短歌教室

天才による凡人のための短歌教室

  • 作者:木下龍也
  • 発売日: 2020/12/25
  • メディア: Kindle版
 

Twitterでのエゴサが秒速な木下龍也さん!

こちらは歌集ではなく創作論なのですが、木下さんオススメの歌集が30冊書いてあって、今後追っかけて読みたいメモが捗ります。

 

あと、単純に本として面白い。どのようにして今の木下龍也ができあがったのか、と、何を気にして生きているのか。自作の短歌紹介、2020年に行われた短歌展(即興作成)の記録など。

 

版が進むたびに奥付に新作短歌が載るらしいので、百刷までいってほしい。今から買う人はたくさん新作が読めるので羨ましい…!

(関連記事:『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、7月頭に読むしかない(短歌)) 

短歌の友人

 

文庫になっているのを知らなかったので、買い直して再読。高橋源一郎が解説を書いています。歌集ではなく、歌論集。

再読して改めて、これはほむほむしか書けないなーという感じ。ちょっと私には難しくもあるので、また読み返したい。修辞的放棄「棒立ちの歌」には感動しました…。

 

色々な歌人の短歌が載っているので、誰か好きそうな人を見つけたい場合にもよさそう。それにしても、そろそろ続きが読みたい時代になってきました。 

短歌の友人 (河出文庫)

短歌の友人 (河出文庫)

  • 作者:穂村弘
  • 発売日: 2013/05/17
  • メディア: Kindle版
 

 

これから注目 

今、大人買いしたいシリーズ。 

世界が海におおわれるまで (現代短歌クラシックス04)

世界が海におおわれるまで (現代短歌クラシックス04)

  • 作者:佐藤弓生
  • 発売日: 2020/12/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

あと、笹井宏之賞に注目しています!

母の愛、僕のラブ

母の愛、僕のラブ

  • 作者:柴田葵
  • 発売日: 2019/12/16
  • メディア: 単行本
 

 

地上絵

地上絵

  • 作者:橋爪志保
  • 発売日: 2021/04/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

【その他の短歌の記事】

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2020年下半期に読んでオススメな11冊、プラスα

2020下半期の読了本は、97冊でした。 

10選に絞れなかったあげくに、プラスアルファで何冊か紹介したいと思います。「2020下半期に読んだ」なので古い本を含みます。

新作のベストが知りたい方は目次で飛んでね!

フィクション 国内

だまされ屋さん

だまされ屋さん (単行本)

だまされ屋さん (単行本)

  • 作者:星野 智幸
  • 発売日: 2020/10/20
  • メディア: 単行本
 

これ、もっと有名になってていい作品だと思うんですが、星野智幸の新作『だまされ屋さん』。

 

ある日、気持ちは元気なお婆ちゃん(子供たちとうまくいっておらず独居)のもとに、娘の婚約者と名乗る男が現れる。しかしどう考えても怪しい。娘に聞いてみたいけど電話するの怖い。そうだ息子もここ数年口きいてくれなくなったけど、嫁ならまだメールは返してくれるから連絡してみよう。。。 

 

なぜ、母親はここまで嫌われているのか?

そして兄妹もぎくしゃくし、いがみ合っているのはなぜか?

また、妹家族(母子家庭)に現れたもう一人の人物にも謎が多くて。

 

のように、あらすじだけだと狭いせせこましい家族モノみたいなんですけど、星野智幸なので!

要は、閉塞状態をどう打破するのか、ということ。

 

「正義の元に追い詰めて支配する男」

「正論ばっかり言っちゃってパートナーに嫌われる女」

「ソシャゲするしか救いのない男(課金で借金)」

「連携できる人、できない人」

など現代風な闇から、家族ごとコロッと救い出してくれます。変な方法で。

 

細かい言い争いや話し合いの描写が悲しいところもあるけれど、なぜ母は毒親になるのかなども考えつつ読むと大変楽しい!

ラストの参考文献一覧が、本気でした。

論文を書いてもいいところ、小説家だから小説になっちゃいました、みたいな一冊です。

サキの忘れ物 

サキの忘れ物

サキの忘れ物

  • 作者:記久子, 津村
  • 発売日: 2020/06/29
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

津村記久子の新作『サキの忘れ物』、短編集。 

こちらは、、、ハートウォーミングなのかもしれない。表題作は、軽めのネグレクトをされている女の子が読書に目覚める話。よかった。

私は「王国」のラストの目線がグッときました。幼稚園児目線から、まさかあんなことに。

 

で、ラジオが好きなら絶対この話好きだろっていう「喫茶店の周波数」、ただただ並ぶ現代社会からはみ出せない「行列」、私も無職で歩哨になりたい「河川敷のガゼル」、あとなぜかゲームブック。

…芥川賞作家の小説にゲームブックってついてるものでしたっけ?

おすすめです。読んで。

関連記事:津村記久子『ミュージック・ブレス・ユー!!』を青春音楽小説として全力で推したい - きまやのきまま屋

津村記久子 『サキの忘れ物』 | 新潮社

 

名もなき王国 

名もなき王国

名もなき王国

  • 作者:茂, 倉数
  • 発売日: 2018/08/03
  • メディア: 単行本
 

これ二年前なんだけど、2020年新作の『あがない』よりこっちの方が好みだったので!

『あがない』は再生モノ。サイコパスも出てくるよ。同世代なので身につまされました。

 

『名もなき王国』は、作中作がこんがらがっていく話で、とても私の好みでした。

古いお屋敷、おぼろげな記憶、塔のイメージ、ずれていく設定、繰り返される街の話、古いお屋敷の中で迷って現実に戻れず…完璧でした。 

 

フィクション 海外

今年は海外はずっとノイハウスを読んでいた気がする。新しいので心に残っているのがあまりないので、古いものだけどよかったのを。 

イリュージョン 

イリュージョン (集英社文庫)

イリュージョン (集英社文庫)

 

『かもめのジョナサン』で有名なリチャード・バックの、。。。飛行機超能力旅?

ベンジーがこれを「好きな本」として挙げた映像をYouTubeで見かけたので、手に入れました。もう古本でしか買えなかった。

結果、とてもよかった。

 

ジプシー飛行士がね、星の王子さま的出会いをして、でも相手も大人だから冒険が始まって、並んで一緒に飛んでいるうちに救世主になるの。

でも、それが幸せだとは限らないでしょう?

 

ドラゴンファンのみなさんはこれ知ってた? まだ買えるうちに気が付いてよかったです。Amazonだと状態「良い」もあるし。 

関連記事:ベンジーの音がする!と思ったバンドにはBLANKEY JET CITYファンがいる

 

私の名前はルーシー・バートン

私の名前はルーシー・バートン
 

アメリカの某2020年ヒット作には乗れず、韓国文学が途中でおなかいっぱい、になったので、少し前のブッカー賞候補作。 

 

作家になった女性が、過去を振り返る。9週間入院していたことがあった。ニューヨークに、田舎から母が来てくれた。色々なことを話した。 

泣くに泣けないほどの大きな願いがあって、この痛みを一生引きずるということもわかっている。 P188 

舞台は都会なんだけど母親が背負っているのはまぎれもない貧困で、捨てたことのやましさ、そうしないと生きられなかった葛藤、けれど上々とも言いにくい我が身…。

後半、章がどんどん短くなっていき、ほどけていくような感覚を味わいました。 

 

ノンフィクション エッセイ

八本脚の蝶 

八本脚の蝶 (河出文庫)

八本脚の蝶 (河出文庫)

 

問題作だった…。ある人は「人生を変えた数冊の中の一つ」だと言っていました。

多感すぎる人が読むと危険かもしれません、そんなエッセイ。でも良すぎたので若いお友達にオススメせずにいられない!

