きまやのきまま屋

本、音楽、映画、写真のこと。趣味人のきまやがきままに書いてます。※当サイトはアフィリエイト広告を利用しています

ネガティブ・ケイパビリティって人生においてとても大事なのでは…?

今回読んだのは、こちら。

「ネガティブ・ケイパビリティ」「ネガティヴケイパビリティ」など、いくつか表記が違いつつ既に何冊か本が出ているのですが、多分同じ概念のことを言っていると思います。

その中でも、作家さんが好きでこの一冊を選びました。

帚木蓬生(ははきぎ ほうせい)!

帚木蓬生ってこんな人(私見)

福岡出身の作家さんで、精神科医でもある人。福岡でメンタルクリニックを開業されています。(本にも出てきました)

小説は、たまに当たりはずれはあるものの、すらっと突飛なことを言い出すので「頭いい人なんだろうな~」という印象です。

 

だってそもそも、東京大学の文学部出身でいらっしゃるんですよね。でも結婚相手の一族が医者ばかりなので「惚れた女と結婚するために医学部に入り直して(ここで九州大学)、医者になった」作家さんなんですよ。え、すごくないか。

それでいて、けっこう田舎の方でご自分で開業して人気者になっているという…現場にいらっしゃるんですよ。

ネガティブ・ケイパビリティとは

では、ネガティブ・ケイパビリティとは何なのか?

併読して『ケアの倫理とエンパワメント』を読んでいるのですが、そこにも出てきました。

こちらでは

「ネガティブ・ケイパビリティ」とは、相手の気持ちや感情に寄り添いながらも、分かった気にならない「宙づり」の状態、つまり不確かさや疑いのなかにいられる能力である。P18

と定義されています。

 

帚木蓬生の方では、副タイトル通りに「答えの出ない事態に耐える力」ですね。本文中では、

不可思議さ、神秘、疑念をそのまま持ち続け、性急な事実や理由を求めないという態度です。P58

とされています。

ロマン派詩人・キーツが生み出した言葉で、それを後の精神科医・ビオンが発見して世に広めた様子など、帚木蓬生の本の方がしっかり詳しいです。(前者はケアの本だし)

 

「仕事と私どっちが大事なの?」とか「そんな態度でやる気あるのか!」とか「どうせ俺はもう駄目なんだ」とか…、「結局いくら払えばいいんだよ」とか「○してやる」とか「○ね」、じゃなくて…

性急な事実確定に走ろうとせず、「そういうこともあるよね」「そういう時期も必要かもね」「あなたも私も大変だよね」と

状態をキープして好転を待つ、という態度のことだと私は受け取っています。

疑う心やハッキリしないモヤモヤを抱えつつ。持ちこたえる。

 

上記のような態度を保つことで、色々なひとが様々なことを乗り越えてきた実例が書かれた本でした。

「もういやだ!」とキレてたらたどり着けなかったこと。疑念を抱えながらでもコツコツ手を動かしたから成し遂げられたこと。

『源氏物語』の話、なかなか味わい深かったです。

この本に書かれていて面白かったこと

内容が多岐にわたるので、詩人・キーツのちょっと悲運な人生から、メンタルクリニックにいる犬の話、紫式部のこと、不登校の子どもたち、教育についてなど幅広かったのですが、心に残った点をご紹介。

 

私が面白いと思ったのは、「日薬」と「目薬」の話でした。

 

「日薬」はいわゆる「日にち薬」のことですね。あまり一般的な語ではないかもですが、関西ではよく使うらしい。私はリアルで二回くらい聞いたことがあります。

「日にち薬」はどこの言葉? 全国区の知名度と、現代人に響くわけ:朝日新聞デジタル

 

ただ待つ、時間を稼ぐ、という行為は、無為ではない、と。

コスパにこだわる人からしたら時間の無駄かもしれないけれど、弱っている時にはいいんじゃないでしょうかね。

 

そしてもう一つ、「目薬」。これは普通の意味ではなくて。

人は誰でも、見守る目や他人の理解のないところでは、苦難に耐えきれません。誰かからの、あなたの苦しみはよく分かっている、あなたの奮闘ぶりもよく知っているというメッセージが伝わると、病人は持ちこたえられ、苦難を乗り越えられる P116

知っているよ、見ているよ、という他人からの視線が力になるということ。

それは「孤独ではない」に一番近いアクセスなんじゃないだろうかと思うのです。

 

同時に、人がよく言う「人に会って話をすると気が楽になる」という言説も、「知ってもらう」契機になるからなのかな、と思いました。

メンタルクリニックに通う理由、でもあるかもね。

人が人にお守りを買う理由でもあるようです。あなたのことを思い出したよ、これは思い出したことを伝えるための具現だよ、かみさまにだって繋がっているよ、と。

 

本書ではここからプラセボの話に繋がって、それも面白かったです。

白黒はっきりつけたくなっちゃう自分に疲れたら、ぜひぜひおすすめです。

グレーゾーンで耐えられる人が一番つよいんだ。

 

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石田夏穂さんの小説だいたいユニークでおすすめ

我が友、スミス

すばる文学賞佳作で、芥川賞候補にもなった『我が友、スミス』。一番オススメしたいので最初に持ってきました。

一言で言うと、筋トレ文学です。

筋トレとかボディビルとかボディメイクに興味がある人にぜひぜひおすすめしたい。そして令和のニューウーマンノベル、であるのかもしれません。

石田夏穂さん、芥川賞候補作「我が友、スミス」インタビュー 筋トレで、私は自由な「何か」になりたい|好書好日

個人的にも好きなタイプの作品で、声出して笑った!実家エピソードのところとか、義妹さんのフォローが!

でも、主人公がハッとするところでは考え込んでしまう点もありました。女性にとってのボディビルと、ルッキズムのこんがらがり。

「2022年上半期ベスト10」に選ばせていただいてました。

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ケチる貴方

2020年、「その周囲、五十八センチ」で第38回大阪女性文芸賞を受賞。その中編と、表題作。

織田作之助賞2023の候補作「ケチる貴方」は、第44回(2022年)野間文芸新人賞候補にもなりました。(ここ後述します

・ケチる貴方

私は寒いとき必死だ。こんなにも必死なのに、何故この身体は頑なに熱を生産しないのだろう。骨と皮ならまだしもお前はエネルギーの塊じゃないか。私の代謝機能よ。この身体を温める薪ならここに山のようにあるよ。頼むからケチらず使ってくれないか。(「ケチる貴方」より)

Amazonの紹介文より引用。

「ケチる」っていうからお金の話かと思ったら、まさかの「冷え性に悩む話」でした。斜め上すぎる。

 

体格はいいのに人一倍寒がりで、熱い風呂がないと生きていけない。給湯器が壊れたら死。正直仕事にも支障が出ているし、いつだって寒い。でも、ある時ふと気が付いた。「いいことをした後、ポカポカする」。

人に優しくすると、なぜだか代謝が良くなることに気が付いた主人公。

ここから主人公が善行を積みまくってやがて幸せになるハートウォーミングストーリー・・・

にはなりません。石田さんだから。

 

・その周囲、五十八センチ

これ、タイトルが、NICO Touches the Wallsの「そのTAXI,160km/h」にかけてあるよね、絶対!?

えっ邦ロックお好きなのかな、2006年の曲なのにお若いのにご存じなのかな、あの曲めっさカッコいいよね~NICOは最初の数枚イカれてたよね~!!!

(私の勘違いだったら恥ずかしいけど、可能性としてなくはないと思う)

さて、あらすじはAmazonによると、こう。

私の脚は、生来、人並外れて太かった。その程度を定量的に示そう。その周囲、五十八センチ。(中略)私は自分より脚の太い人を、ついぞ目にしたことがなかった。(「その周囲、五十八センチ」より)

脂肪吸引しまくる女性が主人公。ダウンタイムの辛さを乗り越えて、吸引を続ける。痛そうでちょっと引きましたが。

 

表題作と合わせて「自分の体すらこんなにもままならない!」という現代の叫びでした。

 

ちなみに2020年、「その周囲、五十八センチ」で第38回大阪女性文芸賞受賞が実質デビューでしょうか?(単行本化は『我が友、スミス』が2021年で初っぽい)

黄金比の縁

おもしろお仕事小説。会社勤めの主人公です。

津村記久子さんの『ワーカーズダイジェスト』あたりが好きな人におすすめしたい。

就活モノなのですが、採用する側(人事部)にいる主人公。とはいえそんなにベテランではなくて、意識高くもなくて、「自分だけが気にしている、とある基準」のみで新卒採用を進めていきます。

ちなみにプラント設計会社。(石田さんご自身も、建設関係の会社にお勤めの兼業作家さんでいらっしゃいます)

 

なんせ人には話せない基準なので、「この子を採りたい!」と思っても明確な理由を説明はできない。。。と同僚と衝突したり、いやまさか、基準から逆を推した方がいいのか?といきなり180度方向転換したり。

すべては、会社に○○するために!そしてその動機とは…?

 

サクッと読める長さだし、楽しかったです。

我が手の太陽

さて、二度目の芥川賞候補になった『我が手の太陽』は、なんだか雰囲気変わってきました。ユーモア封印?

こちらもお仕事小説ですが、『黄金比の縁』とは毛色が違う、溶接工の話。職人っぽさが増しています。

 

腕がいいからこそ持ってしまう仕事へのプライドとか、どうしようもない健康の不具合とか、失敗とか。中年の労働環境問題に一石を投じる…のか?

男性主人公なのは初めてかも?そういった点も新鮮に読みました。

 

ちなみにこの回の芥川賞は激戦すぎましたね。『ハンチバック』回として語り継がれる回になる事でしょう。

news.ntv.co.jp

 

そして『我が手の太陽』は、2023年(45回)の野間文芸新人賞の候補にもなっています!

めっちゃクールな賞です。この賞を受賞されている作家さん、だいたい好き。

去年は町屋良平『ほんのこども』が獲っていました。

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実は↑の町屋良平受賞時、「ケチる貴方」が第44回野間文芸新人賞候補になっていたのですけどね、町屋良平が強すぎたので。。。

 

けれど今回(第45回)も、石田さんだけではなく他のラインナップも評判良さそうなので、何が受賞するのか、とても楽しみです。

『Schoolgirl』の九段さんも応援したい(早く単行本化してほしい『しをかくうま』)…朝比奈さんもいいらしいし…ホセもいるし…。

11月上旬に発表とのこと。

 

※九段さんと朝比奈さんのW受賞でした!2023/11/06追記

www.kodansha.co.jp

 

エッセイ

さて石田夏穂さん、他に何かあったかなーと探していたら、エッセイが『ベスト・エッセイ2023』に掲載されていました。

「気分はビヨンセ」というタイトルで、コロナ禍における放屁とイヤホン、マスクと歌の話。きれいにオチがついていておもしろかったです。

以降も注目していきたい作家さんが増えました!

 

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2023年上半期に読んだ本からベスト10なんとなく

2023上半期、読了は69冊でした。減ったね~!

勉強していたのと、ちょっとやることがあったのと、疲れ目がアレなので意識的に控えました。

で、カウント数とは別に「読んだ」内実は7月中までを入れています。だって、津村記久子のあれを読まずに終われないだろうよ、2023上半期はさ…!

 

フィクションとノンフィクションでエッセイ半々、ベストには入れないけど好きだったのもご紹介して、なるべく新しめに総勢15冊?書いてる間に増えたかも?はりきってどうぞ!

フィクション

彩瀬まるの新刊『花に埋もれる』、作家としての真骨頂というか集大成というか、そんな感じの短編集でした。

時間的にはけっこう前の話(デビュー作)も入っていて、でもテーマとしては一冊まとまっていてすごい。新しい話ではしっかり「彩瀬まるってけっこう踏み込むようになったよね…」って感慨深くなれる。

今から彩瀬まる読むなら、これもアリ!幻想文学風味、7割くらい。ということで、大森望さんが解説を書いています。

彩瀬まる 『花に埋もれる』 | 新潮社

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源氏物語で古語訳の世界に行ってしまわれたのか…と思っていたら角田さん、しっかり新聞連載をしていたみたい。嬉しい。2022年に『タラント』出ていました。偉業だと思う。そして泣いた。

戦争から今までという、長い年代を見つめた話。義足のアスリートたちの日常と、社会で起こる理不尽なあれこれと、あきらめた何かと残ったものたち、孫の逡巡は平凡で。

本当に、ここ数年で一番泣いた。

タラントとは、あなたにたくさんあげたいもののこと。

タラント

タラント

Amazon

 

 

書いたことは少ないと思うけど、私、島本理生をデビュー作から全部読んでて。掲載誌今も持っていて。

『ファースト・ラヴ』もそうだったけど、島本理生作品の主人公は一般人ではない方が収まりがいいのかもしれない…今回は『憐憫』、ハマった良い設定だった。

 

内容はまあまあ俗な話なんだけど、表現すべて宝箱みたいになってた。こういうのを伝統芸能と呼びたい。

「おかしくなったのかと思った」と言われた時に言い返した主人公のセリフが好き。そしてラストの一行がすばらしい。

憐憫

憐憫

Amazon

 

 

さて、津村さんです。『水車小屋のネネ』、話題でしたね。

母親のことで苦労していた10歳差姉妹が、水車小屋のある町に移り住んで、ヨウムのネネと過ごす。働いたり勉強をしたり。色々な人がいるけれど基本的にみんな性善説で、人の良いところが見られる話。

人生に退屈しないための振る舞いは、人との関わりの中にしか存在しないのだと。

そしてそこにしか、何もないのだと。

水車小屋のネネ

水車小屋のネネ

Amazon

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次点で柚木麻子さん『らんたん』と、本屋大賞一位だったのかな友達が教えてくれた凪良ゆうさん『汝、星のごとく』と、大好き南綾子さん『死にたいって誰かに話したかった』です!