小山田咲子さんのことを思い出したりしながら。

 

内容も濃い日記なので、私は半年かけて少しずつ大事に読みました。二階堂奥歯さん、生きて書き続けてほしかったです。でもそんなことを他人が言ってはいけないんだろう。

こわがりでよわいのはかまわない(仕方がない)が、楽になろうと力任せに粗雑に何かを定義してはいけない。p126  

 

国境のない生き方 私をつくった本と旅 

2021年初の「ネコメンタリー 猫も、杓子も」に出演されていたヤマザキマリさん。相棒のベレン、美しいベンガル猫さんです。

 

漫画『テルマエ・ロマエ』の作者さんですね。その人のエッセイを初めて読みました(たくさん出版されている)

 

「地球がおもしろい」と言うヤマザキさん。この本は、彼女の幼少期からの読書遍歴と、少女期からの旅・移住生活について書かれていました。

出会った人、考えたこと、得たもの失ったもの。まさに人生哲学。

さらっと読めるけれど深い、見習いたくなる。人はより見聞を広めて、考えて、教養を身に着けていけば、きっといい人生になる。 

 

ノンフィクション 実用書

三行で撃つ〈善く、生きる〉ための文章塾 

三行で撃つ

三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾

三行で撃つ 〈善く、生きる〉ための文章塾

  • 作者:近藤 康太郎
  • 発売日: 2020/12/12
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

帯文がいいですよね。作者の方のことを存じ上げなかったのですが、「名物記者」らしいです。アロハ…?猟…?

 

私、文章テクニック本が好きでよく読んでいますが、細かなテクニックどうこうより、これ一冊読めばもういいのでは?と思いました。思ってしまった。

「言葉にできる」は武器になる。』が好きだった人は好きなんじゃないかな。

 

付箋だらけになりました。学びが多い。

文章を書く仕事をしている人は、仕事じゃなくても書くことが好きな人は、絶対にぜったいに必読です。

言葉にならない感情、言葉に落とせない思考は、存在しない。言葉にならないのではない。はなから感じていないし、考えてさえいないのだ。P124 

 

わたしで〈ある〉のではない。わたしに〈なる〉のだ。P244 

 

※Amazonで値段が定価以上に上がってしまっている瞬間があるらしいです。値段は定価+消費税で1650円、が適正です。増刷を待ちましょう〜。それか、Kindle!

↓ 担当編集者さん。

関連記事:文章術の本をおすすめ15冊紹介するよ【文章・アイディア・日常・創作】

 

不滅の哲学 池田晶子

不滅の哲学 池田晶子

不滅の哲学 池田晶子

  • 作者:若松 英輔
  • 発売日: 2020/08/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

この表紙の方が、新しくて増補版。 

以前の版を父がバイブルだと言っていたので借りて読んでみたら私も惚れてしまい、増補版が出たので買いました(父にはお返しに『悲しみの秘義』を貸しました。二人して若松ファン)

 

亡くなられた哲学者・池田晶子さんについての考察が、そのまま哲学書になっている不思議。

問いがあって答えを見つけるのではなく、私たちがもともと真実の中に生きていて、問うとは真実との交わりにほかならないことを伝えようとする。P140  

何度も読み返すことになりそうな一冊。 

 

詩集・歌集

今年は、詩集と歌集を普段よりたくさん読みました。

ダンスする食う寝る 

ダンスする食う寝る

ダンスする食う寝る

  • 作者:山﨑 修平
  • 発売日: 2020/06/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

年齢が近めな人の作品が好きなようです。ゆっくり読んでいる間に第31回歴程新鋭賞を獲っていました。有名な人だったらしい。すっかりファン。

たまに言葉遣いがややこしくて(そういうのが好き)、難しいところもあるけどハッとすることろもあり、ダンスしていて、ロックでした。ロックな文学はいいなぁ。。。 

 

他にも歌集では萩原慎一郎『滑走路』、詩集では三角みづ紀『どこにでもあるケーキ』が好きでした。 

 

天才による凡人のための短歌教室 

天才による凡人のための短歌教室

天才による凡人のための短歌教室

  • 作者:木下龍也
  • 発売日: 2020/11/14
  • メディア: 単行本

歌集というよりタイトル通りに短歌入門教室なんだけど、広い意味での創作論で、どの分野にもあてはまると思う。木下龍也は天才なので、タイトルが皮肉で良い。

たくさんの歌人の作品が載っている、『短歌の友人』みたいな感触なんだけどよりキャッチーなので読みやすいです。

検証、推敲を大事にされているところが印象深い。当たり前かもしれないけど、天才だからって作りっぱなしではない。だから私は特に推敲編が好きでした。

 

短歌は待ってくれる。あなたが短歌を離れることはあっても、短歌があなたを離れることはない。P93〈心身ともに普通であれ。〉

これ増刷のたびに新たに奥付に新作短歌が載せられるらしいので、今から買うととてもお得です! 

 

関連記事:『玄関の覗き穴から差してくる光のように生まれたはずだ』は、7月頭に読むしかない(短歌)

 

新作でのベストは

年間ベストを新作だけで考えたら、上半期と合わせてこんな感じ!

 

エッセイが豊作でしたね。『うたうおばけ』が次点です。

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海外ならノイハウス!シリーズ長くなってまいりました。一生読みたい。

 

 

さて、2021年も楽しく読んで生きましょう!

 

【関連記事】

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冬のKindle本キャンペーン2020、50%ポイント還元で大変なことに

kindleセール!!!

よく買います。kindle積みは増やさないようにしているものの、「50%ポイント還元」と言われると見ちゃう。

amzn.to

 

2020年12月17日(木)まで!!!

 

ポイント還元の場合って、例えばkindleで1000円の本を買うと500ポイントもらえるわけですが、

1000円で買う時にもポイントが使えるのに、もらえるポイントは変わらないんですよね。

 

つまり、1000円の本を、700ポイントを使って300円で買ったら、500ポイントもらえるんです。しかも即時。続けて買う時にもう使える500ポイント。

そうなるとついつい買ってしまう。

 

そして今回のセール、対象本がとてもいいのでは…?と思ったので、ピックアップしてみます。誰かの読書の参考になれれば。

未読本も含みます!

新刊なのにもうセール?

明け方の若者たち (幻冬舎単行本)

明け方の若者たち (幻冬舎単行本)

 

カツセさんの小説、かなり新しいと思うんですけど、セールになってる。これ各所で評判いいですよね。何かの賞をこないだ獲っていた…気がする…。

恋愛ものでサブカル風味まんさい、という点は把握しています。カツセさんは文章うまいからなー(ライターさんなので)

 

スター

スター

 

え、朝井リョウも?まだ出て二ヶ月経ってない最年少直木賞作家の作品も?半額ポイントバックなの?

ほかにも『もういちど生まれる』 と『どうしても生きてる』もありました。

 

fishy

fishy

 

賞作家といえば、芥川賞の金原ひとみの最新刊も。綿矢りさの方だと『私をくいとめて』がありました。 

 

猫だましい (幻冬舎単行本)

猫だましい (幻冬舎単行本)

 

ハルノ宵子の猫エッセイの、新しい方が『猫だましい』。

前作『それでも猫は出かけていく』もありました。この作家さん、よしもとばななのお姉さんなんです(つまり吉本隆明の娘さん)。 

【参考記事】猫エッセイ13選!猫の日だからね! - きまやのきまま屋

 

系統変わってこちら、ネットで連載されていて何度か見かけたものの書籍化。めっちゃ最近のことだと思うんだけど、もうセールに…ドラマになるからかな?