 

金原ひとみさん『腹を空かした勇者ども』は元になった短編は読んでいて、すごくレナレナ好きだと思ったので最終形態の単行本もチェックしたいと思いつつ、間に合わず。。。

冊数が少ないと趣味が偏ることがハッキリ分かりますね、女性作家さんの方が好きなことが多い…と思いきや、白石一文も読めていないだけです。

 

外国文学だと、

これイチオシ。ヤングアダルトでフェミニズムを。

 

ノンフィクション

まず、2020年末に刊行されていたフィクション。コロナ禍日記で有名な作家さんなんですが、私がハマったのはこちらでした。

タイトルもだし、「弱さ」を受け入れる日常革命、という副題がいいですね。かなり等身大で読みやすかったです。考える系があり、脱力系もあり。

ご本人にもTwitterで反応をいただいたのですが、私は「肉だった」エピソードが好きです。みんな、鼻呼吸を大事にしよう!

 

 

次は、2022年上半期に出ていた安達茉莉子さん。こちらもエッセイ。原点っぽくてよかった。今の活動を知っていて読むと趣深い。個展に行ってみたいです。

この上半期、ほんとに安達さんが大好きだ。この記事書きながらもちよりradioのシーズン2を聞き返しています!

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次は、読んでいて息が詰まる往復書簡。スピード感がすごかった『急に具合が悪くなる』。

やっと読めました。どうしてかというと、宮野さんに年齢が追いついたから。追いつけたから、読みました。そして追い越します。こんなに全力で言葉を書けるあなたのことを尊敬しています。

 

磯野真穂さんも、新書をいくつか読んだことがあってけっこう好き。

「急に具合が悪くなる」磯野真穂さんインタビュー 早世の哲学者・宮野真生子さんと全力投球で交わした末期の日々の言葉|好書好日

 

 

最後は、韓国からの翻訳本。

モヤモヤを解消してくれる一冊だけど、私はたぶんこれからずっと、この本について話したり何か語ったりすることはない。実際に読了ツイートすらしていない。読んだ、そしてずっと覚えている。

私たちは無理して何かを語らなくてもいいんだ、ということを教えてくれたと思っている、こんなタイトルなんだけどね。私は『当事者は嘘をつく』がけっこう辛かったので…。

「悪い人ではないから」と自分に言い聞かせて耐えてはいませんか?

p32

あっ、表紙イラストが安達茉莉子さんだ!

 

 

ノンフィクションは次点で、不可思議な旅&読書日記で選書がよすぎた『うろん紀行』、世代的にきっと君は泣く『無人島のふたり: 120日以上生きなくちゃ日記』、

もう一つ安達茉莉子さんの『生活改善運動』もよかったです。

 

そして今期の"読んでみたらよかった古典"は

でした!

ドイツ文学ってなかなか暗くて良い。

 

さて、下半期もボチボチ読みましょう!

 

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もちよりRadioを聴いています(個人がPodcastにハマる過程)

春ですね。もう2023年の三分の一が終わろうとしているらしいですが、お元気ですか。

最近おすすめしたいPodcastがあるよ。

open.spotify.com

今日の更新で、ちょうど50回だそうです!「もちよりRadio」

 

シンガーソングライターの大和田慧さんと、作家の安達茉莉子さんが「お互いにおすすめしたいコンテンツを持ち寄る」というコンセプトのもとに、ゆるいトークをしている番組です。

 

私がこの番組を見つけたのは、そもそも安達茉莉子さんが去年から私のTwitterのTLで大人気で

名前は知っていたので、

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を買って読んでみたんです。

 

ここから話は逸れますが、そのうち戻ります。

この本を買った理由の半分くらいは「ネクスペイ(福岡市周辺で使えるお買物券)を使って本を買おう!」と思って、箱崎まで行ったこと。

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近所だと、そのお買物券が使えるお店が薬局くらいしかなかったんです。福岡市メインの施策なので仕方ないし知ってて20%増額につられて購入したけど、使いにくかった…(引きこもっていなければデパコスも多分買えるんだけど、使用期限が迫っていました)

 

最終的にドラスト系のスキンケアを買いだめし、愛車にガソリンを入れて(ららぽーと横のガソリンスタンドで使えたが安くはない)、

余った分は本を買おうと思って、お気に入り素敵本屋ことキューブリックに行ったんですよね。ついでにホットサンド食べた。

 

そうしたら、前述したようにTwitterでよく見かけていた作家さん(安達茉莉子さん)の本(『私の生活改善運動』)があり、手に取ってみたら読みやすそうなエッセイで。

なんか佇まいも可愛くて手触りがよかったので、ふらっとレジに持って行ったんです。

 

すると、レジの人が話しかけてくれて、安達茉莉子さんの詩集を推していただきました。

 

その時一番新作だったのはエッセイ『毛布』だと思うんですが、たぶん売り切れていた?ないっぽかったんです。そして安達さんがこのお店に来てトークライブをやったあとなので詩集サイン本があったのでおすすめしてくれたんだと思う。

けど、そういう事情一切言わず、めちゃくちゃ内容で推してくる。

 

え、私が現代詩好きって、顔に書いてありましたか…???

この詩集も佇まいがよくて、「薦め方がうまいですね…!」など言いながらつい、ぬるっと買いました。お買物券があると太っ腹になれていいですね。次回も買いたいネクスペイ。

 

結果、とても良かった。

おすすめしてもらった詩集が。

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そもそも私は『世界に放りこまれた』の出版社でもある本屋 twililigh(トワイライライト)が好きなんです。行ったことはないけど。

行ったことはないけど、去年見た町屋良平さんと倉本さおりさんのトークライブ配信がすごくよかったので!

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twililighさん、お近くの人はぜひ。三軒茶屋らしいです。私は通販使っています(推し本屋こそ通販で使う派)

twililight.com

 

なんかこう、繋がっているなぁと思いました。

個人の好みって明らかに繋がっていくよね。ディグるって概念がいまいちピンとこない、導かれるように知る。

 

1,000文字書いたけどタイトルにたどり着きませんでした。

都会のお買物券を持て余したので本屋に行ったらTwitterで見かけていた本屋が出している本がいい感じだったので買い、勧められた詩集もよかったのでその著者さんのPodcastを聴いてみたらしっかりハマっているよ、という話でした。

個人がPodcastにハマる過程っていろいろあるぅ。

 

で、もちよりRadioの何がいいかなんですけど、まずパーソナリティ大和田慧さんの声がいいです(そこ???)シンガーさんだからね。それと、安達さんの声も安心できる系。

 

内容も、もちろんよいです。

オーバーザサンを聴いている人は多いかと思うし私も初期から一生聴いていますが、同じくらい面白いよ。

オーバーの方はテンションが高いけど、もちよりRadioは二人とも声のトーンが低い。それが心地よい。

 

二人で見た現代アートや映画やネトフリの話、個展やライブや朗読会の話、がメイン?本の話や旅の話もよくあります。あーつまり、オーバーよりも文化寄りなのかな。

私は「森山未來がロビーを回遊していた話」と「オーストラリアに行ったら五歳児の笑顔になった話」が好きです。

 

埋め込んだSpotifyだと最新の話につながるかもだけど、ぜひ番組ページに飛んで、それぞれの回のタイトルを見てほしいです。

「愛と叡智(えいち)と」、「なにもしなくても退屈しない」、「弱さは自分と世界をつなぐ接着剤」などなど、気になるタイトルから聴いてみたら面白いと思います。

なんかちょっと、たまに哲学対話っぽい感じ…?

 

途中寝落ちてしまって聴こえてなかった回があるのでまた聴いていてもうすぐ二週目が終わるけど毎回発見があるくらい、おもしろく心地よく聴けるので、おすすめ。

 

open.spotify.com

 

安達茉莉子さんが表紙イラストを描かれたこちらも大好きさ。繋がっている。

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ではまたね!

 

※2023/05/11更新回のPodcastで取り上げていただきました!やったー!

原田ひ香『三千円の使いかた』は今を生きる全人類が読んだ方がいい

少し前に、この記事のタイトルのようなことを言いながら母親から本を手渡されました、きまやです。買ってあげたの私なんだが!

『三千円の使いかた』

文庫の広告を、新聞で見かけたらしいです。原田ひ香さんの『三千円の使いかた』。

で、今めっちゃ売れているらしい。ドラマあってるから!

 

私が持っているのは 9版です!

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帯に垣谷さんがいて素敵。『老後の資金がありません』の作家さん。私の母は『うちの子が結婚しないので』のファンでもあります。今回、文庫解説を書かれています。

帯を取ったら、こう。

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ドラマも盛り上がっているようです。土曜の夜かな?ハッシュタグできてる。

私も、原作面白かったし違いを見てみようと思ってチェックするつもりが、実は録画して溜めていて…。

 

とりあえず、本の話をしますね。ドラマとはどう違っているでしょうか?

ネタバレ半分くらい。

あらすじ(原作)

第一話…20代前半の美帆は、都内の実家を出て社会人2年目。自分の暮らしに満足していたが、優しい同性の先輩のリストラ、それに対する男性たちの反応に違和感を覚え、会社勤めも安泰ではないと悟る。安心したいし保護犬を飼いたいし、ゆくゆくは一軒家ほしいかも…と、しっかり者の主婦である姉・真帆に節約術を教わり始める。

 

第二話…70代の琴子(上記姉妹のおばあちゃん)は、夫が遺した一千万円をじわじわ使い、なんとなくジリ貧。ホームセンターで出会った根無し草フリーターの安生(やすお)と、年は離れているけど友達。嫁主導で始めた料理教室運営で、お金を稼ぐ大切さと面白さに気が付くが、なんせ歳なのでバイトが決まらない。と思っていたら…?

 

第三話…真帆は専業主婦をしつつ、ポイ活と個別株スイングで自分のお小遣いを稼ぐ日々。娘の大学進学までに一千万円貯めたいが、気のいい初恋の夫の稼ぎはいまいち。友人や妹に「よく仕事やめたよね」と言われ、しょんぼり。最近バイトを始めたおばあちゃんに慰められる。しかしセレブ婚の予定がある親友が、なかなかエグい義実家と揉め…

 

第四話…もうすぐ40になる安生(やすお)は、出稼ぎ肉体労働と庭作りで生きている。インドで出会ったきなりと付き合っているが、子供がほしいと言われてビビる。きなりはiDeCoと小規模共済を積み立てるしっかり者。わりに高スペックな安生はモテるけど根無し草しかできない、結婚も就職もイメージがわかない。真帆たちと仲良くなったきなりに定住を迫られ、逃げ出すように出たサンマ漁で…

 

第五話…50代の智子は、上記姉妹の母親。更年期に悩んでいるものの子供は独立したからこれからは自分の時間が持てるかも、と思いきや病気が見つかり、ガンかもしれないと気を揉む。妻が入院しても何もできない世代の夫のご飯を作り続けることに嫌気がさしていると、親友は熟年離婚をすると言い出す。そうだ、一緒にFPに相談しに行こう!

 

第六話…美帆の新しい彼氏はサバけた現代っ子。節約ブログを始めるとPV的にも反応は上々。彼と結婚をぼんやり考えていたところ、彼の実家がお金的にブラックなことが判明。奨学金という名前の彼の借金は550万円、デカい。母親から結婚を反対されることに。でも彼氏、才能あるし、なにより前向きでいい人なんだよ!