 

文学こそ最高の教養である (光文社新書)

文学こそ最高の教養である (光文社新書)

  • 作者:駒井 稔
  • 発売日: 2020/07/15
  • メディア: Kindle版
 

光文社はほんとうにセールをしすぎですから。

 

新しめの本がkindleセールになっていて度肝を抜かれて思わず記事を書き始めてしまったのですが、驚きはこの程度にしておいて、ここからは「私も読んだしオススメしたい」を並べておきます。

 

今回買ったらいいと思うオススメ本 

阿佐ヶ谷姉妹ののほほんふたり暮らし (幻冬舎文庫)
 

あ、ごめんわたしこれまだ読んでなかった。

そして韓国文学からも話題のエッセイが

死にたいけどトッポッキは食べたい

死にたいけどトッポッキは食べたい

 

 光文社はセールを…しすぎだから…。

 

光文社といえば、私たちのバイブル。こちらもしっかり半額返ってくる対象。

 

フィクションに話を移して、比較的新しくて、私の好きなのは 

悪人

悪人

  • 作者:吉田修一
  • 発売日: 2012/08/01
  • メディア: Kindle版
 

吉田修一だと『国宝』もありました。(そっちはまだ読んでいない…!)

福岡の人は『悪人』読んでるよね?

他にも『ウォーターゲーム』、『太陽は動かない』もセール対象でした。 

 

あちらにいる鬼

あちらにいる鬼

 

井上荒野の、これ、人生を賭した中身だと思うんだけど(父の不倫相手が瀬戸内寂聴)あっさりセールにするんですかそうですか…。

こんなこと書いちゃうの、娘として最高だと思うんですよね。というか井上荒野はいつも面白いので大好き。

【参考記事】作家・井上光晴とその妻、そして瀬戸内寂聴…長い三角関係の心の綾 井上荒野さん「あちらにいる鬼」|好書好日

 

星の子 (朝日文庫)

星の子 (朝日文庫)

 

芦田愛菜さん主演映画の原作本!

今村夏子では芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』もセール対象でした。私は『あひる』も好きだよ!(『あひる』はセールじゃなかった)

【参考記事】今村夏子がオススメなので全作品をご紹介するよ!!! - きまやのきまま屋

 

キッチン

キッチン

 

さっきお姉さんの話を書きましたが、ばななさんの方では『キッチン』と『白河夜船』『N・P』『哀しい予感』などが対象になってます。はー、懐かしい。

【参考記事】吉本ばなな『キッチン』を再読したので読書感想文 - きまやのきまま屋

 

舟を編む (光文社文庫)

舟を編む (光文社文庫)

 

 三浦しをんは少なめかも、『舟を編む』と『むかしのはなし』だけ。あっ、でも

小説の言葉尻をとらえてみた (光文社新書)

小説の言葉尻をとらえてみた (光文社新書)

  • 作者:飯間 浩明
  • 発売日: 2017/10/20
  • メディア: Kindle版
 

飯間先生のこれが対象です。だから光文社ったら本当にもう。

 

女性作家が続くので、このままいこうかな。

傲慢と善良

傲慢と善良

 

辻村深月の婚活本!

この作家さんは、映画『朝が来る』の原作も書いていますが、そちらは対象じゃないようです。映画、評判いいですよね。

 

風は西から (幻冬舎文庫)

風は西から (幻冬舎文庫)

  • 作者:村山由佳
  • 発売日: 2020/08/06
  • メディア: Kindle版
 

村山由香のブラック企業本。世俗を反映させてきますね。

『おいしいコーヒーのいれ方』シリーズ完結おめでとうございます。学生の頃から親子で読んでました! 

 

麦本三歩の好きなもの (幻冬舎単行本)

麦本三歩の好きなもの (幻冬舎単行本)

  • 作者:住野よる
  • 発売日: 2019/03/06
  • メディア: Kindle版
 

あれ、私住野よる好きなのにこれだけ読んでない気がする。。。

流れでここに置いてしまったけど住野よるは確か男性でしたね、かといって吉田修一の真下に移動させるのも浮きそうなので、ここで!

 

坂の途中の家

坂の途中の家

  • 作者:角田光代
  • 発売日: 2016/02/05
  • メディア: Kindle版
 

角田さんの家庭サスペンス。 角田さんはこういうのがうまいんですよ。

 

 

リアル・シンデレラ (光文社文庫)

リアル・シンデレラ (光文社文庫)

 

姫野カオルコで一冊選べ、と言われたら『彼女は頭が悪いから』だと暗すぎるので、『リアル・シンデレラ』が良いと思う。

 

神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

  • 作者:彩瀬 まる
  • 発売日: 2016/11/25
  • メディア: Kindle版
 

彩瀬まるでは、『神様のケーキを頬ばるまで』と『骨を彩る』でした。入門に最適!

【参考記事】彩瀬まる、何から読む? - きまやのきまま屋

彩瀬まる『骨を彩る』を読むなら秋だ。つまり今。 - きまやのきまま屋

 

しろいろの街の、その骨の体温の

しろいろの街の、その骨の体温の

 

村田沙耶香だと、私がイチオシしている『しろいろの街の、その骨の体温の』だけがセール対象です。

ラインナップが1つ、それが来たかという感じ。推してるけど、逆に渋い。

『地球星人』を最近読みましたが、いたく共感しました。 

 

他にもたくさんあったので探しましょう

疲れてきたのでこのへんでやめますが、恩田陸、森見登美彦、万城目学、誉田哲也(姫川玲子シリーズ)、坂木司(アンシリーズ)、ジェーン・スーたくさん、芸能界引退で話題になっている小林賢太郎の戯曲、森博嗣の色々な新書、光文社古典新訳文庫のサン・テグジュペリとかドストエフスキーとか、とにかく対象が多い、、、。

 

お好きな本に巡り合えますように!

ちなみに新書系も豊富で、私は

正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書)

正義を振りかざす「極端な人」の正体 (光文社新書)

  • 作者:山口 真一
  • 発売日: 2020/09/16
  • メディア: Kindle版
 

を買いました。あぁ光文社。

 

【関連記事?】 

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彩瀬まる、何から読む?

「この作家さん、何から読んだらいい?」って聞かれることがたまにある。私も聞いたことある。

 

以前は「何を最初に手に取ったかは運命だ!」と思っていたんですけど、そういうこと言ってた私、山口雅也を『チャット隠れ鬼』から読む、という…なんていうか、損をしました。

 

それ以来「何から読んだらいいのか」については、気を付けるようになりましたよ!

彩瀬まる、何から読む?

彩瀬まるさんの場合、作家さん公認の「初めて読むなら、これとかどうかしら?」があるよ!

しかも全部が文庫で揃いました。これはもう読むしかない。

明るい話が好きなら『眠れない夜は体を脱いで』

最近文庫になったこちら、表紙がとても良い。『眠れない夜は体を脱いで』。

夜に惑う人たちの、それでもちょっと明るい話。

眠れない夜は体を脱いで (中公文庫)

眠れない夜は体を脱いで (中公文庫)

  • 作者:彩瀬まる
  • 発売日: 2020/10/22
  • メディア: Kindle版

連作短編集になっていて、収録作品は

  • 小鳥の爪先
  • あざが薄れるころ
  • マリアを愛する
  • 鮮やかな熱病
  • 真夜中のストーリー

恋に悩むんだけど、なんせイケメンなので誰も話を聞いてくれないし理想を押し付けられてばかりで寂しい男子高校生の「小鳥の爪先」、

中年と言われる年齢になってから合気道を始めて、組む相手の若さを持て余しながら母親と暮らす「あざが薄れるころ」、

私の彼氏は映像を撮る人、少し前まで撮っていた「マリア」は理想のファムファタルだったのに亡くなってしまった、と思いきや…?「マリアを愛する」、

最近の若者がわからんし妻も子供もわからん、俺はがんばっているのに俺には仕事しかないのにみんな文句ばかり!「鮮やかな熱病」、

ネトゲで知り合った子と会ってみたらお互い性別を誤魔化していた。それでも相手は「物語を書きたい」と言う「真夜中のストーリー」。

 

それぞれが「手の画像を見せて」と書かれたネットの掲示板にたどり着き、色々なことを思う。交差するとまでいかない、淡い関わり。

そういうところにこそ、とても人間性が出る。

文庫になって嬉しいのって、場所を取らない形で買い直せるのと、解説が新たにつくこと。

 

文庫解説は吉川トリコさん。突っ込み入れつつ解説してくれるのがよかったです。私はそこまで思わないけど!