 

読みポイント

各世代の女性が、それぞれのライフステージを謳歌しながら、個々の悩みを抱えているんだけど。それが、別個の問題でもなく、繋がっているところが面白い。

社会ってそういうものですよね。

あと、ある方向からは「しっかり者」と見えていた人も、自身では切実に迷っていたり悩んでいたりする構造を丁寧に書かれていて好感です。

 

個人的に言いたいことは、安生が根無し草しかできないのは就職氷河期世代に卒業したからだっていうのが、刺さりすぎて痛い。わかる。生まれてからずっと景気が悪い今の若い人もかわいそうだけど、社会に出るタイミングで急に求人がなかった世代はつらいのよ(コロナ禍の人もそうだろう)本州の大企業、氷河期の10年で九州からは院卒の男子一人しか採ってないとか、マジな話なのよ。

 

病理検査を一緒に、手をつないで聞きに行ってくれる友人、だいじ。

 

節約がだいじとはいえ、生きる本質は「楽しく暮らす」だと思う。原田さんもそう考えていらっしゃると思う。

 

個別株スイングとか(この単語は出てこなかったけど、様子から見るとスイング)、iDeCoとか、節約したい!と思ったらみんなで凄腕FPを頼ったりブロガーになったり、ネット民に親和性のあるストーリー展開も素敵。

 

小説としてはラスト色々あるもののちゃんと大団円を迎え、読後はスッキリします。

 

この一冊が、文庫で800円弱。これこそいいお金の使い方だと思います。

 

原田ひ香さんは、↓のイメージが強かったんですけど、エンタメに寄せつつ社会派なところは変わらずですね。

 

時間見つけてドラマも見ます!

 

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2022年下半期に読んだ本からベスト10っぽい感じで

遅くなりましたがまとめていきます〜

2022年の下半期に読んだ冊数は108冊だったようです、煩悩と一緒!

前回→2022年の上半期に読んだ本からベスト10っぽいもの

いつも「私が読んだ」タイミングで集計していますが、今回はほとんど新刊。読了冊数というより、発刊時期を揃えました。

 

まずはフィクションから、女性作家の力作を三連発して、頭おかしい系の詰め詰めを並べて、ノンフィクションにいきたいと思います。途中で次点とか関連とかも並べていくのでチェックしてね~

フィールダー

この国に死刑があること、猫を室内で可愛がることの是非、尊敬している人に「尊敬しています」と伝えたら「じゃあヤレるな」って見下されるタイプのセクハラ、お前の『神の手』、子供達が愛されていないこと、その愛が歪むこと、知らない人とだけ文字でだけ話せる内容、関係へのいびつな依存、資格を得ないと参加させてもらえないヒエラルキー、裏道から入り込むために使う愛嬌、好きになってはいけない人、庇護すべき人、助けたい人と助けるエゴ、言葉が伝わらないこと、自己満足にしか言葉を使わない人、希薄になる関係、知られたくない場所、逃げたい場所、弱い人の前で強くなること、他人を思うこと、ゲームに感動しながらキレること、学校と親と。

盛りだくさんすぎた。

タイトルが地味だからか、話題になることが少なくない?

 

あらすじは、研究者が小児性愛の誤解を受けて出奔しつつ人生を顧みて、会社員がそれを追いつつゲームにハマっていて、お互いを「フィールダー」だと認め合う話でした。

ねえ、こういうあらすじなのにキーワードが多いのよ。

ゲームの描写もよかった!

 

とても問題作だと思うんだよなぁ……みんな読んで!!!…なんにせよ古谷田さんは実力派です。

コークスが燃えている

「女の人生全部乗せ」みたいな作風って、いいよね。

こちらに書きました!

櫻木みわを紹介したい。3作品とも良いよ、新刊出たよ、福岡出身の同世代女性!

新刊もとてもいいんだけど話題が人を選ぶかもなので、オススメするならコークスです。

特に福岡の筑豊出身の人に読んでほしい描写があります。でも、共感しながら読書をする人にはきついかも…。あと同世代の人には気にしてほしい一冊。

絞め殺しの樹

久しぶりに一気読みしました。そして人にオススメせずにはいられない。私は歴史ものをあまり好まないんですが、昭和史は面白く読めるのかも。

力強い。

こちらに書きました!

#織田作之助賞 2022 最終候補作品が、ぜんぶ強い

テーゲベックのきれいな香り

f:id:kimaya:20230115182106j:image

もともと詩を書いていた人(短歌も読んだことありました)の、小説デビュー作。これまた異質。

文章が好きすぎて引用します!

"直ちに
直ちに、直ちに、
底抜けの明るさ……、頬骨、ほおぼねなのか?"

「1 わたしの愛犬パッシュのこと 2028.4」

"書くことは残すことですから。書くことで死なないのです。いや、書くことによって誠実に死なせることができるのです。"

「3 そしてわたしが消えてゆくまで 2002-2013」p81

"通奏低音が主題を引き受けて奏でるとき、東京を東京という記号で語る人たちがまた東京という主語で言う。わたしは東京。東京はわたし。"

「4 虎子、それはわたし 2013.4」p155

"会いたい人? もちろん。たくさんいますわ。でも、もし誰にでも会えるなら、わたしに会いたい。"「7 そして東京と混ざり合うまで」p242

 

山﨑さんの文章を読んでいると、音楽を聴いている時のことを思い出す。音楽が聴こえるのとは少し違くて、音楽を聴いていた時の耳の記憶、バンドのMVを見た時の視界の記憶が、脳に浮かび上がる感じ。真面目な読者なので、出てくる音楽もチェックしながら読み進めました。

 

石松佳さんはBGMがかかる感じなんだけど、山﨑さんはちょっと映像ちっくな雰囲気あるんですよね、これはなんなんでしょう?今思えば、昔からそう?詩集が舞台化されていたりするので、なにか舞踏っぽいみたいな印象はみんな思うのかもしれない。

 

あらすじ…というものはどれなんだろう。近未来の東京で、男性が過去を思い出している。女性が楽しく生きている。手紙がくる。短歌を書いたり、詩を書いたり、漫才をしたり、幼少期を思い出したり、自他があいまいになったり、テーゲベックの香りのことを考えたり、する。

読みながら酔っぱらった気分になったり、たまに思わず吹き出したりする不思議な読書体験でした。

 

東京の話なのでGEZANを思い出したよね。山﨑さんご本人はクラシックを好むらしい…?(こないだスペースでちらっと聞いた)でも、なんかお笑い好きそうよね。毎日新聞のインタビューもとても興味深かったです。2022/12/28付。

 

好きな詩集はこちら。ここから追ってるけど長編小説で小説家デビューしたので驚きました!この詩集は、ただただカッコいい。

冷やされた欲望が慰撫するでなく誠実な問いかけをする

p84

まさにそんな感じの文章。

その他に好きだったもの

フィクションの次点は、安定の金原ひとみ『デクリネゾン』! やー、ずっといいなあ金原さん。ずっといいよ。コロナ禍でもずっといいよね、すごいよね。

それと綿矢りさ『嫌いなら呼ぶなよ』は笑いました。最後のやつが好き。

 

新しめの人では、佐原ひかり『人間みたいに生きている』が良かったです。佐原さんのスペースを聞いたことがありますが、文学少女っぽくて素敵でした。私のTLで圧倒的な人気を集めています。

これは良いの分かる!生きにくい女子高生と、不死身の人間。YA風味で読みやすいけど、さっぱり読み終えることはできない。

 

今回、推し詩人以外ほとんど女性作家さんばかり挙げていますね…『音楽が鳴りやんだら』も好きでした。

海外を一つ。

野原

小さな町の墓地が舞台。出てくる人たちは、みんな死者。29人が独白をする、ちょっと変わった本。

 

あなたの人生では何が印象的だった?どこで自分は間違えたんだと思う?一番よかった瞬間は?最愛だったものは?

そんな問いかけをされたわけでもないのに、人は一生懸命に語る。それが良すぎる。

 

ゼーターラーはオーストリアの作家さん。俳優もしている?していた?そうです。前作『ある一生』も感動しましたよ。

 

ここからノンフィクション。

プリズン・サークル

ドキュメンタリー映画。㏌刑務所。の、文字版。

私は映画を先に観ました。たまにネットで観れたり、有志の団体が各地で上映していたりします!

prison-circle.com

これは個人的な話ですが、そして正しい方向性か疑問の残るところですが、被害者感情を拗らせたついでに加害者更生について考えることが多くて。2023年からはやめようと思っているのですが…。

私の人生にこの映画があって、良かったですよ。

 

この映画は、全人類が観た方がいいと思っています。免許証更新の時や成人式や、あらゆる場所で流していってほしいと思う。。。

傷を愛せるか

増補新版がちくま文庫から出たので、評判をきいて買ってみたら、とてもよかったです。

 

精神科医でカウンセラーでもある著者さんの、日常や旅先でのエッセイ。映画のことも。語り口がとても柔らかくかつ知性を感じられる文章で、とても好み。

 

「傷を愛せるか」と問いかけている本なのに、傷そのものを愛することを強要してこない文章たち。

一方で、傷があるからこそ癒される風景もある。折に触れて再読したい一冊です。

タフラブ 絆を手放す生き方

こちらもカウンセラーの、信田さよ子さんの新作。最近すごく信田さんが好きで!

依存とか関係とか…。副題「絆を手放す生き方」に引っかかりを覚えたら読んでみてほしいです。

タフラブとは、アルコール依存症などを見守る周囲の人に必要とされる愛の形らしい。大事なことよね。

 

エーリッヒ・フロム『愛するということ』が、名著なんだけどやっぱり昔すぎて少し古いじゃない?

代わりになるのはこれだと思う。

 

人との関わり方の本でいうと、『人間関係を半分降りる』もよかったです。

家族

村井理子さんを私はけっこう読んでいて、毎回ユーモラスに問題を切り取る手法が印象的なのですが、こちらは真正面から家族に向き合っています。『兄の終い』と併せて読むと、より奥行きを感じる一冊かと。

表現がきれいでした。

家族

家族

Amazon

聞く技術、聞いてもらう技術

こちらは、東畑さんを読んでいるというより編集者さん読み(柴山さん)をしていて手に取った一冊。

東畑さんも何冊か読んでるけど、いつも読みやすくていいですよね。

同じ編集者さん(しーば!)だからか、少し『当事者は嘘をつく』と通じるところを感じました。

心にとって真の痛みは、世界に誰も自分のことをわかってくれる人がいないことです。P70

孤独こそが聞かれねばならないのですが、孤独を聞こうとすると、聞く人も孤独になります。そして孤独になると、人は聞くことができなくなります。P79

沁みること言うやん…と思いつつ読みました。経験に根付いた言葉は強いですね。

オールアラウンドユー

ベストヒットになった歌集です。よかった。木下龍也さん、情熱大陸に出ましたね。

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予約したらランダムに選ばれる装丁、私はグレーでした!お気に入り書店さんから取り寄せたのでサイン本です!

著者撮影の、帯の写真が良い。全体的に装丁が素敵で、物質としての本としてかわいらしい。しかし中身もキレキレです。

 

神さまを殺してぼくの神さまにどうかあなたがなってください

良すぎてキーホルダーを買いました…。

ナナロク社さんはいつも楽しいことをしますね。舞城の詩集も出してくれてありがとう!

 

あっ、もう10冊越えた???

最後に、今期の「面白かった古典」は、まだ古典ってほどじゃないけど

です!はー、天才。関連記事です。

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あとは元祖女の子が病気で亡くなる系。

名作でびっくりした。

 

それでは2023年も、楽しくのんびり読みましょう~

 

【関連記事】

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櫻木みわを紹介したい。3作品とも良いよ、新刊出たよ、福岡出身の同世代女性!

2022/12 更新

同世代で同県出身で同性のアーティストを追いかけてしまうことってないですか?私はある。椎名林檎もその枠。

で、最近は一木けいさんも。

一木けいのおすすめ、というか全作品ご紹介コーナー

 

そして今回、また良い作家さんを見つけました!

櫻木みわ、という人。

 

というか知らずに一冊読んで、Twitterでの人気っぷりに納得しつつ深く感動して、それで経歴を調べたら2歳年上の福岡出身の方で。あぁ同じ時期に同じ市にいたんだなぁ…と。

※今は滋賀にお住まいらしいです!

びわ湖の沖島に移住した作家の櫻木みわさんが小学生に特別授業|NHK 滋賀県のニュース

 

まあ、そんなことはある意味どうでもよくて、作品がすばらしかったので語らせてほしい。とりあえず今、本になっているのは3冊。(2022/12/25時点

コークスが燃えている

コークスとは…石炭を乾留(蒸し焼き)して炭素部分だけを残した燃料のことであるby Wiki

 

こちらは長編です。が、そんなに長くない。しかし濃い。

 

自分という燃料を燃やしつつ生きる、筑豊出身のアラフォー女性。歳下彼氏とはちょっと前に別れた、弟の元カノに絡まれる、非正規雇用なので将来が不安…という主人公の、とても濃密な数か月のこと。

マジで痺れました。

ははは、何もあらすじ説明できない。たまにあるこういうの。単に、あらすじを言うとネタバレになっちゃうからってわけじゃなくても、何を説明したとしても何も伝わらないだろうという感覚。葛藤を生きている、人からさまざまな不自由を強いられている、心だけが自由。燃え盛る。

 

ちょっとシスターフッドか。話に共感しすぎて必要以上に辛くなっちゃう系以外の人は、みんな読んでください。リアルすぎて。

うつくしい繭

短編集、かすかに連作。その連作のさせ方が、切ない。気づかなくても読めるけど、国を変えて時代を変えても繋がっていた人の想い、という感じ。

これ、驚いたんですがちょっとSFなんですよね。

それでいて旅小説でもある。

 

それぞれのタイトルと、目次に表記されている地名をご紹介。

  1. 苦い花と甘い花〈東ティモール〉
  2. うつくしい繭〈ラオス〉
  3. マグネティック・ジャーニー〈南インド〉
  4. 夏光結晶〈日本 九州・南西諸島〉

この作品の更に驚いたところは、1と2は、とある創作講座の課題提出作品ってことです…。つまり作家になるための講座を受けていて、その中で書いた習作なんです。

それにしては完成度が高すぎて!!

(もちろん、単行本化にあたって手を入れているだろうけど

 

4で、SF新人賞の最終候補まで残っています。でも受賞自体はしていないため、そんなに売り出されていない。

ゲンロン大森望SF創作講座の最優秀賞である「ゲンロンSF新人賞」第4回受賞者が決定しました。 - webゲンロン

 

けど、そこはやっぱり大森さんだから?単に作品がいいから?ゲンロンだからか!

しっかり単行本化されて販売されています。ありがとう誰か。

 

そして印税の一部は、各国に寄付されるそうです。それぞれの国に思い入れをお持ちなんでしょうね。現地で働いていた、ってプロフィールにありますし。

 

1だけ主人公が現地の人(少女)ですが、その他では日本人女性が主人公です。だから2や3の方が最初は入り込みやすいと思います。ファンタジーに強い人は1好きそう。1はちょっと寓話風なところに、現代の風が吹いた感じよね。

 

で、個人的には表題作の2がすごかった!のですが、読み通して考えてみると、4の告白のシーンが心に残っています。あまり世の中にない、だからこそ良いセリフ。

「おれはね君の珠をみて、君という人間がほんとにすきになったんだ」

もちろんここに行くまでに色々なことがあるからこそ、生きるセリフです。この告白に主人公関係ないし、なんというか全体的に傍観者なのですが、まあとにかくこれは描写が良い。

サラッと読めるけどラストが衝撃な3も好きです。

 

刊行後のインタビューはこちら。人となりの分かるエピソードたちです。クンデラ推しです!

『うつくしい繭』櫻木みわ|講談社文芸第三出版部|講談社BOOK倶楽部

【新刊】カサンドラのティータイム

カサンドラのティータイム 櫻木みわ(著/文) - 朝日新聞出版 | 版元ドットコム



カサンドラって、あの「カサンドラ症候群」のこと、でしょうね…。

カサンドラ症候群 - 大阪メンタルクリニック 梅田院

 

帯に「巧妙な支配と暴力」ってあるので、間違いないと思います。抑圧された女性の話を書くんですね…。

正直、私も30代の10年間、これを発症していたと思います(今は離婚したので大丈夫ですが、後遺症としてあんまり人と深い話をしなくなりました)

 

読了しました!やはりカサンドラ症候群のお話でした。

その他、短歌と短編

そして他にも、雑誌に掲載されたけれどまだ単行本化されていない作品や、短歌などもあるそうです。短歌読みたい…。

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こちらの文庫に、短編『しおかぜ』が収録されています。舞台は現代日本で、拉致問題。


とてもオススメなのでみなさん読んで!

 

【その他に追っている作家さん】

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三島由紀夫『仮面の告白』読書感想文みたいなもの

久しぶりに読んだらやっぱり面白かったので、今回は『仮面の告白』について。

たぶんに変態ちっくな内容を含んでいます。引き返すなら今です。それでいて純愛でもあります。

 

新装版の文庫はこちら ↓ です!(2020年刊行)

まず登場人物をざっくり紹介してから、各章ごとのあらすじをまとめてみます。そして読みどころ、引っ掛かりポイントなど。もっと細かいことはwikiを見ると分かりますね。あくまでざっくりいきます。

仮面の告白 - Wikipedia

三島由紀夫『仮面の告白』新潮文庫新装版

三章からが読み応えあり!です。

登場人物たち

私…主人公、男性、三島由紀夫がモデルとされている。家族から「公ちゃん(きみちゃん)」と呼ばれることがある。

幼少期から、自分の特殊な性的嗜好に煩悶している。作中で物心ついてから、23歳にまで成長。

 

近江(おうみ)…中学二年の時の同級生、男性。粗野で不良っぽい。数回落第しているため、年齢は主人公より上。最初に惹かれた相手で、主人公が知性よりも無智と粗暴さに惹かれる原因になったと考えられている。

 

園子…友人の妹。ピアノを弾く。主人公の二歳下くらい。小さい妹の面倒をよく見る、化粧っけのない無邪気な女の子。仲良くなるにつれ、主人公と結婚したいと思うようになる。

 

家族たち…祖母、父、母、妹。過干渉で、年の離れた恋人のような祖母、こちらの意見をきかない父、的外れな心配をする母、明るい心根だが若くして死んでしまう妹。

あらすじ 第一章

生まれた時の記憶があると言い張り、祖母に発言をとがめられる幼少期。この出だしは有名なところ。

永いあいだ、私は自分が生れたときの光景を見たことがあると言い張っていた。

(P5)

 

生まれて四十九日で父母から引き離され、祖母に育てられる。かなり過保護な祖母やお手伝いさん達に可愛がられて育つ。

自家中毒をわずらい、ひ弱キャラになる。

 

性的なものへの憧憬が早めに起こるが、女性ではなく同性である男性に向かう。また、状況的に肉感的なもの、知性よりも肉体的なものに強く惹かれる。

彼は地下足袋を穿き、紺の股引を穿いていた。五歳の私は異常な注視でこの姿を見た。(P11)(太線部…本文では傍点部)

兵士たちの汗の匂い、あの潮風のような・黄金に炒られた海岸の空気のような匂い、あの匂いが私の鼻孔をうち、私を酔わせた。(P17)

 

また、豪奢な死に様や、人が出血する様子、拘束されている様子などに執着する。

執拗に、「殺される王子」の幻影は私を追った。(P24)

 

単純ではない欲望を抱えているため、「一人の男の子として演技を要求されている」という感覚を強く持つにいたる。

 

一章は、説明が多くてとっつきにくい印象があります。文章がきれいなことは分かるんだけど。。。祖母の神経質さによって閉じられていく狭い世界で、鬱屈する幼少期。本人も悲劇性に惹かれていくし、暗いというか沈鬱というか….。それでいて装飾好きな自我を持て余したり、うまくいかないものです。

 

同性愛を赤裸々に描いた、しかも自伝的に、ということで発表時には話題になったようです。(素直に三島由紀夫の自伝として受け取ることもできますが、三島自身が同性愛者であったかどうかは諸説あるようです)

あらすじ 第二章

十三歳で祖母と別居し、家族と暮らすことになる。初等科から中学校に進級し、近江に出会う。

それは、そういう粗雑な言い方が許されるとすれば、私にとって生れてはじめての恋だった。しかもそれは明白に、肉の欲望にきずなをつないだ恋だった。(P59)

近江に感化されファッションを変えたり、じゃれあってときめいたり、近江を見つめ続けたりする。近江の腋毛が多いのを見て、自分を恥じたり嫉妬したりする。

 

また一方で「強くならねばならぬ」という強迫観念に侵される。なに、このややこしさ!三島が難解だと言われる所以ですね。憧れてマネする、だけではなく、愛する肉体を憎む話が早い、長い。近江になりたいほど近江が好きで、私ではいたくなくて、でも弱っちいから近江になれなくて恥じ、近江を憎く思ってしまう。

 

秋になると近江は放校され、いなくなる。

 

中学四年になった私は貧血症にかかる。貧血の作用で、血液への欲求がより強くなる。

クラスメイトをひどい目に合わせる空想で自慰を行う一方で、同世代のクラスメイトたちとの話の合わなさに、自分の異端さを痛感する。

私は人生から出発の催促をうけているのであった。私の人生から? たとい万一私のそれではなかろうとも、私は出発し、重い足を前へ運ばなければならない時期が来ていた。(P94)(太線部…本文では傍点部)

 

ここまでのまとめ

一章と二章で語られていたのは、「自らの異端性」に尽きると私は感じます。

そしてこれが多分、三島由紀夫を特徴づける点でもあると思うのです。

 

分かりやすい異端として「同性愛」が語られているけれど、決してそれだけではなく、人生への冷めた態度や、肉欲に引きずられる思考とそれを周囲に気取られまいとするゆえ現れる冷淡さ、周囲に馴染めないことへの劣等感、異端ではないものへの憧れからくる度を越したロマンチシズム、それを隠そうとする空虚な陽気さ。

「この世界への馴染めなさ」

 

これらのどれかに引っ掛かりを覚える人が多いからこそ、ここまで読み継がれているのだと思います。

「人生への冷めた態度」なんて、クールですよね。共感してしまう人もいそう。それでいて無邪気なんですよ。本文では「楽観主義」とされています。

 

さて、続き。

あらすじ 第三章

十五、六歳になっても性的嗜好は変わらないが、人生に出発するための資料として「女」のことを考える。小説を読んだり、今まで関わった女性について思いをめぐらせたりする。

 

戦争が始まる。大学に進学する。二十歳前後になった?

きっと戦争によって早死にするという思想から、感傷的かつ身軽な気分で生き始める。(もともと病弱なため、自分が早死にするという確信が強い)

友人の草野と親しくなって家に遊びに行って、その妹の園子と出会う。個人的には、ここからが話のメインと思ったりします。

園子との出会いと別れ

友人・草野の家の居間でくつろいでいたら、拙いピアノが聴こえてきてほっこりする。十八歳の妹・園子らしい。園子がお茶を出してくれた時に、足がほっそりしているのを見てさっぱりした好感を持つ。

 

二十一歳になる。草野が入隊したので、面会に行く家族に友人として着いていくことに。駅で家族と待ち合わせていたら、十九歳になった園子だけが走ってきて、その様子に感銘を受ける。

私は私のほうに駈けてくるこの朝の訪れのようなものを見た。少年時代から無理やりにえがいてきた肉の属性としての女ではなかった。

(P132)

 

…年の近い女性のことを「朝の訪れ」だと認識したのなら、それは恋なのでは?と思いますが、そう簡単ではないところが主人公の悩ましいところ。

一瞬毎に私へ近づいてくる園子を見ていたとき、居たたまれない悲しみに私は襲われた。かつてない感情だった。(中略)悔恨だと私に認識された。

(P133)

なぜか悔恨を感じるんですよ…。恋心ではなく…。

 

それでも主人公にとっては、無理やりではなく好感を抱いた初めての女性。ていうかこれが好感でないなら、恋とはただの肉欲ではないか!「これで僕にも異性愛がわかるのでは?ひいては『普通の人生』が歩めるのでは?」という思いを強くして、園子とどんどん仲良くなります。

彼は長兄の友人なので、家族ぐるみで応援されます。園子もかなり乗り気!

 

本を貸し借りし、遠距離になってからは手紙をやり取りします。写真も交換する。園子からは「お慕いしております」とはっきり書かれる。疎開先に会いに行き、家族とも仲良くして、「お付き合いしている」っぽい流れができあがります。

 

それで、主人公は自分の幸福や欲望のきっかけを探そうと、暗黙の同意を得た上で園子と接吻するのですが…。

私は刻々に期待をかけていた。接吻の中に私の正常さが、私の偽りのない愛が出現するかもしれない。機械は驀進していた。誰もそれを止めることはできない。

私は彼女の唇を唇で覆った。一秒経った。何の快感もない。二秒経った。同じである。三秒経った。――私には凡てがわかった。(P182)

という結末になります。何の感銘も受けなかったし、何も変化しなかった。しあわせではなかった。冷めていた。

 

そこからは逃げの一手。園子は接吻したことですっかり恋人気分になり、当たり前のように「次はプロポーズだ!」と思っているっぽい。それをのらりくらりとかわして家に帰ると、友人で園子の兄である草野から手紙がきます。

 

ここのところは実際に読んでいただきたいポイントなんだけど、草野の文章と彼の気分が、主人公を勇気づけてしまうんですよね。

結婚を無理強いするわけじゃないよ、本当に妹のことが好きなのか教えておくれ、という友情に根差した真摯な言葉を受けて、

素晴らしいことであった。愛しもせずに一人の女を誘惑して、むこうに愛がもえはじめると捨ててかえりみない男に私はなったのだ。

(P197)

と、唐突なキャラ変!

 

なんらかの型にハマりたくて仕方がない、異端者の自覚が強すぎる主人公の悲しさを感じます。

 

という感じでぬるっと園子と別れる(手紙に婉曲な断りの返事を書いただけで、二度と会いに行かずに終わり…)、そして終戦を迎えたところで三章は終わりです。

いやぁ、盛り上がったね!