暗めの話が好きなら『朝が来るまでそばにいる』

こちらは幻想小説風味が強めなので、『くちなし』が好きな人に良さそう!

朝が来るまでそばにいる (新潮文庫)

朝が来るまでそばにいる (新潮文庫)

 
  • 君の心臓をいだくまで
  • ゆびのいと
  • 眼が開くとき
  • よるのふち
  • 明滅
  • かいぶつの名前 

読み返していたら「よるのふち」の手の描写で泣いてしまった。ちょっと怖いんだけど全部好きです。

 

選ぶことと、選ばれることは抱き合わせ。それは知っているよ。

じゃあ、支配されることと、愛されることは? 

 

「明滅」のこのフレーズは紙に書いて額縁に入れて床の間に飾っておきたい。 

呼んで、唱えて、会えて嬉しかったなあって繰り返しながら、私という存在の認識が終わるまで、暗闇の中で光って遊ぶ。それを、この世のどんなものにも侵させない

「明滅」P198  

文庫解説は、ブックデザイナーの名久井直子さん。

 

【参考記事】

kimaya.hatenablog.com

違う切り口で 

どちらもかなり好きです><  

家族小説なら『骨を彩る』

静かな気持ちになる、と彩瀬さん。 

骨を彩る (幻冬舎文庫)

骨を彩る (幻冬舎文庫)

  • 作者:彩瀬 まる
  • 発売日: 2017/02/07
  • メディア: 文庫
 

大好きなので、レビューを書いています! 毎年秋にオススメしてます。

kimaya.hatenablog.com

 

また、最近文庫になった『さいはての家』も家族…を作ろうとしたり、家族ではない安息の地を求めたりして、とある家に行き着く連作短編で、とても良い読後感です。

f:id:kimaya:20230121111020j:image

お仕事小説なら『神様のケーキを頬ばるまで』

こちらは、にぎやかな気持ちになる一冊。 

神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

神様のケーキを頬ばるまで (光文社文庫)

 

これ、感想文を書きたいとずっと思っているんだけど、最初の『泥雪』を読むたびに絶句してしまって、難しい…。

彩瀬まるさんの作品の中で、一番読み返しているかもしれない。

  • 泥雪
  • 七番目の神様
  • 龍を見送る
  • 光る背中
  • 塔は崩れ、食事は止まず

正直に、取り繕わず、制作者の心をさらけだした作品は、必ず誰かに嫌われます。そういうものは力強い代わりに粗(あら)も多く、でこぼこで、違う意見を持つ人にとってはひどく目障りになるからです

 「光る背中」P187

 

テーマとして、とある映画について語られている点が面白い連作短編集。

みんなそれを観たり、観ないで感想だけ聞いたり、観てないのに文句を言ったりする。現実かよ。

この映画も観たくなりますね(実在の映画ではないところが良い)

 

ていうかこの映画監督、最初は画家だったんですよ…!ファン心理が難しいな…!

文庫解説は柚木麻子さん。好き。

 

※全部を通したら雑居ビルが立ち上がってくるんですが、婚活ネタとしても、小ネタがいい感じです。 

番外編 

家族小説とお仕事小説のハイブリッドみたいな『桜の下で待っている』も個人的にオススメです。「ふるさと」をめぐる連作短編集、みんなちゃんと働いていて偉い。

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高村薫『マークスの山』を読んだよ

なぜ今『マークスの山』か

ことの発端は、こちらで『マークスの山』を読む会が発足されて

snack.elve.club

ツイキャスでelveさんに誘っていただいたので、私も読むことにしました!(仲間に入れてもらえて嬉しい!)

ていうか読んだことあった

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者:高村 薫
  • 発売日: 1993/03/01
  • メディア: 単行本
 

ところで、

「本を読む時に頭に浮かんでいるのは音声か、映像か」
と問われてもピンとこなかったものですが、今回、判明しました。

2割くらい映像に変換して読んでいると思われる。

なぜならこの『マークスの山』の

 

『鉄屑スクラップ山のてっぺんから変なことを叫んでくる色白で身軽な男の人が、豆腐屋』

 

を映像で覚えていて、あぁこれ読んだことある…と思い出したからです。

 

映像とまではいかなくて、イメージの欠片みたいなものだけど。

物語後半で主人公も同じシーンを思い出すので、さらに強くイメージが浮かんだんだろうなぁ、と。 

夏の暑い日、荒川の町工場の廃品の山に立って、天に突き抜けるような笑い声を降らせたかと思うと、恐ろしい身軽さで廃品の山を飛び越え、駆け去ったその姿だけが、鮮明に蘇る。(p314)

私この身軽な人(水沢・かつての豆腐屋)が好きなので、けっこういいシーンだなぁ、と思ってしまいます。字面的にはあまり良くもないか…。 

ネタバレ少ない感想

他に読まれた方々、色々と激おこでしたね…笑、笑い事ではないかもしれない。

その指摘たしかに!と思うことばかりだったので、そのあたり私は看過して、情緒のみで読み解いていこうかと目論みました。

 

この話は、水沢という一人の人間が

「どうしてもうまくいかないことがあって、うまくいかせるために頑張って試行錯誤したけど、そもそも情報も材料も間違っていて、方法も間違えて、どんどんどうしようもなくなっていく」

話でした。

 

例えば設定としての「明るい山と暗い山が交互に訪れる」ところ。

精神疾患のある水沢なので、これは躁鬱の描写ではあるんですが、「今はうまくいっているけどこの後に絶対なにか嫌なことになる」って分かっていたら、水沢じゃなくても普通にすごいキツイよなぁ、と。

こういうキツさは、少なくない人たちが今まさに抱えているものではないか。

 

今は明るいけど、数か月後には暗くなってしまう。体は動かず、幻聴だけが響いて、何もできなくなってしまう。

そういう焦燥を抱えているところ、刑務所で、表面上は暇しながら、肉体には屈辱を与えられながら、聞いたのが「悪事で大金を得て世界がバラ色に見えた」犯罪者の妄執。

 

最初は 

福沢諭吉の絵のついたあの紙切れが、大の男ひとり狂わすというのは、どう考えても眉唾に違いない。

と、お金に囚われていなかった水沢だけど、続いて

だが、男が見た狂喜の世界は、自分が明るい山にいるときの世界とひどく似ている。今はすでに翳り始めているあの世界に。 (P70) 

と思ってしまうんですよね。それが

うちのめされる前に走り出すのだ。たとえ十日でも二十日でも長く、明るい日差しを浴びていたいからな。(P71)  

という決意につながってしまう。

 

水沢に犯罪計画を思い付かせたきっかけは、出口のない恐怖から逃れたいという一心だけだった。

今、翳り始めている世界がこわい。

 