 

なんらかの型にハマらなければ世界に溶け込むことができない、と考えることで、何がしたいのかが分からなくなる。それは時代のせいというわけではなく、男性ゆえのプレッシャーというだけでもなく、

寂しさからくるものかもしれない、と私は考えます。

人と同じである、連帯しているということは、心強いことですからね。

 

自分は人とは異質である、その寂しさを埋めたくて懊悩し、思ってもみなかったことをしてしまい、でもそれに希望を持ってしまい、でも結局は駄目で…寂しさに戻る。

文学ですね。

あらすじ 第四章

戦争が終わる。妹が死ぬ。園子が見合いで結婚したと聞く。一年ほど遊んで暮らす。学友と遊郭に行くが不能であった。

主婦になった園子と再会する。そして二人きりで会うようになる。

 

しかしもちろん、主人公は特に何がしたいというわけでもなくてただ「会いたい」だけなんですよ…ややこしいね…。

三ヶ月に一度くらい昼間に一時間くらい会う、という関係のまま一年がたち、主人公は就職します。お喋りをするだけとはいえ、人妻と会い続けるという行為に背徳の喜びを得る。こういうの、他の三島作品にも出てきますね。

 

何もないとはいえ、園子は煩悶します。この人、私と結婚するのは断ったくせに今になって会いたがるの何なの?とは思いますよね。あれ、私この人のこと好きだったし、他の人と結婚したの早まったかな?って思いますよね。

「今のままで行ったらどうなるとお思いになる?何かぬきさしならないところへ追いこまれるとお思いにならない?」

(P229)

人妻らしい悩み方をする園子。しかしその時でも主人公が見ているのは、通りすがりの粗野な半裸の青年だったりして。どこまでも分かり合えない二人と、それでも会うことをやめられないほど互いの間に流れている何らかの感情と、夏の光で物語は終わります。

 

読むなら、新しい文庫が読みやすいです

こちら、新装版なのでトリプル解説になっています。特に、中村文則の解説が現代の人には読みやすいと思います。ありがとう新装版!

 

【参考文献】

この記事を書くにあたって、拝読しました。→「作者」という仮面:三島由紀夫『仮面の告白』論 稲田大貴著 

https://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/opac_download_md/19423/3_inada.pdf

 

【その他の読書感想文】

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2022年の上半期に読んだ本からベスト10っぽいもの

上半期の読了は117冊でした!もりもり読みましたね。

まずはフィクション、国内から。

スモールワールズ

本屋大賞3位の短編集。この作者さん、なんだか違うジャンルで有名だった人らしくて、一部界隈がけっこう騒然としていましたね。

…本屋大賞なので、まあ、そっち系だよね…という、あさはかな予想を裏切る…なんていうんだろう、深い読み応え。思いもよらないあれこれ。

 

連作短編集になっているんですが、そのつなぎが自然というか、繋がってなくてもいいんだけど、気づくとすごく嬉しい感じ。

色々な社会問題の端っこで、みんなそれぞれ生きてるんだなぁと思える6編。どれもよかったし、どれもちょっとヒヤッとしたり。

キャラの濃いお姉さんもよかったし、戸惑う父もよかった。みんな複雑に生きてんだよ。どれも良すぎて頭が沸くかと思いました。ミステリ好きな人にもいいかも。

 

個人的に衝撃だったんですが、「花うた」という短編が『プリズン・サークル』を下敷きにしていました。被害と加害を一緒に考えようの試みが、往復書簡で。往復書簡好きすぎてよだれが出そうでした。

それでいてアルジャーノンでもあって、、、泣きました。

プリズン・サークル

ミーツ・ザ・ワールド

金原ひとみさんを挙げるの初めてかも?実は9割くらいは読んでいます。デビュー作から読んでいて、もう20年とかですよね。それでびっくりしたんですよ、「ミーツ・ザ・ワールド」に。

 

今までと違うやん。

今までは金原さん側だった女性が、対岸にいる!ってなります。けだるげないつもの彼女たちが、遠いんです。

じゃあこちら側に誰がいるのか?ですけど、腐女子がいます。

「焼き肉を擬人化したアイドルグループ」という、なんともコア…?想像をしにくいのだが…?に人生をささげているOLが主人公なんですよ。焼き肉で推しカプを語られて、歌舞伎町ホストじゃなくてもびっくりしちゃうよね。

 

ほら、今までと違うでしょ。びっくりするから読んでみて。ちょっとシニカルでも楽天的でよかった。

煽りは【死にたいキャバ嬢×推したい腐女子】!!!

関連記事:金原ひとみ『ミーツ・ザ・ワールド』刊行記念インタビュー「真逆の二人がぶつかった先に生まれる、新たな愛の形」 | 集英社 文芸ステーション

我が友、スミス

読んでいて一番笑ったのがこれかもしれない、と思って挙げました。初めて読んだ人でした。

!筋トレ文学!です。

 

細かいところの描写が、思わず笑ってしまう脱力とノリツッコミで楽しい。義理の妹(予定)と一緒の場面とか、完璧でしたね。

ボディビル大会の舞台袖で悟りを開いた時は笑いました。いや、笑いごとではないんですけど。

これはサクッと読めて笑えるしほんと好き。筋トレ勢じゃなくても読んで。

現代生活独習ノート

さて、毎回津村さんを挙げている気がしてきた。今回もエクセレントな短編集でしたよ!

 

一人暮らしもいいし、習い事もいいし、TVにも物語があるよね、、、と、パッと明るいわけではないけどじんわりと発光している、私だけの人生。わかる。わかるよ。暮らしを大事にする津村さん。

 

『ディス・イズ・ザ・デイ』が最近、文庫化されましたが、あれからサッカー要素を抜いた雰囲気もあるかも。『ワーカーズ・ダイジェスト』を少し丸くした感じ。『サキの忘れもの』を、独身女性に寄せた感じ。伝わる?

【関連記事】

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皆のあらばしり

乗代さんはもう、良すぎるでしょ。ラストどんでん返しする?この流れで?

男子高校生の知的探求心と、親戚に一人くらいいそうなフラッとしている博識なおじさん。

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日本文学は次点で

  • 絲山秋子『まっとうな生活』…『逃亡くそたわけ』の続編!人間関係についていろいろ、夢が叶ったり富山で再会したり。
  • 朝倉かすみ『にぎやかな落日』…ほのぼの老後。こういうふうに生きて死にたい。
  • 上田岳弘『引力の欠落』…あいかわらず、というか増しておかしい。塔で限界を感じたら地面を掘るのは正しいかもしれない!
  • 中村文則『カード師』…文章がうますぎるんよ、ギャンブル楽しそうすぎるのよ。

などでした!このあたりはもう、ずっと追ってて選びきれない。

ここから海外文学。

夜の少年

帯が重松清なことにびっくりしました。そっち系じゃない気がしています。

父と息子の重めの家族モノではあるけれど、犯罪小説でもあり、語りミステリっぽい雰囲気もありました。でも純文学かな?

 

僕の狂ったフェミ彼女

こちらの帯は、人選いかにも!という感じ。韓国文学のここ数年フェミニズムが熱い感じが、ちょうどよくエンタメになっていました。

 

「元カノがフェミニストに”なってしまった”」なんて聞くと、それはあなたが悪いことをしたのでは…?と思ってしまう私ですが、韓国のリアルってこんな感じなのかなと思うと、日本とそんなに変わらなくてみんな苦労しているんだなぁ、と思います。

 

海外文学は次点でミステリ2つ、

読書セラピスト (海外文学セレクション)…文章がいい。主人公がはっきりしない性格なのか、ダラダラ回顧していて流れは悪いところもあり。文章はいい。

自由研究には向かない殺人 (創元推理文庫)…『読書セラピスト』と反対に、主人公の歯切れがいい。現代っ子がITを駆使して町の数年前の難事件を解決する爽快感。高校生の青春モノなので夏におすすめしたい、けど、犬がつらい目に遭うので。。。

 

 

ここからノンフィクション。濃いです。

言葉を失ったあとで

上間さんと信田先生です。尊敬します。。。ふせん100枚くらい貼りながら読みました。

上述の『プリズン・サークル』についても詳しく出てきます。

ちょっとこれは説明ができないので…Amazonのレビューを読んできてください…。

殴った人は説明すべきだと思う。(P49)

あらゆる差別というものは、それらを見ないようにしたほうが平和だったということかもしれません。(P236)

「自己肯定感という言葉はね、私は使わないんですよ。自分で自分を肯定するとか自分で自分を好きになるとか、それは無理じゃないでしょうか。別の言葉で言えますか」(P253)

信田さんの引用ばかりになりましたが、『海をあげる』の上間さんだから聞き出せた詳細もあると思える対談です。はー、読み返そう。

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100枚も貼ってないかな?キリがないんですよ!

 

副読本として

を挙げたいところ。この4年間、私はこの本を待っていたのだと思う。これだけが読みたかったのかもしれない。

私の弱さの源泉はどこにあるのか。自分が弱いのであれば、とことんウィークポイントを探していけばいい。弱くて死にかけている自分は何を言いたいのか。「私の話を信じてほしい」たった、それだけだった。(p193)

往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ

artlabo.ocnk.net

こちらAmazonにない、文フリでご本人たちが手売りしていたり、オンラインで買えたりするタイプです。

え、滝口悠生が文フリでそこにいるの?すごい。

 

また、私はこの5月以降、植本一子さん関連の本を9冊くらい読みました。めっちゃハマってました。それでいて、この『ひとりになること~』が一番、植本さんの肝が据わってて、もういっそ爽快。

もちろんたくさんの厄介ごとに悩んでらっしゃるんですけど、なんか今までと違う感じがあります。それは多分、滝口さんに触発されている部分も大きいのではないでしょうか。

 

2通目にして「この往復書簡、出版しよう」と言い出す植本さんの、文章の価値に対する審美眼がすばらしくて勝手に感動しました。というくらい、滝口さんがかっとばしているので!

 

ご本人からBASEで買うこともできます。

往復書簡 ひとりになること 花をおくるよ | 石田商店

 

ノンフィクションの次点は

利他の本は去年も読みましたね。中島さんがこの分野の第一人者、という認識でいいのかな?

視点の話が面白かったんですが、説明できるほど理解していないかも。「やってきて、とどまる」といヤツです。悲しみがやってきて私にとどまっている。

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他にも

こちらもよかった。

 

あと、堀元見さんの2冊がおもしろかったです。『教養(インテリ)悪口本』と、『ビジネス書ベストセラーを100冊読んで分かった成功の黄金律』、どちらも真面目にふざけていて楽しい。

 

さて、ざっとご紹介しましたが、気になるものがあればぜひ。今回、笑えるものが多かったかも?

下半期も吐くほど読みましょう!

 

【過去記事】

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一木けいのおすすめ、というか全作品ご紹介コーナー

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(2022/12 更新)

1ミリの後悔もない、はずがない

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デビュー作!連作短編集です。ユイ、という女の子を巡って。

  • 西国疾走少女
  • ドライブスルーに行きたい
  • 潮時
  • 穴底の部屋
  • 千波万波

貧困状態&逃げ続ける母と娘二人、お姉さんの方が主人公「由井」で、中学生の頃から話が始まる。

・桐原と出会って恋をする「西国疾走少女」、

わたしにとって桐原は、いいことなどなにひとつないこの世界ではじめて得た宝で、生きているという実感そのものだった。(P28)

という恋の圧倒的さが描かれていて、こういう強めの幼い恋に憧れてしまう感触を持たされながらも、はさみこまれる小さなキツめのエピソードによって、「桐原がいない由井は無」であることを知らされる。

さらっと恋愛モノと読むには重い、短いのに極重。このテーマは後にまた短編集になってます。

そしてこれを最後に由井の語りは終わり。さみしい。

 

・大人になった由井の友達が由井を思い出す「ドライブスルーに行きたい」

この友達いい子なんだけど、由井とは壁を感じている感じ。由井がクラスで浮いているから、それなのに由井が堂々としているから。

それはそうと大人になった今、付き合っていた人には他に婚約者がいたし、中学時代の憧れの先輩と再会したらダサかった。

 

・由井を描写しながら圧倒的後悔を知る「潮時」

私はこれに一番びっくりしたんですけど、これの語り手、現在の由井の夫&中学の時に桐原に片思いをしていた女の子なんですよ。

普通そんな二人が交互に語らないでしょ。。。と思ったら、最後にぴたっとハマるところがあって、うわぁ絶望、となります。ここで由井と桐原の仲睦まじい様子が回想されるのも含めて。

 

・中学時代のスターと主婦の「穴底の部屋」

これ二番目にびっくりしたんですけど、ここで「ドライブスルーに行きたい」でちらっと出てきた中学の時の先輩が再登場。みんなから憧れられていたけど今や落ちぶれた男、と思いきや意外といいやつで、でも既婚主婦とのっぴきならない関係になっている。

けれどそれに救われているのはどちらか?