ただそこで、通りすがりの犯罪者が「そこらじゅうの色が眩しくめくるめき」という表現を使ったばかりに、犯罪に惹かれていってしまう。

色のある方、暗くない黒くない方へ、というだけで。

日差しを浴びていたい、というだけで。

 

その方向には根拠がないのに、気づけない。

だって他に手掛かりがないから。

 

 

水沢の頭の中には、幻聴である「マークス」がいる。たまにどちらがどちらか分からなくなる。

マークスと一体になって自分の罪を反芻していると

マークスは数秒、暗くも明るくもない、穏やかな色のついた世界を見ていた。あるいは、見たような気がしただけかもしれないが、ひょっとして、これこそがほんとうの世界だったら……。(P141) 

とも思い至るんですよね。

 

一体になってフラットに世の中を見ることが、一度はできている。しかし信じ難い。そしてこれは夢の中で考えたことで、本人は自覚が薄い。

 

そしてこのあたりから、だいぶマークスがヤバい。どんどん人を殺していく。

水沢は達観したように、けれど希望を持って(計画が成功すれば、明るい山になるかもしれないから)、女に夢を語る。

 

女は呼応する。

「私もよ。もう充分光は見えるけど、山の上に立ったら、もっと明るい世界が見えるような気がする」(P230) 

この女がかなり手に負えない感じで、いや本人に悪気はないんだろうけど、なんだかなぁ…。

 

誰からも止めてもらえない水沢、 脅迫をし続け、お金を取りに行く。けど、別にぜんぜんお金なんてほしくないんだ。

ただ、金を手にした男が狂喜する話に惹かれただけだ。金を手にした瞬間、あの明るい山そっくりの、嬉々とした世界が訪れるならば、と。(P244)

このあたり水沢は、なんか価値あるっぽいし俺の女のために金いっぱい持って帰ろうかな、くらいのノリでしかない。 

だって持っている事実は一つしかないから。

自分は、一人の女に好かれている。自分も好きだ。信じられないような、たった一つの事実。(P252)

 

そして、対するエリート集団がいけすかないやつらで悪い人なんだけど、ちょっと賢いので、少しだけ金をくれる。

その悲劇の原因を持って、水沢は帰る。

 

そして悲劇が起こって、何も考えられない一人ぼっちになって、気が付く。

真知子が逝ってしまったあとの世界はずっとこんなふうなのだろうと考えた。世界についていた色やリズムや匂いは、真知子から滲み出していたものだったのだ。真知子のガスの光。(P340)

 

水沢がほしかったのは、色と光。せかいの。

水沢に必要だったのは、自分を気にかけてくれる人、愛し愛されうる対象、それだけだったのではないか。

 

※ここで少し注釈したいのですが、私が言いたいのは「『恋人(概念)』さえいれば良い」という思想ではなく、「他人と気にかけ合うことの重要さ」や広範囲の愛情について、具体例として一定の知識があれば、水沢の世界には色がついたんじゃないか、ということです。

 

だってこの女は女で色々とアレで、水沢にとってはインプリンティング的な巻き込まれ感があり、水沢の選択ではない。選択肢はなかった。

それを問答無用で良いとはできないし、この女が一人いたところで限界がある。水沢に必要なのはもっと包括的な「何か」。または、執着する対象が山だとデカすぎるので植物愛とかでいいんだけど…。

 

気にかけ合える存在と関係を作っていくこと。

それには、むしろ犯罪は不要だったのではないか。

…そりゃそうだ。

けれど水沢はそれを知らない。

 

途中で自身も言っているけれど、水沢はあまり頭が働かない。

それはほとんど病気のせいであり、その病気は遺伝で、なおかつ無理心中による後遺症でもある。

 

ああ、俺は細かいことを考えられる頭が欲しかった……。 (P256)

このアホっぽい独白が悲しい。

しかしここで足りていないのは、水沢の論理力ではなく、正しい情報です。あと水沢の健康のための療養。

時間の流れを考えたら、それは教育なのかもしれない…。包括的な何か。

 

最初のページで山の中を朦朧と歩いていた10歳の少年に、誰もそれからの生き方を示唆できていない。

10代後半、最初に人を殺しても、病院が醜聞として揉み消した。

20代半ば、水沢の頭がはっきりしている時に話をしてくれたのは、犯罪者だけだった。女は水沢の服役中、せっせと面会に行くべきでしたね…。

 

世の中の誰一人として、まともに水沢に働きかけていない。里親も。 

 

最初の方に

この話は、水沢という一人の人間が

「どうしてもうまくいかないことがあって、うまくいかせるために頑張って試行錯誤したけど、そもそも情報も材料も間違っていて、方法も間違えて、どんどんどうしようもなくなっていく」

話でした。

と書いたのは、こういうことを考えたからでした。私はこの流れが一番、心にキた。 

情報も材料も間違っていたら、本人にはどうしようもないじゃないか。

 

この小説は、教育と情緒が、世の中の「事なかれ主義」に負けっぱなしになる話です。

 

え、これでいいの?なんか駄目じゃない?でも俺/私には決定権がないから…で多くの人が見過ごし続けたことが、人を一人完全に駄目になるまで追い込んで、たくさんの人が殺されてしまうほど世の中すべてが堕ちてしまう話。

(もとになる犯罪はもっと以前に発生していたので、そこにも闇はあるけど、水沢がそれに寄って行ったことは偶然でしかない)

 

ちゃんと最後の方で女が言ってる。

「私たちは間違ったのです。(中略)私たちはもっとやることがあった。あの子をほんとうに救う努力をするべきだった」(P354)

そしてこのセリフが、水沢を捕まえられない刑事の胸にも刺さる。

 

少年時に保護され、病院で監督され、こないだまで刑務所に入っていた水沢が、罪を犯してまだ逃げるのであれば、

それは保護した機関も病院も刑務所も、刑事たちも誰一人「水沢の心身の危機を見抜けなかった(P354)」ということだから。 

 

見過ごし続けた結果、犯罪が生まれたということだから。

 

だから捕まえに行く。山へ。

そういうラストにつながります。

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

マークスの山 (ハヤカワ・ミステリワールド)

  • 作者:高村 薫
  • 発売日: 1993/03/01
  • メディア: 単行本
 

みなさんの感想も

他の方々の感想はこちら!(ネタバレあり、それぞれ激おこ)

yutoma233.hatenablog.com

snack.elve.club

 

映像化についてはマリさん! 

mari12.hatenablog.com

 

お題「『マークスの山』関連でなんか書く」

吉本ばなな『キッチン』を再読したので読書感想文

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吉本ばなな『キッチン』

角川文庫で出ています、吉本ばなな『キッチン』。

裏表紙には「世界二十五国で翻訳され」と書いてあります。2020年、もしかしたら増えてるかもしれないですね。それくらい世界的なベストセラーです。

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

 

1987年に、この『キッチン』で海燕新人文学賞を受賞。吉本ばななのデビュー作になります。

 

文庫には『キッチン』『満月  キッチン2』『ムーンライト・シャドウ』の3作品が収録されていて、『ムーンライト・シャドウ』は1988年に泉鏡花文学賞を受賞しています。

まとめて読める文庫、お得!