会話をしている。そう思って泣きそうになる。ばかにしないで知識を被せてこないでヤフートピックスの話題なんか持ち出さないでちゃんと最後まで聞いてくれる男。(P187)

↑ もうこれだけで、いい男である先輩。あー、先輩はちょっと本気っぽいよねぇ。

ドライブって愛だよね、という主題は、田舎に住んだことがある人には伝わりやすいと思います。どこにでも行こうよ。その「ドライブって愛だよね」主題が、由井→友達→先輩へとゆるくリレーされていき、時間を飛ばして、ここで主婦に断られることで、その幼さを突き付けられる構造が痛い。

 

・娘がすくすく育っていて嬉しい「千波万波」

ここで急に、由井の娘が語り手になります。

色々あったけど~、という感じで済まされて消化不良感がありつつ、最後にガッツリと揺り戻し。由井が苦労したからこそ、その娘が元気そうで、クラスの揉め事くらいしか悩みがないことが嬉しくなる倒錯感。

高校時代の由井を回想する近所の男の子も良い。乗り物は自由をくれて、文学は救いをくれる。

パパも桐原も娘も…あぁ人生ままならないね!となります。こんな終わり方、心臓が止まるじゃないか。

 

 

賞を取ったのは最初の一編「西国疾走少女」とのことですが、この一編だけで受賞したって、そりゃ審査員がすごい。

というかこれはやはり、あの賞からです。ハズレがないでおなじみの賞ですね!(窪美澄さん、彩瀬まるさんなど)

受賞の言葉がこちらです。けっこう面白いこと言っていますね?

女による女のためのR-18文学賞 | 新潮社

 

連作短編はもう飽きた、なんて思っていた時期が私にもありました。

うまい人はうまいよ!切り口や視点の選び方で良さが出るんですよね。

帯がすごいから読んで!椎名林檎にここまで言わせるとは。

椎名林檎と一木けいって歳が近いのですが、どちらも福岡出身なんですよ。同じ時期に女子高校生やってたんだなぁ~(私も)、天神にいたかな?と思うと楽しいですね(私が)

 

一木けいの書く福岡の海(っぽい描写)は、なんとなく東側のような気もしますが、どうでしょう?

愛を知らない

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高校生の僕には、同い年のいとこ・橙子がいる。同じクラスだ。橙子はいつも素行が悪いけど、あの優しいおばさん・芳子さんの子どもなんだから恵まれてるはずなのに、なんでだろう? クラスの人気者・ヤマオも橙子を気にかけているし、橙子はほんとに変なやつだ。ヤマオは橙子に音楽祭でソロを歌ってほしいって言うけど、嫌われ者の橙子にできるだろうか? 僕はピアノを弾くんだけど気が進まない。

 

…という「僕」目線から語られる、当事者すぎない傍観者すぎない、毒親モノ。長編です。

いや、絶妙な視点。ナチュラル失礼キャラである「僕」はいいとしても、あの人は、親戚として付き合うにはむしろ良い人なので「僕」には気が付けないことがたくさんあって、でもおかしなことに気が付き始める年ごろでもあるじゃないですか高校生。

そして呪縛が解け始める年齢でもありますよね。

 

ヤマオのキャラがとてもいい。あと、音楽が人を変えることがある、人の勇気になることがあるということを散りばめながら、けっこう深い毒で母娘。

でも根源が(設定が)自然発生でもないため(事故もあるし希望もあり)、カラッとしている気もする(虐待シーンはつらい)

 

何も知らなかった主人公が、柔軟な思想を持てるようになる過程が読み応えあり。

息がくるしい。逃げたい。

けれど感謝もしている。

僕は心の中で唱えた。

ぜんぶの感情を認めて、分けるんだ。引き出しに。

P247-248

あと個人的に、「恩にも時効はあっていい」という思想も好き。後味はよかったです。

 

全部ゆるせたらいいのに

短編集。アル中や父娘DVの描写があり、少し苦しいです。

  1. 愛に絶望してはいない
  2. 愛から生まれたこの子が愛しい
  3. 愛で選んできたはずだった
  4. 愛で放す

の4篇。

1-愛に絶望してはいない、は、赤ちゃんを育てている夫婦の話。

千映という女性がワンオペ育児をしながら、宇太郎という夫のアルコール依存っぷりを心配している。うわぁこの夫ヤバいな…という印象で話が進んでいく。恵という娘、かわいい。

けれど途中で、千映の父親がアル中であったこと、それを思い出すから千映の不安感が強いこと、学生時代からの知り合いである宇太郎はしっかり千映を見ていること、などがはっきりしてくると、全体の流れがふわっと変わる感覚がある。

 もしも、私が宇太郎に対してすばらしいと感じている半分は真実で、残りの信じることが難しいと感じる半分はわたしの生育環境による思い込みだとしたら。

(P48)

ここが、虐待やDVの被害者の、感情の持っていきどころの難しさを端的に表していて。罪深い話だよなぁ…と…。

 

あたしのほうがおかしいのかもしれない。

と考えてしまう人の生き苦しさと、冷静さを手に入れたいのにどうしても掴めない、あの感覚。

 

2-愛から生まれたこの子が愛しい、は、千映が小さかった頃の話。

2歳くらいという設定。両親と3人で、貧しくも幸せに暮らしている。母親からの視点で、父親が学者肌の青年だったこと、気ままに生きつつ博識であることが語られる。で、予定外の妊娠ではあったものの、千映が生まれてからは子煩悩である父。千映の教育のために父が就職を決める、希望のあるラスト。

 

3-愛で選んできたはずだった、は、千映が高校生の時の話。

2で就職した父親が…あまり社会生活には向いていなくて…。もともと研究者っぽい人って会社員するの難しいのか、と思うものの、2の流れを知っているから切ないね。

そして立派なアル中になっている。千映に暴力をふるう。

もともと2の頃から気難しい酒飲みではあったものの、事態がとても悪化している。必死に抗う千映の方が大人っぽく振る舞い、そのセリフがいくつも悲しい。千映の彼氏として宇太郎が登場、友達の名前も共通していて、1の伏線回収も。

 

吹奏楽や音楽の描写が美しいのに、父親は視点ごとどんどん狂っていく。この性格の歪んでいくさまを描けるのがすごいと思う。

 

4-愛で放す、は、1と同じ千映視点に戻る。1の数年後で、恵は6歳になっている。

父親は死んだ。宇太郎と仲良く生活できるようになった。今が安定しているからこそ、思い出してしまう色々な昔のこと。けれど父親は死んだ。ずっと酔っぱらっていた父は。

3の時点よりさらに壮絶になった父親の言動を思い出すことで話が進み、だいぶ辛い。しかし1から3まで読んできた読者は、違う視点も持ててしまう。千映も少し分かっている。でも放す。

手放すことと、愛することは矛盾しない。

(P205)

しかしアルコールは怖いね。

 

彩瀬まるさんの書評がこちらから読めます!

一木けい 『全部ゆるせたらいいのに』 | 新潮社

 

9月9日9時9分

私はこれを「みんなのつぶやき文学賞」で一票ささげたくらい、気に入ってはいるのですが、今回読み返そうとしたら辛すぎました。。。

 

帰国子女である主人公・蓮が高校になじめないながらも素直にのびのび生活しているところ、ある日一人の先輩に一目惚れのような状態に。けれどそれは「好きになってはいけない人」だった。蓮は初めて、大好きな家族に嘘をつくようになる。そして色々な因縁を回収しながら成長して…という話。

 

思春期の少女の成長物語であり、ロミジュリ状態の恋愛モノであり、家族との衝突を乗り越えるハートウォーミングであり、バンコクの異国情緒もあり、すごく表現の奥深い小説なんですが、

あらゆる二次加害のオンパレードです。

 

めちゃくちゃ勉強になります。外で二次加害を受けてきた主人公が、家に帰って無邪気に二次加害を行う。ある時は加害者に近づきすぎてむしろそっち側に入っちゃう。居るだけで人を傷つける存在になるのに、それでいて一番傷つく場所にいる。一番弱いのに。

いいですか世の中とはこういうふうにできているんですよ、と無理やり見せられる感じです。加害の連鎖とはこういうものですよ、と。

 

友達の話には少しだけ救われるんですが、いや重いな~、と思います。でも話はいいのよ。姉妹の葛藤モノでもあります。優しくて大好きな姉が、だいぶ不遇な状態にあります。

笑い飛ばされて、ひとっつも信じてもらえなかった。大袈裟だって、まるでおかしいのは私みたいな目で見られて。

(中略)

なんで気づけなかったんだろう。

(P128)

けれど真っすぐすぎる蓮は、姉さえ疑ってしまう。恋ゆえにね!しかも彼はいい人だし難しい。。。

母のセリフが悲しくて優しい。

自分が見たもの以外信じないのは悪いことじゃない。ほんとうかなって思ってしまうのも仕方ない。感情、というか反応だから。でもそれを言葉にする前に、すこし用心した方がいいかもしれない。誰かの気力を奪う可能性があるよ

(P135)

 

「自分が見たことないから」ってだけで、あらゆる異端を「そんなのありえないでしょ」って流すヤツ、マジでおるよね。

 

話の後半は一時期バンコクに戻ったり、勉強したりして、蓮も変わります。知識大事よほんと。ここで友達がめっちゃいい。

「問題は、そういう最小限のパワーで済む話し方だと、似たような経験をしたことのある人や、驚異的に察する力のある人にしか伝わらないってことなんだよね」

(P334)

被害を伝える言葉についての煩悶。沁みる。それでも

言葉は助けになるし、邪魔にもなる。それでも私たちは言葉を探す。

(P374)

 

トラウマ喚起注意ですが、まあ一木けい作品は全部そうだしね。さてこれ恋愛はどうなったのかな?

 

2022年の新刊『悪と無垢』

読みました…心細くなっちゃう系の毒親、サイコパス、不安な人生…などなどの連作短編集です。

そういうの大丈夫な人は、ホラー感覚で読めるかと思います。そしてちゃんと救いはあります。

 

そこでそう絡める!?!?って驚く繋げ方。窪美澄くらい連作の作り方がうまいです。

感想ツイートも貼っておきます!

 

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2021年下半期に読んだ中からベスト10を決めたって

はい、恒例のこちら!

2021年下半期の読了は103冊くらいだと思います。再読含み、漫画含まず。「2021年に私が読んだ」基準のため、刊行は古い本である場合があります。でもだいぶ新しめ!

 

今回は、紹介をエンタメ順にします!そして今回は海外文学が読めてなかったです…。『地上で僕らはつかの間きらめく』と『冬』を積んでいます。木原ファン。

まずはフィクションから。

タイムスリップしたら、また就職氷河期でした

なろう系か?ラノベか?と思わしきタイトルで、まじめにコメディです。

『結婚のためなら死んでもいい』の作者さんの新刊ですね。

同世代すぎて好き。あの頃を思い出して嫌い。

今35オーバーの人は読んでみたら面白いんじゃないでしょうか。この世代の女子を二人育てた我が母も面白がって読んでいました!

 

おれたちの歌をうたえ

ミステリ!この人初めて読みましたが骨太で良かった。

ハードボイルドですね。うーん、最初の方はとっつきにくいかもしれない(ハードボイルドすぎて)

しかし、いわゆる「犯人の述懐」をきちんとするラストなんですけど、その言い分が、『惑星のさみだれ』のラスト大決戦の二個前の小ネタと被っていて、私はそのオチがとても好きなんですよね…。私は本という物体を愛しているのではなく、文字を愛しているタイプなので、こういうのに弱い。

 

ていうか母親リクエストで借りてきたんですよ確か。テレビでやっていたんでしょうね。後にこちらも友人に勧めました。そして友人の母は『探し物は図書室まで』を勧めてくれました。母から母に繋げています。暇なんだもの。

 

アフター・サイレンス

久しぶりに本多さん読んだけど、文章がいいわ。

あらちょっと東野圭吾の新しめのやつとテーマ被ってるのね、と思いつつ読み進めていたら、だいぶ違う方へ進んでいってくれたので、結果そんなに被っていませんでしたね。

よくできた月9、みたいな印象です。そして文章がいい。本多さんは本当に文章がうまい。筋としてはエンタメです。ハートフル…かもしれない…。

 

9月9日9時9分

突き刺してくる系、一木けい。

恋愛がメインで主人公が高校生だからって、青春モノだと思ったか?残念でしたみんなで二次被害について考える時間です!という角度で(読み方が偏っている可能性は大いにあります)えぐってくる今回。

しかしメインは恋愛なので、前作に比べるとサラッとも読めると思います。これをサラッと読み飛ばせてしまう人もいるだろうからこその病理、みたいな絶望的な気分になるため、あらすじとか読んでみていけそうだったらオススメです。

 

前作が刺さった人でも、刺しジャンルが違うのでどうかな…(刺しジャンルという概念)、依存と家族、みたいなテーマは抑えめになったぶん、姉妹の確執がある人が読んだら憤死するのかもしれない。

 

新しい星

読み終わったの年明けだった気がするけど、2021年はこれを読まずに終われなかった。

直木賞ノミネート作でしたね。他の候補が強いので受賞はしませんでした。

ちょっと読みやすすぎたのかも?会話のテンポとか、今風なんですよ。今を捉えているものを書き続ける彩瀬さん。

人はこれを読んだ方がいいです。

 

ほんのこども

町屋良平が、最近、こわい。

すごいこと知っているんですね、この人。

何かしらスペシャルな本であることは間違いないので、挙げずにいられないんですけど、

フィクションを書くこと、読むこと、全部が嘘で、人のことを思うことが全部がぼうりょくてきだなんていったら、私たちはいったい何についておはなししたらいいの?

 

人はこれを読まなくても大丈夫ですが、混乱したい人は読んだらいいと思います。

 

 

さて、次点で千早茜『ひきなみ』、絲山秋子『御社のチャラ男』、青山美智子『お探し物は図書室まで』、です!明るい話が好きな人はこのへんを読んでください!(『ひきなみ』は微妙に暗いか?

 

 

ここからノンフィクション。

まとまらない言葉を生きる

もう紹介とかいらんやろ。要約なんてしないよ。

 

「利他」とは何か

この後にも出てくるけど、ほんともう本当は加害とか被害とかの話したくないよな!?みたいな気分になりますね。でもずっとするよ。心底私たちが逃げられないのはここからだよ、でもいつもじゃないよ。そんなんばっかりは読まないよ。

そこで「利他」です。

若松さん目当てに読んだんですが、意外に磯崎さんもよかった。

 

関連動画も~

youtu.be

 

家族と国家は共謀する サバイバルからレジスタンスへ

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せめて晴れた日に屋外で読みたい。

 

11月には信田さよ子と上間陽子の共著も出ましたね。買ってます。ちょっとずつ読みます。

闇の自己啓発

こちらも読了したのは年明けなんですけど、出版は上半期なので、ここに入れときます。評判よかったですよね。荒れていたとも言うかもですが、あれはパフォーマンスしている人の柄が悪すぎるため、破いた方を支持はできないです。単に面白い本です。

 

でもTwitterで「この本の想定読者は西野信者のアッパー層」みたいな言説があったりして…、それらも込みで、うん。

SF好きな人にはいいと思うんですけど、厭世的になってしまうのかもしれません。が、文章そのものが楽しい瞬間がめっちゃある。事実や想定ではなく、言葉によって救われよう。

文化資本とか教養について一家言(ていうか文句)がある人は、読みにくいのかもと思います。

参考資料として『天気の子』を見たり、サブカルが捗ります。年末にメンバーがコンテンツ地獄に出演していらっしゃいましたが、ダントツ面白かったです。

 

 

さて、グッときた古典は

です!

 

それではまた半年後!

 

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吉本ばなな『ムーンライト・シャドウ』映画化らしいので原作を再読した

(実は英訳で読んだこともある。あらすじ知ってるし読みやすくてギリ読めた)

 

最近、「あれが映画化されるから再読した」だけで数記事書けそうと思う。前の記事も。。。『君は永遠にそいつらより若い』も好きだよ!『鳩の撃退法』は積んでます。

 

さて、『ムーンライト・シャドウ』だ。

 

あらすじ少し

高校生の頃から付き合っている、さつきと等(ひとし)。等の弟の柊(ひいらぎ)の彼女・ゆみこも交えて、数年間いろいろありつつも、楽しく過ごしていた。けれどある日、ゆみこを乗せた等の車が事故に巻き込まれて二人は死んでしまう。

遺されたさつきと柊は、愚直にそれぞれの落ち込み方や回復方法を模索する。さつきがジョギングをしていると、橋でうららに出会う。

 

登場人物は3人(または5人)

さつき・主人公。等に鈴をあげた。等が死んでから眠れずにジョギングを始める。

柊・等の弟。兄と彼女をいっぺんに亡くし、彼女のセーラー服を着るようになる。

うらら・さつきが橋で出会った不思議な女性。奇跡を見るためにこの街に来た。

 

等・さっぱりとした性格で友達と家族思い。どことなく上品なところがある。

ゆみこ・テニスに明け暮れる少女。芯が強くて柊と仲良し、笑顔が可愛い。

 

さつきと柊の状態

二十歳前後で大事な人を亡くした二人の絶望が、さらっと書かれている。そんなに暗いような描写が多くはないんですが、

夜眠ることがなによりこわかった。というよりは、目覚める時のショックがものすごかった。はっと目覚めて自分の本当にいるところがわかる時の深い闇におびえた。

(P152)

そしてさつきは自分を痛めつけるようにも思える、早朝ジョギングを始めます。

 

私も柊もこの二ヶ月で、今までしたことのない表情をするようになった。それは失ってしまったものを考えまいと戦う表情だった。ふっと思い出して突然に孤独が押してくる闇の中に立っていると知らず知らずのうちにそういう顔になってしまうのだ。

(P162~163)

柊は、彼女の遺したセーラー服を着て登校して、同情票でモテたりしている。

 

いつかはここを抜ける日がやってくる、と本能的に知っていながらも、今が辛くてしょうがない!という感じ。事故に対する怒りや、自分の悲劇に酔うのでもなく、淡々と「乗り越えたい、けれどとてもきつい」という描写です。

事故から二ヶ月たった場面から始まるので、本当に悲しんでいた瞬間は過ぎていて、決別と再生の時期、という印象。

 

闖入者としての、うらら

そこに登場するのが、なんの関係もなさそうに見えるうらら。さつきと橋でばったり会います。ただ、何かを待っている様子。

うららのセリフがいいんですよね。

「風邪はね」(中略)「今がいちばんつらいんだよ。死ぬよりつらいかもね。でも、これ以上のつらさは多分ないんだよ。その人の限界は変わらないからよ。またくりかえし風邪ひいて、今と同じことがおそってくることはあるかもしんないけど、本人さえしっかりしてれば生涯ね、ない。そういう、しくみだから。」

(P186)

この物語が、悲劇ではなく再生に焦点を据えていることを、裏付けていく人物です。さつきだけでは心もとなかった、柊は危うい、そんな中で日常をやっとこさ運営していっているところに、強い闖入者として物語を支えてくれる。

 

けれど、彼女が何も抱えていない、というわけではない。

何かを探しに来ているのだから。

探しているということは、足りないということだ。それが揃わないと前に進みにくくなるような何かが。

うららはまだ橋のところにいた。横顔で川を見ていた。私は、驚いた。彼女が私の前にいた時とは別人の顔をしていたからだ。私は人間のそれほどきびしい表情を見たことがなかった。

(P158)

 

ところで、全体通して表情の描写が多いですね。これは良い役者さんで映像化したら、とてもよいものになりそう。

 

ラストのさつきの思想がすばらしい

映画の予告でもメインに取り上げられていますが、最後のさつきがいいんですよね。

ひとつのキャラバンが終わり、また次がはじまる。

(P200)

ラストの10行がすばらしいんですよ。この10行による読後感に、根強いファンが多いんだと思うんだ。

 

映画は?キャストがよさそう

moonlight-shadow-movie.com

予告だけでクるものがある…。

 

原作と違って、うららと柊がしっかり絡んでいる?というか柊も「月影現象」(原作では「七夕現象」)を見に来るのかな?そしたらセーラー服の奇跡はどうなる?

はー、小松奈々ぜったい良いと思う。

惜しむらくは、けっこう上映館が絞られているため、近所で観たいっていう人はキツイかもしれません。遠い…。

 

パンフレット情報です!短歌…!?

収録されている文庫

『ムーンライト・シャドウ』が収録されているのは、この『キッチン』の文庫です。

私が持っているの、平成10年6月初版!今回の引用はすべてこちらのページから。

文庫本『キッチン』書影

kindleにもなってます。

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『ドライブ・マイ・カー』映画が公開なので原作『女のいない男たち』を再読してみた。

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文庫だと表紙のデザインがだいぶ違いますね。

単行本は、表は『木野』のバー、裏は『ドライブ・マイ・カー』の黄色のサーブ900コンバーティブル、かと思います。

短編集です 

短編集でして、収録作品 

  • ドライブ・マイ・カー
  • イエスタデイ
  • 独立器官
  • シェエラザード
  • 木野
  • 女のいない男たち

の6つ。

表題作でもある『女のいない男たち』(ていうかタイトルひどい)については、話の筋みたいなものはなくて、まえがきの方が読みごたえがあるくらい。(作者がまえがきで、表題作について「即興的に書いた」って書いている、という事実の方が本筋よりも面白い) 

 

で、映画になるのが『ドライブ・マイ・カー』! 

 

あらすじ

妻が亡くなって10年ほどたつ俳優(家福)は、免停になったのでドライバー(みさき)を雇う。みさきは運転がうまくて寡黙。家福は問われるままに妻のこと、仕事である演技のこと、妻の浮気相手(高槻)と友人として交流していたことを話す。

個人的な読みどころ

今一緒にいる女に、今いない女(亡き妻)の話をするパターンのやつですね!その過程で妻の浮気相手の男性について感じたことも吐露する。車内という密室での会話劇、という感じ。

 

短編集の一つ目だからかもしれないけど、『UFOが釧路に降りる』に似た印象です(『神の子どもたちはみな踊る』収録)。

主題は一緒でしょう。『ドライブ〜』の方が年齢が上で、より具体的に深くなっている。で、年齢が上がったので男女間の関わり方が変わっている。

 

主題・・・もういない女(妻)、移動すること、新しく来た女(娘)、どんなに移動しても自分からは逃れられないこと。そして僕には分からないことがある。

 

私は家福が悩んでいるような「妻はなぜ浮気をしたのか、しかもこんなに凡庸な男と」という点には興味がないので(なんとなく分かるので、、、みさきも分かっただろうよ、、、)、

 

あっ、また移動の話だ!という印象が強いです。

『羊をめぐる冒険』からずっとやっている気もします。

「でも、あなたと一緒にいてももうどこにも行けないのよ」

↑ のセリフは元妻

 

どこかべつのところに移動してしまいそうなの。どこかわけのわからないところに

↑ のセリフは新しいガールフレンド


いや、その手の移動よりも村上春樹がよく書いている「本を読む前と本を読んだあとでは、自分の立っている位置が少し変わっている」という持説を、演劇でやってみた感じでしょうか?

チェーホフ好きだよねぇ!

 

 

そして移動しながら、分からないことを知りたいと願い、考え続ける。『ハナレイ・ベイ』もそうでしたね。

どのような場合にあっても、知は無知に勝るというのが彼の基本的な考え方であり、生きる姿勢だった。たとえどんな激しい苦痛がもたらされるにせよ、おれはそれを知らなければならない。知ることによってのみ、人は強くなることができるのだから。

『女のいない男たち』単行本P32 太線部は傍点

 

しかし世の中は分からないことばかりなのよ、、、全てを知ることなどできない、、、という世知辛さを感じます。

発表時の軽い揉め事

まえがきにも書いてありますが、地名で揉めてましたね。『ドライブ・マイ・カー』って地味な話なので、映画化と聞いて一番最初に思い出したのがこのことでした。

作品に地名が登場するということは名誉のようでいて、マナーが悪いとされたら嫌でしょうよ…。

村上春樹の新作短編集「タバコポイ捨て」表現で抗議受けた箇所はどうなった? | ハフポスト

 

でもそのおかげで十二滝町が再来なので、ファンには嬉しいかつ分かりやすい変更だったのではないでしょうか。(みさきの出身地は上十二滝町です) 

映画は?

気が付いてびっくりしたんですが、映画、3時間ありますね…?

50ページほどの短編一つで何をそんなに長時間?と思ったんですが、いくつか記事を読んでみるとその理由が分かりました。

 

中でも、好書好日のインタビューが面白かったです。みさき役の方。

book.asahi.com

本作は村上春樹の『女のいない男たち』の中に綴られている同名短編小説をもとに作られていますね。同作に収録されている「シェエラザード」「木野」のエピソードも投影されています。  

とのこと。

つまり三作品分の内容が盛り込まれているので長くなった、という一面がありそう。それにしても「シェエラザード」の、どのエピソードを絡めるつもりなのか、、、。(だいぶ珍妙な話なのに)

 

広島から北海道までドライブする、と書いてあるので、ロードムービー的な楽しみ方もできるのかしら。 

 

 

映画『ドライブ・マイ・カー』公式サイト (予告が始まると音が出ます!)

 

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2021上半期に読んだ中からベスト10冊ともう1冊

 

遅くなりましたが、上半期の読書まとめ記事です! 

上半期の読了は108冊だったけど、再読が多かったかも。歌集も多いので、冊数は増えましたね!

『アウアエイジ』をこの期間に2回読んだのはノーカンで、一年以上前に読んだ本の再読はカウントしてる。

 

それでは振り返り解説。「読んだ中から」なので数年前の本も入ってます。

フィクションからいってみよう。

唯一の海外文学『断絶』

藤井光さんという翻訳家の方が好きです。私はダニエル・アラルコンの2作がフェイバリットですが、『紙の民』や『タイガーズ・ワイフ』などの方が有名でしょうか?クレストブックスでよく見る系。

 

マジで日本語が美しいので、藤井光さんオススメです。私と同い年。

 

で、その藤井光さんが新作を訳しているぞー!ってことで手に取ったのが『断絶』。

タイムリーな疫病パンデミックでした。そしてゾンビ!

感傷ゾンビ!!