 

ここでは『キッチン』と『満月  キッチン2』について。

ちなみに読むのはたぶん3回目くらいかと思います。初読は10代でした。 

あらすじ

「キッチン」

主人公・「みかげ」がたった一人の肉親であった祖母を亡くして数日たったところから、物語が始まる。

 

天涯孤独になって、何をしていいのか分からなくて自宅のキッチンで眠っていたみかげを迎えに来たのは、祖母の友達だった「田辺くん」。

 

田辺くんはみかげと同じ大学に通っていて、近所に母親と二人暮らし。「しばらくうちに来ませんか」と誘ってくれる。みかげは居場所を田辺家のソファと、キッチンに移動する。

 

田辺くんの母親は、実は父親だったけど(!?)、それでも「台所があり、植物がいて、同じ屋根の下には人がいて、静かで……ベストだった。ここは、ベストだ。(P24)」と思うみかげが、自分(と祖母)の家を片付け、「少しずつ、心に光や風が入ってくることが、とても嬉しい。(P31)」と、ゆっくりと回復して、また世界に出ていくまでのひととき。

 

「満月」

田辺家を出たみかげは、大学をやめ、台所好きを生かして料理人に弟子入りして忙しく働いていた。そこに悲しい訃報が飛び込んで……。

※「満月」に関しては最初を書いてしまうとネタバレになるので、あらすじは少なめで。 

 

感想、注目したところ

みかげが天涯孤独の身になった時点から始まるので、最初からうすら寂しい話。その孤独の美しさを描いた話だと思った。

祖母との暮らしを過去として振り返る視点が、この話の真骨頂なのでは。

 

けれど祖母の縁で田辺くんが気にかけてくれたり、その母親であるえり子さんが優しくしてくれたり。

身内はいないけど友達はいて、ぼんやりと守られている中で、気持ちの整理をつける。人が「立ち直る」過程の雰囲気が良く出ている。

 

自分が悲しんでいることを認めて、受け入れてから乗り越えて、という過程を若い人が一生懸命たどっていく姿には、力強さを感じた。

あと、意外になんでもないようなことが大切だということ。

 

なんにせよ、言葉にしようとすると消えてしまう淡い感動を私は胸にしまう。(P59)

こうやって「淡い感動」を覚えていられるうちは、人は大丈夫。みかげはそれを大切にできるので、ゆっくりでも着実に回復していくことができる。

孤独がその身から離れることはないけれど。

 

えり子さんがみかげにかける言葉がよかった。

人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大っきくなっちゃう(P60)

絶望は無駄ではなく、「本当に楽しいことを知る」ための糧にもなる、ということ。

みかげみたいに若い人には残酷なようで、明らかな救いにもなる真理だと思った。 

 

(ここからは「満月」について) 

そしてみかげには料理があった。無類の台所好きで、料理をしていれば、みかげは「楽しい」。

楽しいのが何よりだよね、それはえり子さんの言っていたことに通じる選択だ。

みかげは思う。

幸福とは、自分が実はひとりだということを、なるべく感じなくていい人生だ。(P82) 

自分が孤独だ、ということが世界の真実。それを直視しないでいられることが「幸福」だとみかげは感じている。

けれど

私はそうして楽しいことを知ってしまい、もう戻れない。(P83)  

本当に楽しいことを知ってしまったら、戻れないし、実は戻る気もない。そうしてみかげは料理を続ける。

このあたりのみかげの気の強さが、こういう子いるよね、とニヤリとしてしまう。

 

そして、「キッチン」でみかげがくぐり抜けた色々を、田辺くんも体験することになる。過程をなぞる。でも田辺くんは一人ではうまくできない。

 

人は状況や外からの力に屈するんじゃない、内から負けがこんでくるんだわ。 (P127)

と気づくみかげと、傷心の田辺くんにはこれからごたごたがあるけれど、それを救ってくれるのもご飯でした。カツ丼です。かなりカツ丼が食べたくなる場面があります!

 

P134でカツ丼を抱えたみかげが気づいたことには、心底ハッとさせられる。(10代の頃の私はここに感銘を受けたようで、鉛筆で線がひいてありました)

 

波乱万丈だけど静かで、運命には抗えないけど決して負けはしない、そういうお話。 

キッチン (角川文庫)

キッチン (角川文庫)

 

 

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今村夏子がおすすめなので、全作品を解説するよ!

(2022/09 更新)

「ハズレがない」と思える作家さんってけっこう貴重じゃない?

だって人は、成長したり変化したり色々ある。お互いにね。

だから、いわゆる「作家読み」をしていると、「これはちょっと分からなかった……」と思うことはある、仕方がない。

 

そんな中で「この人はたまに要点をハズしてくるけど、それもまた必ず面白い」という驚きを何回も味合わせてくれるのが、私にとっての今村夏子だったりする。 

 

ということで、デビュー作から順に、全作品の感想を述べていきたいと思います。 

こちらあみ子 (『ピクニック』も収録されてます)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

  • 作者:今村夏子
  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: Kindle版

日本文学の世界が動揺したのを、私は見た。 

  • こちらあみ子
  • ピクニック
  • チズさん

表題作がとにかく衝撃で……。

 

↑『花束みたいな恋をした』に出てきた『ピクニック』が収録されている文庫です

 

・こちらあみ子    あらすじ

あみ子は15歳から祖母と田舎で暮らしていて、小学生の「さきちゃん」と仲良し。さきちゃんは花を摘んでもらうのと、あみ子の口を覗き込むのが好きだ。あみ子には前歯が3本ないから。

「なんで歯なくなったんですか」という質問に対して、中学のとき男の子にパンチされてどっか行ったと答えたら、さきちゃんは「げっ」と言ってのけぞった。パンチしてきた男の子の名前はのり君といい、小さなころからのり君を熱愛していたことも教えてあげた。  

この、どことないほのぼのさ!でも前歯が3本ない女の子、という衝撃!好きな子に殴られて!

 

あみ子自身もしかしたら、一般的な尺度でいう「普通」ではないのかもしれない……と匂わせまくって始まる物語。

中学生まであみ子がどう生きていたか、が中心に描かれています。周りとは軋轢ありまくりなんだけど、優しい人もいて。

でもあみ子はその優しさにも気づかず、したいことをして楽しく生きて。のり君しか見ていなくて。明るく楽しく過ごしていて、けれど。

 

読後には「普通とはなにか」「すれ違いの悲しみ」「それでも意外に楽しい人生」みたいな、色々な感情が押し寄せ、、、悲しいことがあっても、掬い上げる作者の目線が優しく、あみ子は明るい。なんとも言えない気分になります!読んでほしい!

文庫の解説は町田康&穂村弘。こんなところまで豪華! 文庫は買いですね…。

 

※2022年夏、映画化されます!(「こちらあみ子」の方ね)

公式Twitterもできています。

こちらあみ子 (ちくま文庫)

こちらあみ子 (ちくま文庫)

  • 作者:今村夏子
  • 発売日: 2017/07/07
  • メディア: Kindle版
 

 

この「こちらあみ子」という作品は2010年に太宰治賞を受賞、その時は「あたらしい娘」というタイトルだったそう。

『こちらあみ子』にタイトルを変更したのちに、新作中編『ピクニック』『チズさん』と一緒に単行本化され、2011年に三島由紀夫賞を受賞。(私はここで手に取りました)

 

この二つをいっぺんに獲るのはめちゃくちゃカッコいい……!!!

そして、Twitter文学賞でも第二位に。

第2回Twitter文学賞(国内) | Twitter文学賞事務局

 

普通との「ズレ」いとおしく 「こちらあみ子」映画化:朝日新聞デジタル

 

あひる 

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: Kindle版
  • あひる
  • おばあちゃんの家
  • 森の兄弟

 

『こちらあみ子』(2014年に文庫化)以降、何も発表せずにいらしたので、引退説がささやかれていました。。。

一作すばらしいものを書いて、注目されて、いなくなる、っていうパターンあるんですよね。

 

そんな中、福岡の出版社・書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)が新しく発行する文学ムック「たべるのがおそい」に、突然『あひる』が掲載されてびっくりしました。

 

文学ムックって!

福岡の出版社って!このお店を運営しているところです。 

海外文学と詩と短歌が中心の本屋、「本のあるところajiro」 - きまやのきまま屋

 

『あひる』は読みやすいので、「今村夏子を読んでみたい」という人に最初に薦めたい一冊。(恋愛要素がほしかったら『こちらあみ子』かも)

 

『あひる』の初出はこちら、たべるのがおそい vol.1。

 

テーマは……姉弟?ざっくりいうと家族としての人間関係の、不穏な失敗例たち。 しかしやっぱり漂うほのぼの感。不思議な手触りです。のりたま、というアヒルが出てくるんだけど、ただのアヒル飼育ではなく、アヒルを通して浮き彫りになる家族の関係という感じ。

 

再読了したので感想ツイート。

おかしい。

これはのりたまじゃない。

(P19) 

のりたまは再び姿を消したのだった。(P27) 

ねえねえねえほかの二ひきもこの中にいるの? どこにいるの?

お経を唱える母の声がどんどん大きくなっていった。

(P57) 

 

『あひる』は芥川賞候補作になり(獲りませんでしたが)、アメトーク!!の読書芸人回でオードリーの若林さんに絶賛され、さらに第5回河合隼雄物語賞を受賞

Amazonでkindleアンリミテッドの会員だと、『あひる』が読み放題に含まれています!!

あひる (角川文庫)

あひる (角川文庫)

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2019/01/24
  • メディア: Kindle版
 

※参考記事 

作家の西崎憲さんによる解説 【解説:西崎憲】今村夏子は何について書いているのか『あひる』 | カドブン

 

星の子

星の子 (朝日文庫)

星の子 (朝日文庫)

  • 作者:今村夏子
  • 発売日: 2019/12/06
  • メディア: 文庫

新興宗教と子供の話。気が付いたら親が入信していた、しかも自分が原因で。

こういうことってあるんだろうなぁ……。環境がつらい、とはいえ本人は悲壮感はなく、テーマ『家族』という印象でサクサク読めます。描写がきれいで。

 

あーでもこれ本人の気質がいいから疑問を持ちにくいだけで、周りの人はけっこうちゃんと拒否反応を示してもいるので……構造としては『こちらあみ子』に近いでしょうか。あみ子の環境を家族に広げた感じで、プラス宗教。

 

読後感はいいです。 希望があって。

 

で、こちらもやはり芥川賞候補になるものの、まだ受賞はしません。『星の子』で獲ったのは野間文芸新人賞

 

そして今村夏子の、初の映画化作品となります。主演は芦田愛菜ちゃん!!

芦田愛菜主演、映画『星の子』公式サイト 2020年10月全国公開!

一番読みやすい長編、となるとオススメは『星の子』かも。

 

※参考記事

『コンビニ人間』の村田沙耶香さんが、テレビで『星の子』を推していました。

kimaya.hatenablog.com

父と私の桜尾通り商店街 

父と私の桜尾通り商店街

父と私の桜尾通り商店街

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2019/02/22
  • メディア: 単行本
 

  • 白いセーター
  • ルルちゃん
  • ひょうたんの精
  • せとのママの誕生日
  • モグラハウスの扉
  • 父と私の桜尾通り商店街

短編集。

テーマがあるとか連作とかいうことはなく、一定以上数が揃ったので短編集出すよ!というノリの一冊だと思います。

 

初出は「たべおそ3」(白いセーター)、「文芸カドカワ」(ルルちゃん、ひょうたん、父と私)、「早稲田文学」(せとのママ)など。

『モグラハウスの扉』が書き下ろし。私はこの『モグラハウスの扉』が一番好きでした! 

 

一人ずつが確かにささやかに狂っていて、単純な話ではないものばかり。ユーモアもありながらホロリともします。

主人公が狂い気味の場合って読みにくいけど、これぞフィクションの醍醐味だ!とも思います。

 

表題作は2016年のものなので、『あひる』と同時期と言えますね。雰囲気もちょっと似ている気がします。いまいち通じ合っていない親子モノ。

 

※参考記事 本人のインタビュー

【新刊インタビュー 今村夏子『父と私の桜尾通り商店街』】6つの作品で書こうとしたこと | カドブン

文庫の表紙がかわいい。

 

むらさきのスカートの女 

むらさきのスカートの女

むらさきのスカートの女

はい、第161回芥川賞受賞作。長編です。

やっと獲ったね~、というより、長編を待たれていたのかもしれませんね。(私自身は『星の子』で受賞しておいてよかったのでは、派です!) 

 

ご本人のインタビューがYouTubeにアップされています。

youtu.be

 

力の入った長編。まず人称がよく分からなくて、誰の視線なのか明らかにされないまま「むらさきのスカートの女」の奇行が描写されていきます。

で、途中で、とある女性が「むらさきのスカートの女」を見守っている、ということが明らかにされるんですが、…妙にストーカーっぽいんですよね。

 

ただ、奇行を繰り返していたように見えた「むらさきのスカートの女」は、物語の中で社会復帰を果たします。…それをまた主人公が見守っています。そのうち同じ職場になり言葉を交わすように……なるようでならないんですよね!

主人公もなかなかに変人でして、むしろ「むらさきのスカートの女」の方が職場に順応しています。なんという逆転。

 

けれど話はそれで終わらず、「むらさきのスカートの女」にピンチが!その時に主人公はある決意を……という話の流れですが、いやオチが問題すぎてぽかんとしてしまいますね!

 

社交性とは?賢い振る舞いとは?と生活について考えながらも、あれ、いつから狂っていたんだっけ……?と最初から読み返したくなってしまう感じ。

最後に最高に狂ってしまうんですけど、それがどこから始まっていたのか、どの時点だったら引き返せたのかが、一切分かりません。 

 

ここまで話のなかで迷子になる感覚、他ではなかなか無いです。あと、人の滑稽さについても考えちゃいますね。 

 

「笑わせたい、と狙っているわけではないんですが……」(今村さんインタビューより)

参考記事:芥川賞受賞作『むらさきのスカートの女』が問いかけるもの 倉本さおり×矢野利裕 対談【前編】 |Real Sound|リアルサウンド ブック

木になった亜沙 

木になった亜沙 (文春e-book)

木になった亜沙 (文春e-book)

  • 作者:今村 夏子
  • 発売日: 2020/04/06
  • メディア: Kindle版
 

中編が3作収録されています。

  • 木になった亜沙
  • 的になった七未
  • ある夜の思い出 

この3つは本当に、展開が一切読めませんでした。SFなのかもしれない、でもホラー風による箇所もあり、それが伏線になって感動につながるからミステリなのかも!?

 

『ある夜の思い出』は、絶句しました。最近の今村夏子で短いのを、と言われたらこれを推します。 

読みやすかったし、現代日本ものが好きな人にはもっと受け入れられていていいと思うんですけど、そんなに話題になってない印象。おもしろかったですよ!

 

ここで一つ、まだ単行本化されていない作品。

冬の夜(『父と私の桜尾通り商店街』の文庫に収録されています)

『文芸カドカワ』2017年8月号に収録。同じ名前の有名な曲がありますね。

で、カドブン(WEB記事)で判明したんですが、『父と私の桜尾通り商店街』の文庫に入ったようです!

文学界がいま最も注目する作家・今村夏子の最新作『父と私の桜尾通り商店街』2月22日発売! | カドブン

ラストの終わり方、ちょっと怖い系で考察が捗ります。

始まり方はけっこう平和な感じだったのに…。 

【新刊】とんこつQ&A  中編4作の単行本

さて群像に4篇、載りました。そのうち講談社が中編集を出してくれるでしょう…と書いていたら、

2022年7月に出ました!二年ぶりの新刊とのことです。

f:id:kimaya:20220927111259j:image

原稿をもらうまで9年かかったそうです笑。ありがとうございます!