NYゾンビパンデミック文学、現実の方がだいぶマシかも、と思えて慰められました。 

 

パンデミックの関連記事:

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ではここから日本文学。

百年と一日 

百年と一日

百年と一日

Amazon

第1回(2020年)つぶやき文学賞 で国内篇の一位になっていたこちら。よかったです、良かった…。

タイトル『百年と一日』なんですが、短編集。

正直、とりとめのない感じの短編が脈絡なく並んでいて、目次で萌えます。目次こんなふうにするとか天才です。

 

ストーリーがどうこう、というものではなく、時間の概念がふっとびそうになります。藤原無雨『水と礫』をギュッと短くして柔らかくなったものがたくさん並んでいる感じです。

変わったり続いたりするものってあるよね、と遠くに昔に未来に思いを馳せてしまいます。 

つまらない住宅地のすべての家 

津村さんの新刊もよかった。王様のブランチで軽めにネタバレをされたけど、そんなことより文章描写サイコー!という感じです。

 

とある住宅街の路地、つきあたりまでの道の両側に住む、さまざまな人たち。

路地の群像。色々な人が住んでますよね住宅地って!

このまま犯罪に転ぶのか?転ばないのか?手に汗握る箇所がいくつか。(自然に「いくつか」あるのです、すごい) 

『ディス・イズ・ザ・デイ』からサッカー要素を取っただけのような味わい。

 

津村記久子の関連記事:

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夏物語 

川上未映子が、女の人生を一作品に全部盛りしてきた、辛い。

 

これを一気に書き表したいからこその『乳と卵』までの原点回帰だったんだろうと思います。最初の方は『乳と卵』そのままなので、かなり懐かしいです。

ただね…選ばずにはいられなかったけど、ラスト納得できないぞ私は!

 

さて、良いとか悪いとかはないですがやはり、みえたんは女版・村上春樹を目指すようですね。

似たようなこと書いてることあるし、さもありなん。仲良しっぽくて対談もノッてたし。昔からファンだったそうで。

その立ち位置を確保できる(そして積極的にしようとする)人は意外にいないと思うし、二人とも関西出身だし、まあその人に着いて行けば間違いはないしね…。

 

それが「面白い」かどうかはさておき、とは思う。私はあべちゃん推し。もしくは宮本さん。

選んでおいていまいち褒めきれない、私のこの鬱屈を感じてほしい。

旅する練習

今回、選ばせてもらった中で、日本文学で唯一の男性作家さん。

Twitter見ていたらこれが芥川賞獲っていないなんて信じられない(『推し、燃ゆ』が獲ったので…)。

あまりによかったので過去作も全部読みました。まとめて書いちゃった解説はこちら。これからも推します!

 

乗代雄介の関連記事: 

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草原のサーカス

みなさんご存知のとおり、私は彩瀬まる、前からとても好きなんですが、『森があふれる』もずば抜けてよかったんですが、個人的な好みとしてこちら、今までのナンバーワンかもしれない。

姉妹モノであり、企業モノ…働くことの話でもあり。仲良すぎず悪すぎず、似ていない二人。それぞれに着実に成功していく。しかし二人はどちらも間違えてしまい、それぞれに盛大に転落する。

 

罪を犯した姉が、留置所で痛切に思う、

視野を広く保たなければいけない。(P168) 

に心打たれてしまった。企業を相手にするときに、個人はあまりに無力で、それでも対抗できるとしたら自分の思考と冷静さしかないのだ。

そして、奔放だった妹は

正しさでなにかを選ぶのはだめなのかもしれない。(P181) 

と考える。人としての弱さを持ち、クリエイティブすぎて現世に馴染めないのに「相応の」「割り切った」振る舞いを強制(期待)されてしまう圧力に、それでも負けないとしたら自分の基準で何かを選ぶしかないのだ。

 

彩瀬まるの関連記事: 

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では、ここからノンフィクション!

校正のこころ 

以前、けいろーさんの記事

『校正のこころ』とは?正解のない“言葉”の世界を校正者の目線で考える - ぐるりみち。

を読んで以来、気になっていたけど紙の本が手に入らない状態でがっかり…。していましたが。

ありがとう復刊!

しかも増補改定!!

イベントも拝聴しました。3週連続! 

お話し相手の牟田さんのことも、ちょっと前から好きで追ってます。

 

実はこれから校正の仕事がしたいと思っていて、ご依頼いただいたりもしていて、タイムリーに読めて感無量でした。

現実のクリストファー・ロビン 瀬戸夏子ノート

瀬戸夏子が好きすぎる。

 

ちょっと私、ほんとに瀬戸夏子が好きすぎるんだけど…。

歌人て、かつ評論する人、という感じでしょうか。書くことがいちいち好き。少し歳下。Twitterにいない。

※記事を書いていた頃は見つけてませんでしたが、ツイキャス&スペース用のTwitterアカウントをお持ちでした、瀬戸夏子さん。

 

瀬戸夏子の参考記事:

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海をあげる

私のTwitterタイムラインで、3人くらいが「2020年のベスト」として挙げてらっしゃった『海をあげる』。そんなに言われたら手を伸ばしてしまう。

最近6刷いったそうです!

沖縄についてのエッセイ。沖縄在住の研究者さんが聞き取り調査をされていて、その顚末。その研究者さんの聞く姿勢が素晴らしいから、ほろほろと、繊細な話が零れ落ちてくる。

そこに住んでいない私たちが知ることができない、知ろうともしない問題たち。私たちはそれを見守ることしかできない……本当に?

 

ラスト、戦慄しました。 

針葉樹林

針葉樹林

針葉樹林

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知らないで手に取ったけど福岡の人らしいし、知り合いの知り合いっぽいし、Twitterでよくエゴサしてらっしゃるし、何を書くにも気まずいのであまり書いてないけど、よい詩集でした。こっそり布教しています。

 

なんだかすごい賞を獲っていたので、分かる!と思いました。何かで評されないと駄目だ!と思ってしまうレベル。

そして、 

入れ忘れた『Lilith』

Lilith

Lilith

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あっ、書肆侃侃房だ! 

古語で短歌でジェンダーをやる。素敵でした。心酔。

夜の庭に茉莉花、とほき海に泡 ひとはひとりで溺れゆくもの

 

幻獣のかたちを都市にさらしつつわが呼ぶまではそこに在れ、雲 

 

短歌の関連記事:

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ちなみに、『風にあたる』拾遺も購入しました。まだ終わりまで読めてない、というかもったいないのでゆっくり読んでます。

風にあたる拾遺 2010-2019 - 凧の糸 - BOOTH

でもこれ、ajiroで買えるのかも(在庫がまだあるかは分からないですが、入荷はしてました)

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さて、いろいろと大変な時期が続くかと思いますが、2021年下半期もせっせと読んで生きましょう! 

 

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瀬戸夏子を作った10冊(?) 初出*2016年2月フリーペーパー/『現実のクリストファー・ロビン~』より

(2022/2 追記)

瀬戸夏子の新刊(『はつなつみずうみ分光器』)を注文しつつ、やっと読み終わった違う本の話をします。

読み応えがあったのでぜひこちらみなさん読んでいただきたいのです。散逸してしまう運命にあった文章がたくさん集められているのでは?と思えて嬉しい。

え、だって同人誌とかフリーペーパーとか、電子化されて発売されることってそんなにないよね。つまり、本物を入手できなかったら読めないものですよね。一期一会。(「ほんのひとさじ」はAmazonで100円で売られているのでそれもすごい)

 

この本を企画してくれた人ありがとう。

 

そして私が取り上げたいのは、瀬戸夏子を作った10冊(より多い)。

分かる!と知らない…が交互に押し寄せるラインナップだったので、今後の読むべきメモとして残させてください。

 

※個人的メモを兼ねているため、本に出てきた順番とは違っています。

 

未読: 

誰…?不勉強で申し訳ない。日記ですね。本書みたいな構成かな?

 

実はクリスティーをぜんぜん通っていません。姉がハマっていたのを見ていただけで。近年『春にしてきみを離れ』を読んで戦慄しましたが、こちらは知らなかったです。

kindleで買ったので近々読みます! 

「メロドラマとして並ぶ」と、『ゼロ時間へ』の名前も挙がっていました。 

 

 

 『失われた時を求めて』には光文社新訳も出ていますが、指定されているのは ↑ 。

 

 

キルケゴールって名前だけ聞いたことある…。ちくま学芸文庫と白水社と角川文庫もあるけど、指定はこちら。出版年月調べてどれかを買いたいです。

 

 

 知らなかったので読みたい2冊。前者についてはその作家さん自体がお好きみたい。後者は句集。川柳ですね。

 

ここから既読:

取り上げられていたのは、「廃園の天使」シリーズの2巻である『ラギッド・ガール』の方です。でもいちおう前巻から読みます。日本のSFあまり読んでないのでこれを機に。

 

読み終わりました!すごかった…。

 

ラギッド・ガールの方は、前作の世界観を補完していく内容。。。かと思っていたら、切り口がすごい!

グラン・ヴァカンスはバーチャル世界のみで展開していましたよね。ラギット・ガールは「それを作った人」が出てきます。つまりリアル(フィクションですけど)

それがまた外でも揉めていて、だからこそ廃園の天使シリーズが始まったというメタ視点がありつつ、濃い。濃いですよ。

 

実は私も、三島由紀夫で何が好きかって、本当に正直に答えていいなら『美しい星』と『午後の曳航』です。

『美しい星』は映画にもなりましたよね(観ていない…)

いやもう、大学生の時に『美しい星』を読んだ時の衝撃はけっこう大きかったですマジで。 

 

あああ若木未生!! 

人の性癖をねじまげるやつ!!!

中学生でこれを読んだので私は高校でギターを弾いたしドラムセットに座ることに臆しない唯一の女子だったんだと思う。読んでよかったし好きだけど人生変えられてちょっと憎い(ドラムセットに座りさえしなければ結婚相手が変わっていた)。

高岡ファンではないはずなんだけど『AGE』はよかったよね…。

 

でもグラスハート(コバルト文庫)は姉が嫁に持って行ったので、我が家にはオーラバしかないんです。

幻冬舎コミックスで5冊か。。。買おうかな。。。

  

2年前に読んだと思う。すごく好きでした。

ロマンスでもあるんだろうけどロマンス部分が意味わからないよね、ぽかんとするよね、ねぇせめて手紙を読んでから来てほしいんだけど来てくれてありがとう!でも読まずに来るならもっと早く来て! 2000通とか書いちゃったじゃん!

 

瀬戸夏子さんはこの本に関連して「同じようにある意味で徹底的な反ミステリ」として私の大好きな 

も挙げていらっしゃいます。カポーティの方で間違いないです。

そして「共同体における殺人」というテーマについて、初期の舞城王太郎を挙げてます。初期というからには奈津川家サーガのことですよね。ちょっとそういう捉え方をしたことはなかった…読み直して出直してきます。 

 

最近『シンジケート』の新装版が出たとかで盛り上がっている穂村さん。

この『手紙魔まみ~』についてかなりの思い入れがあるらしき瀬戸さん。私もたぶん一回は読んだと思うんですけど、大人になってから読んだのでピンとこなかった感がある。

知らないうちに文庫になっていたので、再読したいです。

 

 

※この選書の内容は、単行本『現実のクリストファー・ロビン 瀬戸夏子ノート2009-2017』のP269~P271に詳しく載っています。

文章の初出は、2016年2月に行われた歌集『かわいい海とかわいくない海 end.』刊行フェア@紀伊國屋書店新宿本店、で配られたフリーペーパーとのことです。 

 

 

また、日記部分で触れられていた「選書フェアに選びたかったが品切れ、または入手困難」だった書籍たち(P283)

ジョージ・プリンプトン『トルーマン・カポーティ』

キャスリン・ハリソン『キス』

アニー・エルノー『シンプルな情熱』

ジャン・コクトー『ジャン・マレーへの手紙』

ヨシフ・ブロツキー『ヴェネツィア―水の迷宮の夢』

カーソン・マッカラーズ『結婚式のメンバー』

 

『結婚式のメンバー』を買いました!村上柴田翻訳堂のシリーズなんですね。第一作だそうです!思い入れがある作品なんでしょうね。村上春樹訳(解説も春樹)。

 

アニー・エルノー『シンプルな情熱』のことをツイキャスでも話されていたので、買いました。

「恋愛小説といえば?」みたいな文脈で、とても推していらっしゃいました。

 

終わった恋をはじめから終わりまで振り返る形式で、追体験をしています。そういう形式だからこその没頭感が強い!

サガンとか江國とか好きな人は絶対好きと思います。短くて読みやすいのでオススメしたいです。

当然ながら、ここでおこなう事実の列挙と記述の内には、アイロニーも自嘲もない。アイロニーや自嘲は、ある物事が自分にとって過去のものとなってしまってから、それを他人たちや自分自身に語るときの方法であって、その物事を体験している最中には用をなさない。(P38)

映画にもなってる?

 

さて、まとめてみましたがどうだったでしょうか。人の読書遍歴面白いですね~。

もりもりと読んで生きましょう! 

 

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