・とんこつQ&A…人情話~、だと思った、最初は…。そこから、人の悪意のない思惑によって転落していく主人公が見事であっけにとられてしまう。うわこれ誰も悪くないけど、しっかりほころびは出てるし、つらい。

 

・嘘の道…ラストにびっくりする系。田舎あるあるだと思って読んでいくと、ひょんな瞬間から当事者になってしまって。

「フラットな対話」と称するコミュニケーションに隠された「暴力」を考える(三木 那由他) | 現代ビジネス | 講談社(1/6)

 

・良夫婦…うすら寒い感じになれる、これはホラーなんだと誰か言っておくれよ。

 

・冷たい大根の煮物…19歳の勤労女子が、工場勤務の同僚のおばさんとゆるく料理で交流するお話。って書くとハートウォーミングに聞こえますが、後味は悪いというか…良い点もあるんですが、オチはつらいなぁと思います。いや、人生ってそういうものか?人の好意って?

 

何か発売されたら、また追記していきます!

 

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1冊でもう面白い漫画、9選(1冊で完結、短編集など)

さくっと気分を変えたいなーという時に重宝するのが漫画だと思うんだけど、オチが暗かったら辛くなっちゃうし、そもそも長すぎて手が出せなかったりしませんか、私はする。

ハイキュー!!はいつだって一巻から読み返したい。 

 

気軽に読める漫画だからこそ、より気軽さを追求していこう、という試みです。

気分転換になる、1冊でもう、すぐに面白い。そんな漫画を集めてみました。9つ!

(※「面白い」の定義はもちろん個人の見解です)2023/12更新

ネムルバカ 

ネムルバカ (RYU COMICS)

ネムルバカ (RYU COMICS)

  • 作者:石黒正数
  • 発売日: 2016/02/19
  • メディア: Kindle版

『それでも町は廻っている』の石黒正数さん。それ町は16冊あるけどこちらは1冊読み切り!

 

ゆるめのシュール、バンドする女の子(と、その後輩)の日常。クリエイティブ系でもあるかも。くすぶっている系の。

「自分が社会の底辺にいるっていう自覚はあるんですよ常日頃から」 

 「妄想ってのは妄想の中でウソを演じてる限り 絶対実現することはありえないの」 

ナルシストたちの墓場

 

自称アーティストたちの「駄サイクル」っていう先輩の造語が、Twitterで軽くバズっていましたね。

最近は周りに情報が多すぎて 自分レベルの人間がどの地位止まりか早い段階で見えちゃうんですよ  

このへんのセリフが刺さる人はぜひぜひ。

バンドについてはソラニンのパターンかと思いきや林檎の方でした。成功っていったい何?

おひっこし 

おひっこし (アフタヌーンコミックス)

おひっこし (アフタヌーンコミックス)

  • 作者:沙村広明
  • 発売日: 2012/12/03
  • メディア: Kindle版
 

『波よ聴いてくれ』、『無限の住人』の沙村広明さん!この人は作風が幅広くてとても多才!ハズレないよね。

そしてこれは『ネムルバカ』より痛い…。

 

バンドもやってるけどメインは恋愛もの。サークル、幼馴染、口説き口説かれ…あれ?ギャグ?大学生がくすぶっているのが楽しいです。あと歌詞が変。途中で猛獣図鑑がでてきて、麺類は奥が深い、そんな世界観です。

 

恋愛ものだと思うんだけど…?セリフがいちいちややこしくて沙村さんっぽいです。あと表題作じゃない方の話はもっとややこしいです。そこで代打ちにはならないだろう???

あれ、オススメなのかどうか分からなくなってきたー。私は好き。  

放浪世界 

放浪世界 表紙

水上悟志短編集「放浪世界」 (ブレイドコミックス)

水上悟志短編集「放浪世界」 (ブレイドコミックス)

  • 作者:水上悟志
  • 発売日: 2018/11/05
  • メディア: Kindle版
 

『惑星のさみだれ』と『プラネット・ウィズ』の水上悟志さん!こちらは短編集。

…SF? いや、日常系も含む。で、バトルではない…と思っていたらラストに巨大な敵が出てくる(のもある)。小説みたいな印象で、絵がかわいい。

魔法のランプの話、すごく好き。あとは団地の話は『プラネット・ウィズ』が好きな人は絶対好き。 

 

子供はわかってあげない 

ごめんなさい、これは上下巻……。でもほら、kindleで一気に買えば一冊みたいなものだからさ。

たしかこちら、マンガ大賞の上位に入って話題になりましたよね。 

 

高校生の色々なモヤモヤを爽やかに、夏です。さあ、夏に読みましょう。

Amazonのキーワードは

水泳×書道×アニオタ×新興宗教×超能力×父探し×夏休み=青春(?)

どれかにひっかかればぜひ。

 

そして、映画が公開されるらしいよ。「うっかり元気になるひと夏の冒険」。

agenai-movie.jp

きみにかわれるまえに

きみにかわれるまえに

きみにかわれるまえに

 

なにかと話題なカレー沢さん、、、最近の代表作は孤独死もの『ひとりでしにたい』でしょうか。尊敬できる腐女子ですね!

 

『きみにかわれるまえに』はペットがメインの連作短編集。犬と猫。何回泣くの私???みたいになりますが、これぞリアル!でもあるので、動物好きな人には読んでほしいと思います。

 

うみべのストーブ

こちらは…ハートウォーミング?SF?日常?なにジャンルか分かりません。短編集。

ストーブが喋ったり、雪女が人生をエンジョイしたり、主婦が夢を取り戻したりします。しっとり、良い。万人におすすめしたいけど、暗いって言われちゃうのかな…。

 

表題作いいので、冬に読みましょう!

トーチって面白い漫画出しますよね。誰か、面白い編集さんがいる…という話を聞いたことがあります。

歌人の岡本真帆さんが激推ししています。ミニ歌集を買ったら漫画レビューがついてきて、それが謎システムすぎて買いました。

tabatashoten.thebase.in

金の国 水の国

異世界情緒がほしい人にはこちら。やさしい世界。一冊完結。

 

好きなアーティストさんが勧めてらっしゃったので即買ったんですけど、もしかして映画になってます???気が付いてなかった。

wwws.warnerbros.co.jp

 

と、ここまでは意外に読みやすい感じのものを。

 

ここからは私の本棚の殿堂入り漫画になります。 

この世の終りへの旅 

この世の終りへの旅

この世の終りへの旅

  • 作者:西岡兄妹
  • 発売日: 2003/12/01
  • メディア: コミック
 

西岡兄妹のシュールさにハマっていた時期がありました。中でも物語として好きなのがこれ。どサブカルです。

会社に行きたくないときにどうぞ。(新卒の時からずっと読んでます) 

うたかたの日々 

うたかたの日々

うたかたの日々

 

単純に『うたかたの日々』が好きすぎて、色々含めて3冊持ってます!そんな中、原作よりもオススメしたくなっちゃうのがこの漫画版。少女漫画は絵がキレイ。

 

元ネタはこちら。

訳者さんが光文社は野崎歓、ハヤカワは伊東守男なので、好きな方の訳で読んでね! 話し言葉がきれいなのは野崎さん。

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

うたかたの日々 (光文社古典新訳文庫 Aウ 5-1)

  • 作者:ヴィアン
  • 発売日: 2011/09/13
  • メディア: 文庫
 
うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

うたかたの日々 (ハヤカワepi文庫)

 

 

他にもオススメがあれば教えてほしいです!

 

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